大塚実の取材日記

記事で書ききれなかったことなどを補足していこうと思ってます

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あかつき・記事の補足

2010年12月19日 01時38分38秒 | 宇宙
金星探査機「あかつき」に関して、JAXAで記者会見があったので取材してきた。記事はすでに書いてマイコミジャーナルに掲載されている。

【レポート】金星探査機「あかつき」は推進系の異常か - 原因が徐々に明らかに

今回、JAXAからは宇宙開発委員会の調査部会に提出する資料として、かなり詳しい情報が出てきた。いろいろと興味深いことが書いてあるので、ぜひ目を通してもらえればと思う。JAXAの以下のページからダウンロードできる。

「あかつき」の金星周回軌道投入失敗の状況について

本当は記事でもこの内容を詳しく紹介したかったのだが、今回の一連の「あかつき」記事では、私は「初心者にも分かりやすく、かつ詳しく」を特に心がけていたので、ちょっと範囲を超えているかと思って、深くは触れなかった。今までは、ある程度分かっている人向けに書いていたところがあって、基本的な説明などはかなり端折っていたのだけれど、はやぶさのおかげもあって、最近になって興味を持ってくれた人も多いようなので。

というわけで、記事には書かなかったことなどを、資料をもとに、ここで補足しておきたい。



各機器の配置。燃料と酸化剤を加圧するための高圧ヘリウムのタンクは、探査機の-X面に飛び出ている。XYZ軸で説明すると分かりにくいかもしれないが、「X軸周りに回転」などと言ったときには、どれがX軸か分かっていないと回転がイメージできない。

ちなみに、+Z面にハイゲインアンテナ、±Y面に太陽電池パドルがあるのは「はやぶさ」と同じだが、OMEはイオンエンジンと違って-Z面にある。イオンエンジンは「はやぶさ」の+X面だった。



前回、石井氏の手書きの図が公開されていたが、今回はきちんとした図が出てきた。

OMEは2液式スラスタなので、燃料と酸化剤のタンクが別々にある。それらをエンジンに供給するために、高圧ヘリウムで押し出す仕組みになっており、それが図の一番上にあるタンクだ。

ヘリウムタンクからの経路には、フィルターやらバルブやらが付いている。エンジンを噴射して燃料や酸化剤が減ってきても、このバルブを開閉して調整することで、推進剤のタンクの圧力はそれぞれ一定に保たれるようになっている。

一部でバルブがパラレルについているのは、故障のための冗長構成だ。壊れて開かなくなっても、もう一方が動作すれば問題ない。加えて、シリアルにもう1つバルブが付いているが、こちらでは壊れて閉じなくなった場合に対応している。開故障と閉故障の両方に備えて、シリアルとパラレルの冗長を組み合わせるのは一般的な方法である。

ちなみに、良く見ると燃料タンクだけ円が2重になっているが、これは実際にこんな感じに、燃料がタンクの内側のゴム風船のような入れ物に入っているからだ。宇宙空間では重力がないため、燃料が下にたまっていてくれない。それではタンクの中でチャプンチャプンと動いてしまってよろしくないので、このような方法が使われている。

一方、酸化剤タンクがこうなっていないのは、高分子膜が酸化剤で腐食してしまうからだ。そのため実際の運用では、2液式スラスタを噴射する前に、1液式スラスタを噴射して酸化剤を出口側に寄せるようなことをやっている(これをセトリングと呼ぶ)。ちなみに「はやぶさ」はスラスタが全て2液式だったためにこれができず、そのため酸化剤のタンクはちょっと変わったものになっている。

高圧ヘリウムが燃料側/酸化剤側に分岐してから、酸化剤タンク側にのみラッチングバルブが付いているのは、こういった構造の違いがあるために、特に酸化剤側では逆流の恐れが大きいからだ。燃料側は膜で分離されているので、シンプルな逆止弁が付いているだけだ。

今回、「あかつき」ではOME噴射中に燃料タンクの圧力低下が見られており、その原因の1つとして、この逆止弁の閉塞が疑われている。これは火星探査機「のぞみ」と同じもの(アメリカ製)が搭載されているが、「のぞみ」で不具合が出たのは酸化剤側のラッチングバルブであり、この逆止弁は問題なく動いていた。実績のある標準品でもあり、本当にこれが壊れたのかどうか、今のところは謎だ。あくまでも可能性の1つということだ。



OME噴射中には、リアクションホイールではなく、RCSによる姿勢制御が行われていた。「あかつき」のRCSとしては、23Nスラスタが8台(AT1~4/AB1~4)、3Nスラスタが4台(T1~4)搭載されており、OME噴射中には、このうち側面の4台(T1~4)と底面の4台(AB1~4)の計8台が使われることになっていたようだ。

右下の絵はOMEの構造。「あかつき」のOMEは従来のニオブ系合金ではなく、セラミック製のスラスタが採用されているが、それは燃焼室・スロート・ノズルスカートの部分である。今回のFTAではスロート・ノズル部分の破損も可能性としてあげられているが、直接的に観測する手法がないため、現時点では先ほどの逆止弁と同様に、可能性の1つに留まっている。

ちなみに、もし本当にセラミックスラスタが壊れていて、OMEの再使用が不可能であった場合には、RCSで代用はできるのだろうか。OMEの推力は500N。RCSの推力はそれよりも1桁小さいが、OMEと同じ面に23Nが4台付いており、合計の推力としては5分の1近い。より長時間噴射することで対応できないか…と思うのだが、実際にはOMEよりも効率が悪いために、燃料が足りなくなる恐れが強いようだ。一般的に、2液式に比べると、1液式のスラスタは効率が数割ほど悪い。早い時期に噴射が中断されたとは言え、燃料はすでに2割ほど消費されており、残量にそれほどの余裕はない。

そのときに使える手として、金星の大気を利用して減速するエアロブレーキングも理論的には考えられるが、エアロブレーキングは軌道制御に使った例はあっても、惑星の周回軌道投入に使った例はまだない。中村プロマネによれば「エアロブレーキングが難しいのは、大気の状態(膨張具合など)が日によって変わるので予測が難しいから。検討はもちろんするだろうが、そこで金星に突っ込んで落ちてしまう危険性をとるかどうか」と慎重な構え。

中村プロマネは理学側なので、工学側からは別の意見もあるかもしれないが、「探査機が生きてさえいれば、工学的にも理学的にも、それだけいろいろなデータが取れる。何があっても長生きはして欲しい」と話す。リスクを取るか、安全に行くか。現時点ではトラブルの原因が判明しておらず、あくまでも「OMEが使えない」という仮定の上での話ではあるが、場合によっては6年後の金星再接近で周回軌道投入は諦め、フライバイによる観測に切り替えるという判断もありそうだ。

長くなったので、気が向けば次回に続く。

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