Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

文化ケインズ経済学の矛盾

2012-04-04 | 文化一般
FAZの経済面に面白い記事が出ていた。国内総生産に対する国の財政支出の歩合から、その中の更に文化予算の歩合を見て、内容と意味合いを吟味する新著を紹介している。

1870年当時のパウル・ルロワ・ボーリュウの説に予算の歩合を当時のフランスやイタリアの13%のハイアヴェレージの国に比べて合衆国などは一ケタ台であったことから、アドルフ・ヴァーグナーが説いた中産階級の中での富の再分配機能としての財政支出を見ると、その支出項目は増える一方で国の予算として一度計上されれば永遠に保障されて、増えることはあっても削除されることはない特徴を見る。

そうした時代の福祉社会の建設に平行して、財政支出は10%から50%を超えるようにうなぎのぼり一方となる。そしてその中の文化費用だけで、1975年には18億ユーロの予算規模が三十五年後の2010年には95億ユーロへと五倍へと膨張している。例えば、音楽学校は二倍になり、美術館は数は80年代からの三倍の数へと増えていて、オペラ劇場も84件に5000人の音楽家、3000人のコーラス、1300人のソリストと拡大の一方であった。しかし、文化行政に財政緊縮のしわ寄せが押し寄せるとするのが業界の声であり続ける。その言明をよき文化愛好家は信じている。

それでは、こうした支出が自由経済の法則に則って、市場の需要を反映するものであるかと言えば、そもそもアドルノの言うように、「気にいるものはもはや過去のもの」という大衆の消費傾向に左右される市場原理であるからこそ、こうした文化行政ではそうした法則が成り立たないことは明らかなのだ。 ― つまり顧客の満足度は下がる一方である。この点に関しては何度も繰り返すようにそもそもそうした市場法則が成り立たないから分野こそ重要なのである。

しかし消費者側からすれば、ヴァークナーの指輪四部作全四夜を200ユーロほどで堪能するのに如何に自ら納めた税金が使われているかを認識しておらず、そこにその価値に見合って支払う準備があるのかもしくは価値を見出すのかどうかの判断に迫られること無く、文化の実際の価値を量る機会を奪われているとされる。

当然のことながら、そうした機会の喪失は、所謂文化ケインズ経済の「財政援助としての投資が地域の雇用と成長をもたらす」とするセマンティックな同義性において試みられるとき、文化の需要者である大衆が民主的な過程で決定していく需要供給の関係とは矛盾しているとされる。つまり、財政援助の対象においても実際は、啓蒙された中産階級への国の庇護がそこに存在して、文化行政での財政拡大も上から下へと決定が下される事実に違いが無いからである ― 所謂行政官僚制の弊害であろう。

なるほど、そうした援助によって、ルイージ・ノーノの芸術もゲルハルト・リヒターの芸術もゲーテと同じように需要供給されるならば意味があるように見えるのだが、寧ろそうした市場格差を税金の返還によって生じる資金で個人個人が吟味して選択することで、実際の価値を量る機会を増やすことの方が文化的な価値があるのではないかとする主張である ― ありとあらゆる財政援助の反民主的な大問題点である。

なにやらいつも見聞きするような経済論の文化における展開であるが、従来から主張しているエンターティメントの市場原理への絶対の依存と、可能な限り市場における淘汰に影響を与えない文化政策と財政援助こそが、こうして中産階級の判断力の育成に繋がるとする見解として興味深く読んだ。



参照:
War gefällt, hat schon verloren, Rainer Hank, FAZ vom 26.3.2012
- Dieter Häselbach u.a.: Der Kulturinfarkt, von allem zu viel überall das Gleiche, Klaus Verlag
- Rainer Hank: Die Pleite-Republik, Wie der Schuldenstaat uns entmündigt und wie wir uns befreien können, Blessing Verlag
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