New York研修で人生変わった弁理士の日記

NYの巨大法律事務所で研修生活を送った日本国弁理士の日々の記録。[真面目な弁理士のNY研修生活]から改題。

ついに終結

2007年11月09日 | インクカートリッジ事件
「キヤノン」が、オフィス用品販売会社「リサイクル・アシスト」にリサイクルしたインクカートリッジの販売禁止などを求めた訴訟の上告審判決が8日、ついに最高裁第1小法廷でありました。判決において、横尾和子裁判長は、特許権侵害を認めて販売禁止などを命じた2審・知財高裁判決を支持し、アシスト社の上告を棄却し、キヤノンの勝訴が確定しました。

結果的に、非常にまっとうな結論が出ましたが、それは、キヤノンが出願し登録を受けた特許明細書の特許請求の範囲をじっくり読んだからそう思うのであって、あの請求項1と10が異なる表現になっていれば、違う結果になっていたと思います。

今回は、インクカートリッジを洗って、もう一度インクを充填する行為によって、
特許発明の本質部分が再構成されると言えるような表現が請求の範囲に
含まれていることを条件として初めて侵害が成立したのです。

具体的には、
圧接部の界面の毛管力が第1及び第2の負圧発生部材の毛管力より高く,かつ,液体収納容器の姿勢によらずに圧接部の界面全体が液体を保持可能な量の液体が負圧発生部材収納室内に充填されている
という条件が本質部分とみなされました。

すばらしい特許出願があって初めて得ることのできた勝利といえるでしょう。

一方で、この判決に基づいて、リサイクル品は全て特許侵害と考えるのは、
あまりに短絡的であると思います。

インクジェットカートリッジ事件-最高裁への上告-

2006年02月22日 | インクカートリッジ事件
最高裁判所への上告が行われたようですね。

最高裁ではどのような判断がなされるのでしょうか?
非常に気になります。

何度も知財高裁の判決を読みましたが、
「第3 当裁判所の判断」から後のくだりは、
消尽論についてのエキスたっぷりで、
噛めば噛むほど味が染み出るスルメのようです。

消尽の条件、リサイクルとの関係、方法発明の消尽、
そして国際消尽にいたるまで、あらゆる論点で、
踏み込んだ意見が述べられています。

おそらく、知財高裁の裁判官の方々は、
本当に長い時間と労力を懸けて
判決の構成を練ったに違いありません。
頭が下がる思いです。

最高裁において、上告が棄却され、
知財高裁の見解が維持された場合、
今後、バイブルのように用いられることは、
間違いないでしょう。

今のうちから自分の体に染み込ませて
おきたいと思います。

インクカートリッジ事件VI-2つの類型の意味-

2006年02月08日 | インクカートリッジ事件


平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件
について、再度、じっくりと判決文を読み返してみました。

そこで気になった点が1つあります。

判決では、
「修理」か「生産」かという判別方法によって、
特許権侵害の成否を判断するという手法を是認できない、
といっています。

しかし、その理由は、「生産」という言葉を使うと、
「特許製品に物理的な変更が加えられない場合に」
正確な判断ができなくなるからです。

「生産」という言葉そのもののイメージや、
特許法2条3項における「生産」に引きずられて、
本来の消尽論の趣旨に沿った判断ができない、
「生産」という言葉だけが一人歩きをしてしまうのは避けたい
ということだと思います。

消尽の判断に「生産」という言葉は用いたくない。
そこで、その代わりになる判定基準を持ち込んだのだと思います。

それが、判決内で第1類型と第2類型と呼ばれているものです。
これらの類型は、一般的な「生産」を含む広い概念だと思います。

この観点から行くと、
第1類型は、製品として一旦寿命を終えていることを条件とし、
第2類型は、特許発明では無いものになってからの、変形による
特許発明の再構築を条件としています。

つまり、これら2つの類型は、
「修理」と「生産」という基準と全く異なる新たな基準ではなく、
従来の「修理」と「生産」との間にあるべきであった境界線を、
修理と生産という言葉を使わずに定義しただけ
のように思います。

ある米国特許弁護士には、
「今回の判決により、repairとreconstructionという
明確な判断基準が無くなり、それらがmixtureされたように感じる」
と言われましたが、
僕はそうではないと思います。

むしろ、
日本型の「修理(repair)」と「生産(manufacturing)」から
米国型の「repair」と「reconstruction(再構築)」に近づいた基準
といえるのではないでしょうか。

その証拠に、判決文では、構成Hと構成Kという、
クレーム中、もっとも重要な二つの構成が、
インクの完全な消費と共に消滅していることを強調しています。

つまり、再生メーカーが集めた時点で、
そのカートリッジは、特許発明を含まないものに
なっているのです。

かつ、これらの構成Hと構成Kは、
インクの再充填によって再び構築される構成です。

したがって、再生品メーカーの行為は、
特許発明ではないものを特許発明にする行為、
つまり、特許発明を文字通り再構築(reconstruct)する行為
となっているのです。

つまり、今回の件は、

インクの消費と共に発明の構成要件が消滅し、
再充填によって発明が再構築される、


という、極めて特殊なクレームに基づき、緻密に
考え抜かれた判決ということができます。

従って、米国内でも、再生品メーカーのこの行為は、
reconstructionと判断されるのではないでしょうか?

深く考えるにつれ、今回の判決は、実は、
オリジナルメーカーの薄氷の勝利だったのではないか
と思えてきました。

この基準によって恩恵を受けるクレームを書こうと思っても、
そうそう簡単ではない気がします。

弁理士として悩みは深まるばかりです。

インクカートリッジ事件V-米国弁護士の反応-

2006年02月08日 | インクカートリッジ事件
今日、事務所にいる米国特許弁護士の中でも、
最も日本国特許法や日本での事件に精通している人に、
今回のインクカートリッジ事件について感想を求めました。

しかし、結論としては、
「感想を言い合ってもしょうがない。
これは新しく作られた基準なんだ。
今後、この基準に基づいて判断すればよいだけだ。」
ということでした。

今後はこの基準を土台に判例が積み重ねられるだろうから、
どう感じるかではなくて、どのようにこの基準を
自分のものにするか、が肝心だということを言われました。

確かにその通りですね。判決はでたのだから、
それを批判したり賞賛したりするよりも、
自分の仕事にどう生かすかが大事だということです。

実質的には、興味本位で質問にいって、
怒られたって感じです。

しょぼん。

そこで、さらに、U.S.で同じ訴訟が起きたら
どうなるか質問してみました。

答えは、同様にオリジナルメーカーが勝つだろうと
言うことでした。

でも、その理由は全く異なります。U.S.では、
国際消尽論が認められていないからです。

つまり、日本で作られ、販売された製品は、
その時点において消尽してもU.S.に輸入された時点で、
再度、U.S.特許法上での侵害を問えるのです。

この考えは2001年8月21日に下されたCAFC判決
Jazz Photo Corp. v. ITC, 264 F.3d 1094 (Fed. Cir. 2001)
に基づきます。

なお、日本国においては、BBS事件最高裁判決によって、
一定の要件のもと国際消尽が認められています。

しかし、米国プリンタメーカーが米国内で販売したカートリッジを
再生品メーカーが再生して販売した場合はどうでしょう?

今後、米国でも論議が巻き起こりそうです。

インクカートリッジ事件IV-ネット上の意見-

2006年02月07日 | インクカートリッジ事件
あるサイトからトラックバックしていただいたので、
そのブログを訪れてみたのですが、
そこにはたくさんのリンクが貼ってあって、
今回のインクカートリッジ事件について、
書かれたブログが本当に多いことに驚きました。

改めて、今回の判決の影響の大きさを感じます。

でも、いくつか読んでみると、すごい勘違いというか、
間違った先入観があるようなので、
ちょっと指摘してみましょう。

1.カートリッジの再利用は、確かに「リサイクル」だけど、
それが環境にいいとは限らない。


リサイクルといえば、環境保護だと直結する人もいるようですが、
リサイクルするよりも、廃棄して作り直したほうが、
環境の保護になる場合は多々あります。

リサイクルするにも、当然エネルギーが必要になるからです。

「リサイクルすべし!」って叫ぶ前に、それがどの程度環境に
いいのか、あるいは悪いのか、冷静に評価する必要があります。

簡単に言うと、安価で粗悪なインクが
デリケートなプリンタ本体の寿命を縮めて、
結果的に廃棄物が増えるかもしれませんし、
或いはカートリッジを中国や台湾で集めて、
日本に輸入するために、消費されるエネルギー(コストではなく)
が、新たに製品を作り出すよりも大きいかもしれません。

それから、今回の判決は、「リサイクル業者を締め出すものだ」
という人もいますが、そうではありません。
どうしたら特許侵害で、どうしたらそうでないのか
基準が示されたわけですから、逆に参入が容易になります。

今回勝訴した大手メーカーにとっても、諸刃の剣になると思います。

また、特に環境問題に興味のある人は、
環境にいいのか悪いのかを、製品単位ではなく、会社単位で、
判断したほうがいいと思います。

日本の大手メーカーは、概して環境問題に神経質です。
環境問題を疎かにすることが、どれほど自分達のイメージを
傷つけるのか良く分かっています。

もっと突っ込んで言うと、今回の控訴人である大手メーカーが、
「損害賠償請求」をしていない意味を考えれば、
決してリサイクルメーカーそのものをつぶそうとしている
訳ではなく、自社で開発した技術を大切にしようとしている
だけだということが分かるはずです。

2.特許法と価格とは無関係

純正インクが高いから、今回の判決は不当みたいな議論は、
明らかにおかしいでしょう。
判決文には、そのコストについても触れられていますが、
価格と判決自体には何の関連性もありません。

純正インクが1000円なら特許侵害じゃなくて、
300円なら特許侵害だ、なんてことになったら、
それこそ特許法の存在意義が危ぶまれます。

そもそも、プリンタ本体価格に比して、インク価格の割合が
大きいと感じるのは、「消耗品は安いもの」という
勝手な先入観があるからでしょう。

でも、例えば、髭剃りの替え刃、電動歯ブラシなど
他にも消耗品が高い製品はいくらもあります。

そして、実はこれらの製品は、その消耗品の部分こそが、
その製品のキモであり、技術の結晶であって、
プリント用紙や電池やシャープペンシルの芯などと
同列視すべきではないのです。

僕は、仕事柄、プリンタの技術にも相当詳しいですが、
それでも、最近のインクジェットプリンタの画質には驚かされます。
15年前の人が見たら、魔法の箱だと信じて疑わないでしょう。

あそこまでの画質を得るには、一般人は想像もできないほどの精度で、
インクの濃度や吐出量や渇き具合を制御しなければなりません。

そのため、インク自体もマジックなんかに入っている
ただのインクとは別次元のものですし、
カートリッジも、当然ただの穴の開いた容器ではありません。

実はインクも含めたカートリッジの性能こそが、画質に直結するのです。

だから、僕の感覚では、プリンタに比して、
インクが高いのも、あたりまえだと思います。

そもそも、日本メーカーの製品は、品質に比較して安すぎます。
消費者は、実は気づかないうちに身分不相応な品質の製品を
当然のように手にしているのです。

技術の進歩に、ユーザー心理がついていけてないのかもしれません。

3.議論の方向性
僕は、日本の技術力に誇りを持っていますし、今後も日本の技術が
世界に誇れるものでありつづけて欲しいと思っています。

インクを安く買いたいっていう、目先の利益に惑わされないで、
どういう考え方でいれば、より日本全体の利益になるのかという
大局的な見方をして欲しいと思います。

安易なアンチパテントの考え方は、技術大国にとって、
マイナスにしか働かないと思います。



NYで、一日に平均一人の日本人と会うか会わないかという
生活をしていると、「マイノリティ」の寂しさを身にしみて感じます。

でも、ここにくる観光客の90パーセント以上が
日本製のデジカメを持っているのを見ると、
「日本もすごい。俺も頑張ろう。」って気持ちになるのです。

日本人は、自国の技術を守ろうという意識をもっと持って欲しい。

そして、もっともっともっと愛国心を持って欲しい。

そう思います。

インクカートリッジ事件III-米国での類似事件-

2006年02月03日 | インクカートリッジ事件
先日の日本でのインクカートリッジ事件を
要約して事務所で回覧したのですが、
そのお返しに同僚の米国弁護士から、アメリカでの
インクカートリッジ事件について教えてもらいました。

1997/8/12にCAFC判決がでた
HEWLETT-PACKARD(HP)
v.
Repeat-O-Type STENCIL MANUFACTURING(ROT)
です。
 
この事件でHPは12件もの特許権を武器に、ROTを訴えたのですが、
reconstructionというよりrepairであるから、
侵害にあたらないとされ、敗訴しています。

しかし、よく判決文を読むと、今回の日本のケースとは
かなり違うようです。なぜなら、ROTは、再充填不可能に設計された
HPの新品のインクジェットカートリッジを
正当なルートで買い集め、再充填可能に作り変えて売っていたからです。

使用済みのカートリッジではなく、新品のカートリッジを
モディファイしたということです(そのモディファイ方法で
特許を取得しています)。

これは、特許製品たる車を正規のルートで購入して、
自分で開発したパーツを加えて、よりかっこよくして
売っているのと同じで、特許は完全に消尽していることに
特に議論の余地はないように思います。

でも、これが、使用済みの空のカートリッジを回収して、
改良+再充填して販売していたら、逆の判決がでたのかもしれません。

ただ、僕の知る限り、こちらの人たちは、
なんでも使い切ったらすぐ捨ててしまうので、
空のカートリッジを回収するなんてことは
少なくとも米国内ではできない気もします。

インクカートリッジ事件II-消尽論の再考-

2006年02月02日 | インクカートリッジ事件
さて、再生品の判決がでたので、ついでに消尽論に対する、
僕自身の考えを改めて整理したいと思います。

まず、消尽論とは何かというところから出発しましょう。

消尽論は、原則ではありません。これを裏付ける特許法上の
規定はどこにもありません。

原則は、あくまでも、特許法68条、「特許権者は、業として
特許発明の実施をする権利を専有する。」です。そして、
正当な権原なき第三者による業としての実施は侵害となります。

ところが、この原則を貫くと、特許権者や実施権者から
特許製品を正当に購入した者までが、
その実施を制限されることになります。

例えば、特許製品を販売する小売業者が、
いちいち、そこに含まれる特許発明を調べて、
特許権者にライセンスを供与してもらってからでなければ、
販売をできないなんてことになります。

そこで、流通の自由を確保するという目的のもと、
一旦、特許権者等が譲渡した製品の再譲渡や使用などについては、
例外的に侵害の対象外とする考え方が現れました。

これが消尽論です。

言い換えれば、消尽論と呼ばれる理論は、
正当な取引者による特許製品の実施行為(特許法2条3項)のうち、
「生産」以外を例外的に認めるものです。

さて、ここで、今回の知財高裁判決(平成17(ネ)10021)
を改めて眺めてみると、

特許製品が本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に
再使用又は再生利用がされた場合
と、
第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する
部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合

の2つの場合には特許権は消尽しないという
理論をとっています。

でも、耐用期間内であって本質的変更がなされるまでは
一旦特許権が消尽しているわけですから、
この2つの類型では「特許権が消尽しない」というより、
一旦消尽した特許権が復活するということに
なると思います。

こうなると、販売により特許権が
「消し尽くされたり」、「用い尽くされたり」
するというイメージとはちょっと違ってくる
のではないでしょうか。

それよりも、特許権者等の販売により、
「生産」以外の実施を許諾対象とする、
限定的実施権が発生し、
製品自体に付帯するとイメージした方が
自然ではないでしょうか。

そして、この限定的実施権が「オイル」のように
特許製品にまとわりついて、その流通がスムーズになるという
イメージはどうでしょうか。

さらに、ここでいう限定的実施権は、
法定通常実施権のように、特許権者の意思によらずに発生し、
製品と切り離して譲渡することはできない性格のもの
と考えれば、なんら問題は無いように思います。

こう考えると、正当な購入者は、法定通常実施権者等と同様に、
この限定的実施権を元に、特許権者に対して、
一定条件下で抗弁を行うことができることになり、
非常にすっきりするように思います。。

特許製品が本来の寿命を終えたり、発明の本質的部分に
作用する程度の変更が加えられたりした場合には、
特許製品に付帯していた「オイル」(限定的実施権)
が剥がれ落ちるとイメージすることができます。

このイメージは、完全に僕のオリジナルなので、
なんら責任をもてませんが、こう考えると、
なんとなく今回の判決がクリアーに
理解できるように思います。

ちなみに、消尽理論は、アメリカではなんと1873年にすでに
判決に現れています(Adams v. Burke, 84 US453)。
ものの本によるとAdams Doctrineとして
米国実務家の間に定着してるようですが、
僕の周りの米国特許弁護士はAdams Doctrineと
聞いても誰もピンとこないようです。。

Exhaustion Doctrineといったほうが
分かるみたいですね。

ただし、事務所の偉い特許弁護士に聞くと、
消尽(exhaust)するのは特許(patent)ではなく
製品(product)なんだと念を押されました。
製品一つ一つに、特許による保護(殻みたいなもの)
がくっついていて、販売と同時に殻が割れる
というイメージなのかもしれません。

インクカートリッジ事件I-判決文まとめ-

2006年02月01日 | インクカートリッジ事件



 昨日、平成18年1月31日、 知財高裁 平成17(ネ)10021 特許権 民事訴訟事件(平成17年(ネ)第10021号 特許権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第8557号))の判決が出ました。全文は、現在、ここにあります。ちなみに、地裁の判決はここです。

 これは、知財高裁判決であって、最高裁判決ではありませんが、篠原勝美裁判長がかなり踏み込んだ意見を述べられており、今後、消尽の議論をする上で非常に意味のある判決だと思います。

 まず、この判決から読み取れる消尽の判断基準をまとめると、以下のようになります。

 <原則>正当権利者が日本国内において特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや特許権者は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等に対し,特許権に基づく差止請求権等を行使することができない(BBS事件最高裁判決参照)。
 <例外>上記原則の例外として以下の2つの類型がある。いずれかの場合、特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解する。
 第1類型:特許製品が本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合   
 第2類型:第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合

 上記の判断基準に拠れば、被控訴人のリサイクル品は、耐用期間を経過したものではないので、第1類型には当てはまらない、一方、そのリサイクル品は、インクを使い終えたインクタンクに穴を開けて、インクを再充填しており、特許発明たるインクタンクの本質的部分を構成する部材の一部を加工するものであるから、第2類型に当てはまる、よって特許権は消尽しない、と判断されました。結果として、被控訴人のリサイクル製品は、特許権の侵害を構成するため、そのようなインクタンクを輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならないということです。被控訴人が所有するインクタンクの廃棄命令も下されています。

 なお、本判決では、「修理」か「再生産」かで消尽を判断する、従来の基準を否定しています。

 さてここで、この判決に対する僕の個人的な感想をいわせてもらうと、「やっぱり」という感じです。地裁では、原告側がちょっと油断していたのかな、と思います。おそらく最高裁でひっくり返ることは無いでしょう。

 ただし、控訴人による特許権のとり方が良かったからこのような結果になっただけで、常にリサイクル品がオリジナル製品の特許を侵害するわけではありません。

 ましてや、リサイクル品の輸入販売が全て違法というわけでは全くありません

 逆に上記基準によれば、オリジナル製品の耐用期間が経過しておらず、かつ、発明の本質的部分に変更を加えていなければ、特許は消尽中と認められ、リサイクル品を自由に実施できる可能性があります。

 今後は、リサイクル業者が、特許発明の本質部分を変更しないようにインクをリフィルして、侵害を免れようとするでしょう。一方、オリジナルメーカーは、どのようなリフィル方法でも侵害となるような本質部分を有する特許出願を行うでしょう。

 例えば、カートリッジ単独のクレーム以外に、インクを含めたインク製品のクレームや、インクの充填方法のクレームなどを作成するのもいいかもしれません。或いは、カートリッジに穴を開けると発明の本質的な効果が損なわれる旨を実施形態中に記載するのも有効だと思います。

 我々弁理士は、消耗品などの特許出願をする際に、あらゆる再利用の形態を想定して、様々な本質的要素を有するクレームを作成するよう心がけなければならないということです。

 ともあれ、被告人は最高裁に上告する予定とのことですので、今後の展開に注目ですね。