日々・from an architect

歩き、撮り、読み、創り、聴き、飲み、食い、語り合い、考えたことを書き留めてみます。

白い箱の魅力「モダン建築の夢」展とDOCOMOMO20選展

2006-11-11 10:16:40 | 建築・風景

10月の22日、札幌旧知事公舎の広大な庭に隣接して建つ北海道立「三岸好太郎美術館」を訪ねた。「モダン建築夢」展という素敵なネーミングの展覧会が開催されており、6年前に鎌倉の近代美術館で開催した「DOCOMOMO20選展」が巡回・併催されているからだ。
この美術館で建築展を開催するのは始めての試みだというが、岡田新一の設計した大きな窓によって外部に開かれ、複雑な壁面を持つこの難しい空間をうまく使いこなした展示構成は素晴らしい。

三岸好太郎は、バウハウス留学から帰国した建築家山脇巌の協力を得ながら自分のアトリエの設計に取り組んだが、竣工直前の1934年に亡くなった。しかし「私は建築家になるべきだった」というほど設計に没頭したアトリエは、日本のモダニズムの基点としての位置づけを得たと言っても良い魅力的な空間を持って東京鷺宮に建っている。吹き抜けに取り付けられた鉄による螺旋階段はよく知られているが、その姿は展示されているこの展覧会にあわせて撮った写真家清水襄さんの写真によってもうかがうことが出来る。

分離派の堀口捨巳、石本喜久治、山田守や土浦亀城などの作品の図面や模型、スケッチや写真などの資料も興味深く、正しく「モダン建築の夢」だ。
文献採録として同時代のバウハウスに関する作家や資料と三岸好太郎の作品、筆彩素描集「蝶と貝殻」のローマ字と蝶と貝殻のスケッチで構成されたモダンの夢に満ちた表紙や、「飛ぶ蝶」の絵と鉄で作った額縁などの忘れがたい作品を見ることもできる。

この展覧会は担当した髯男、学芸員穂積さんの「夢」の実現なのだと思った。氏の想いに満ちている。
この日は僕を招いてくれた札幌建築デザイン専門学校の諸澤先生と30名ほどの学生と共に訪れたのだが、作品を紹介してくれる穂積さんの熱のこもった言葉に皆聞き入ってしまった。僕が思わず身を乗り出したのは、ヨゼフ・ハルトヴィッヒのチェス・セット。積み木のようなシンプルなコマが、動ける方向を示した形態になっていて、装飾を廃して機能に目覚めたと言う穂積さんのユーモラスな解説が始まったときだ。

僕はいやあかなわないなあと言いながら、穂積さんの後、DOCOMOMOについて説明し、20選の紹介をした。学生が真摯に展示に見入っているのがうれしい。時折僕に質問する彼らの感性に驚いたりする。僕は彼らに触発されて思いがけない発見を得たりした。
改めて言うこともないが建築は面白い。そしてことに分離派の、つまり1920年から30年にかけての大正ロマンっぽい姿に魅せられてしまう。そしてその魅力が20選に引き継がれていくような気がしてくるのだ。何故分離派なのか。僕にとっては新しい課題だ。

僕は穂積さんから連絡を貰い、この展覧会の展示資料収集の相談に乗り、カタログに掲載する20選の写真のうちの14点と、日本のモダン建築断章というページの写真を提供したりして協力できた。
穂積さんは建築の知識には疎いと謙遜したが,いやどうして。氏は20選の紹介文にこう書いている。余りにも見事で成る程と考えさせられてしまったので採録させていただく。

『此処に選ばれている建物には、必ずしも「有名な」とか「壮麗な」とかではなく、近代的な革新性が重要視されています。すなわち、近代における建築学的な問題と回答の道筋を示し、時代を見直す作品なのです。そういう意味でそれは「文化遺産」と呼ぶよりも、私たちの生きる現代に直結した課題なのだと言えるのでしょう。』

そして僕が社会に伝えたいことを言い当ててくれる。

『「白い箱のような」と称されるモダニズム建築は、その装飾性の欠如により、時に価値を矮小化されることもありますが、改めてその多様性と豊穣さを振り返ることで私たちの生きる現代を捉えなおすことが出来るのです』

この展覧会はあと一ヶ月、12月10日まで開催されている。


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2 コメント

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本当に有難うございました (xwing)
2006-11-14 11:50:47
いつもいつも、本当にお世話になり有難うございます。自分のサイトにpenkou師匠と学生の交流の写真をUPしようか迷っているところです。(たまたま学生はパワーポイントを見ている為、全員顔は映らないのですが、師匠の姿が正面からですので思案中なのです。)
今回の一連の御指導で、建築に対し志を大きくした学生が沢山おります。更に精進したいと思います。

また、穂積さんにも大変お世話になり感謝の念に絶えません。素晴しい解説で本当に皆、勉強になりました。
開催中にまた訪れたいと思っております。なにせ札幌初のDOCOMOMO展ですから。
嬉しいことです (penkou)
2006-11-14 19:40:00
どうぞ遠慮なくUPしてください。若々しく写っているといいんですけどね!
「建築に対し志を大きくした学生さんが沢山いる」というコメントは、望外の喜びです。皆さんに宜しくお伝えください。

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