マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【官能小説】『癒しの館』〜変態マッサージ店〜

2012-07-08 07:27:01 | 日記
「すみません、またあのお客さんなんですけど・・・」

 猫の手も借りたいほどの忙しさの中、アルバイトの女の子が形よく整えた眉尻を下げて泣きそうな顔でわたしに訴える。いつものクレーマーに困らされているらしい。苛立ちを押さえこんで笑顔で答える。

「いいよ、こっちで対応するから・・・そんな顔しないの。お疲れさま!」

 ホッとしたような表情で頭を軽く下げ、彼女は売り場へと戻っていった。ふう。薄暗いバックヤードに積みあげられた段ボール箱からいったん手を離し、軽く肩をまわす。ごりごりと嫌な音がするだけで、強張った首筋から肩にかけての重くだるい感覚はちっともマシにならない。

 台車の上に放り投げてあったジャケットを羽織る。埃や糸くずを払い、手鏡を見ながら簡単に身だしなみを整えて売り場へ出ようとすると、また何人かの声が呼びとめる。

「店長、この書類のチェックお願いします」

「すみません、来週お休みが欲しいんですけど」

「この商品、今日が納期なのにまだ届いてないんですけど、どうしたらいいですか」

 軽い頭痛に襲われる。ちょっとは自分で判断しろ、と言いそうになるのをぐっと堪える。口角を上げて、とりあえず笑う。どんなに忙しくても早口になってはいけない。どこまでも冷静に。穏やかに。

「そうね、悪いんだけど書類はもう一度だけあなたが見直してくれたらもうそのまま本部へ送っていいわ。それと、ああ、あなたのお休みの件だけど、ちょっと代わりに入れる人を探してくれると助かるんだけど、お願いできる?それから・・・そうそう、納期の件は直接業者に問い合わせてみてくれるかしら」

 それぞれの顔を見ながら、出来る限り優しく話す。そうするとみんな微笑んで言うことを聞いてくれる。ハイ、と小気味よい返事と共にそれぞれの持ち場へと戻っていく。

若い子たちの扱い方に神経質なまでに気を遣うようになったのはいつからだろう。この小さな紳士服の店を任されてすぐの頃は、よく感情のままに怒鳴り散らして失敗していた。それは何の解決にもならないばかりか、売り場の雰囲気を悪くするだけ。

 あらゆるマイナスの感情を飲みこんで、客にも社員にもアルバイトにも、とにかく笑顔で優しく接する。そして譲れることは相手に合わせてどこまでも譲る。

ずば抜けた営業能力があるわけでもないわたしが、この8年間で唯一身に付けた処世術。おかげでこの不景気の中でも売り上げは前年度をわずかに超える数字をキープし続けている。本部からの評価も悪くない。

 ただ、毎日自分の中の大切なものが擦り減っていくような気がしている。心にも体にも、限界を超えた疲れが溜まっている。すべてを放り出したくなるときがある。

 いけない。余計なことを考えている暇は無い。パン、と両膝を叩き気合いを入れ直して売り場へ出た。

 静かなクラシック音楽が流れる店内、高級感を演出するために照明はやや落とし気味にしてある。新しい洋服の匂いが鼻をくすぐる。この匂いは嫌いじゃない。

早速、アルバイトの子がクレーマーの元へとわたしを連れていく。『お客様相談室』とは名ばかりの小さなクレーム対応用の個室。中にはいつもの初老の男性。中途半端に禿げた頭、背は低いけれど肉体労働者を思わせるがっしりとした体つき。くだらないことで長時間店員に文句を言い続ける。でも何が気に入っているのか、月に一度はやってきて新作のスーツやシャツなんかを買っていく。売り上げの面では良いお客さんなのだ。

「田中様、お待たせして申し訳ございません。お買い上げいただいた商品に何かお気に召さない点がございましたでしょうか?」

 もちろんここではいかにも申し訳なさそうな表情をつくる。頬が引きつる。相手は頭から湯気が出そうな勢いで、顔を真っ赤にしてまくしたてる。

「どうもこうもないよ、せっかく買ったのに帰ってから見てみたら・・・」

興奮しているせいで支離滅裂になる相手の主張を、適当に相槌を入れながら整理する。今回のクレーム内容は、買ったスーツに目に見えないほどの小さなほつれがあったとか。しかもそのスーツは今日は持ってきていないという。クソジジイ、と心の中で毒づきながら、しっかりと頭を下げる。

「それはご不快な思いをさせてしまい申し訳ございませんでした。それでは早速こちらのほうで修理に出させていただくか、新しいものと交換させていただきます。ええ、もちろんこちらのほうから店の者がご自宅まで伺いますので」

「・・・いや、来なくていい。またついでがあるときに持ってくる。もういい」

 田中さんのクレームはいつもこんな感じで終わる。わけのわからない難癖をつけるのは、ただ話し相手が欲しいのかもしれない。本当はきっとスーツのほつれなんて無いのだ。いつだったか世間話をしているときに妻には先立たれ、娘夫婦も遠方にいるから寂しいのだと呟いていた。

「かしこまりました。わざわざご足労いただいて申し訳ございませんでした。また今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

 再び頭を下げる。ふいに田中さんが立ち上がり、隣に立つわたしの肩を左腕で強く抱きよせた。

「店長さん、良い体してるねえ・・・悪いと思ってるんなら、ちょっと触らせてよ」

 田中さんの右手がわたしのジャケットのボタンにかかる。シャツの上から乳房をぎゅっと握る。太ももに股間を擦りつけてくる。密室でのセクハラ。若いころなら泣いて叫んだかもしれない。でも、もう慣れた。騒ぎ立てることも無い、日常茶飯事。

 シャツの中にまで潜り込もうとする右手をそっと握って、耳元で囁いてやる。

「田中様、このようなことをされますと不本意ではありますが警察に通報させていただかなくてはなりません。よろしいですか?」

 警察、という言葉にびくりと田中さんの体が震える。おそらくは遠方で暮らす可愛い娘夫婦のことが頭をよぎったのだろう。わたしを突き飛ばして床に唾を吐き、無言でお客様相談室を出て行った。

 やれやれ、と思いながらジャケットのボタンを留め直す。雑巾で汚れた床を拭いていると、他の従業員が心配そうにのぞきに来た。

「店長、大丈夫ですか?田中さん、ほんと滅茶苦茶言うから・・・」

「大丈夫よ、ありがとう。それより、バックヤードの新商品をどんどん売り場に出していって。返品作業も今日中に終わらせたいの。お願いできる?」

 わかりました、と良い子のお返事。できればもうちょっと早めに助けに来てほしかったわ、という言葉をまた飲み込む。ひとつ何かを堪えるたびに、胃のあたりに鈍痛がする。頭や肩の重みが数グラムずつ増していく。

 給料日後すぐの週末ということもあってか、閉店間際まで客足は途絶えなかった。接客に追われながらも、どうにか閉店時間までに雑務を終え、他の従業員が帰っていくのを笑顔で見送る。軽い達成感、それに見合わない疲労感。

 照明を落とし、すべての電源が切れているのをチェックした後、自動ドアに鍵をかける。ガチャリ、と鍵のかかる音を聞くと、ああ今日も1日が終わったと思う。誰も待つ人のいない三十路女の独り暮らし。このあとの夕食を考えるのも面倒くさい。とにかく体が重く、だるい。

従業員用の入口から帰ろうとしたときにバッグの中でケータイが鳴り出した。着信表示が示す名前は同じ系列の店長仲間、川崎美香。同い年ということもあって、たまには飲みに行ったりするような仲だ。

「もしもし?」

 歩きながら電話に出た。繁華街のど真ん中に店舗があるため、建物の外に一歩出るとそこは日曜の夜を楽しむ人々のざわめきに包まれている。きゃあきゃあと笑い声をあげながら家路を急ぐ家族連れ、これ以上はどう頑張ってもくっつけないというくらい密着して歩く恋人同士。いいなあ、こんな仕事をしていると日曜日が休みなんてことは絶対にない。

『・・・由梨?聞いてる?』

「あっ、ごめん、ちょっと考え事してた。なんだっけ」

『もう!働き過ぎで疲れてるんだよ・・・まあお互い様だけどね。明日休みだって言ってたでしょ?わたしも休みなの。今から晩ご飯一緒に食べない?』

 美香に言われて気がついた。そうか、明日は公休を取っていたんだった。人の流れを避けて道の端に寄る。すぐ脇の柱に取り付けられた古い時計の時刻は午後9時を過ぎたところ。頭を左右に振る。ぱきぱきと音がする。

「うーん、ちょっと疲れてるの。新商品の搬入や慣れないバイトの研修とかいろいろあったでしょ?もう体がダルくて仕方ないのよ」

『なんなの、その死にそうな声は!それならちょうどいいよ、ちょっと癒し系のスポット見つけたんだ。一緒に行こうよ』

「癒し系?アロマとかマッサージ?あれって高いばっかりで効果ないから嫌だな」

『もう、ケチなんだから。そういうんじゃないよ。とにかく会ってから話すから、ちょっと出てきて』

 美香は待ち合わせ場所を言った後、こっちの返事も聞かずに電話を切ってしまった。美香らしいな、と笑いがこみ上げてくる。張りつめていた気持ちが少し緩む。

同期で入社したけれど、わたしと美香は正反対のタイプだった。わたしがある程度我慢したり堪えたりしている間に、美香は誰かれかまわず噛みついて、上司からも先輩からも疎ましがられていた。その代わりに裏表が無いさっぱりとした性格で、言うだけのことを言った後にはきっちりと売り上げを伸ばしてくるものだから、いつしか皆の美香への評価は自然に高くなっていた。

 あんなふうに生きられたらストレスも軽減するのだろうか。ふう、とため息をついて軽く背伸びをし、重い体を引き摺りながら待ち合わせ場所へと向かった。


 いつも待ち合わせ場所に使っている、パスタが安くて美味しいお店。ゴーダチーズ、モッツァレラにゴルゴンゾーラ。3種類のチーズが絡められた特製パスタを頬張りながら、美香はけらけらと笑い、よく喋った。

 目の下にやや疲れが見えるものの、肌の張りや全身から滲み出る溌剌とした雰囲気は衰えない。なんだかすごくうらやましくなってくる。大好きなはずのトマトとバジルのパスタソースもいまいち美味しく感じられない。口の中に酸味だけが残る。フォークを皿に置き、水の入ったグラスに手を伸ばした。
 美香が心配そうに顔を覗き込んでくる。

「もー、ほんとに元気ないじゃない。仕事頑張り過ぎなんじゃないの?たまにはストレス発散しなきゃ」

「美香はいいわよ、ストレスなんて溜まらなさそうだし・・・わたしもう本当にくたくたなの」

「失礼だなあ、わたしだってストレスくらい溜まるって!使えないバイトに低い客単価、本部は毎日ノルマのプレッシャーかけてくるし。クレームだってわけわかんないのがいっぱいあるわよ、今日だってさぁ・・・」

 そこからひとしきり美香の愚痴が続いた。でも美香の話し方は嫌みが無くて、腹が立つ上司のことも変な客のことも面白おかしく聞こえてくる。つられてわたしも自分の今日のセクハラ体験や有り得ない忙しさなんかについて次々と愚痴を吐き出した。

 怒ったり笑ったりしているうちにだんだんお腹がすいてきて、いつのまにか目の前のパスタはお腹の中に消えていた。ふたりでデザートのメニューに目を走らせるころには、ほんの少し気持ちが楽になったように思えた。

 ガトーショコラといちごのショートケーキ。半分ずつ交換して食べる。蕩けるように甘い味が口の中いっぱいに広がる。温かい紅茶を口に含むと、すっきりとした風味が鼻を通って抜けていった。美味しい。

 このあとどうする?と尋ねると、美香が白い歯を見せて笑った。

「おっ、元気でてきたじゃない。それでね、電話で話した癒しスポットのことなんだけどさぁ」

 バッグの中から財布を取り出し、そこに挟まれた一枚の名刺を抜き取った。渡されたそれを見ると、そこには濃いピンクに白抜き文字で『癒しの館』なんてあやしげな文字が書いてある。住所と電話番号、裏側には簡単な宣伝が印刷されていた。

「あなたの心と体の疲れを癒せる極上の体験をお約束いたします・・・か。なにこれ、ものすごくあやしいんだけど」

「そう言うと思った。でもね、友達がそこに通ってるの。彼女、そこがすごく良かったみたいで週に1回のペースで通ってるらしいんだけどさ」

 美香の友達はそこに通い始めてから傍目にもすごく変化があったという。どちらかというといつも自信なさそうな地味な感じの子だったらしいけれど、今は自信に満ち溢れてとても魅力的に見えるようになったという。うーん、どう聞いても疑わしい。

「ちょっと美香、それ本当?騙されてんじゃないの?」

「ほんとだって!それでね、あんまり急激に雰囲気変わったからさ、どうしたのって聞いたらココを教えてくれたの。ちょっと行ってみたいなって思うじゃない」

 わたしたちと同世代の30歳を少し過ぎたばかりだというその彼女は、やや若返って見えるようにもなったという。その言葉にぐっと心が引き寄せられる。

「若返り、かぁ。それはいいかもしれないな。でも高いんじゃないの?」

「それがさ、そのひとによって料金が違うんだって。だから行ってみないとわからないらしいよ。あんまり高いようだったら帰っちゃえばいいんだし、ね?行かない?」

 再び名刺に目を落とす。そこに書かれた住所はここからそんなに遠くない。営業時間は午後2時から午前7時まで。この疲れが少しでもマシになるのなら行ってみようかな。わたしがそう言うと、美香は手を叩いて喜んだ。


それが、まさかあんなことになるなんて。


 そこは最近建てられたばかりの新しいマンションの一室。大理石で出来たエントランスは床や階段もぴかぴかに磨かれていて清潔感が感じられた。新しい建物っていいよね、なんて言いながらふたりで階段を下り、『癒しの館』とプレートの掛けられた黒い重厚なドアの前に立った。

 ドアの脇につけられた呼び出しボタンを押す。美香が紹介してくれた彼女の名前を告げると、静かにドアが開いた。

 部屋に入ってすぐの場所は真っ黒な布で囲われて、奥の様子は何も見えなかった。うっすらと人の話声のようなものと静かな音楽が聞こえる。スーツ姿の美しい女性が微笑みながら軽く頭を下げた。

「いらっしゃいませ。ご利用は初めてでいらっしゃいますか?」

 美香と顔を見合わせ、はい、と頷いた。

「かしこまりました。それでは当館についての説明をさせていただきます。まず、私どもはお客様の心と体の両方を癒してまいります。そのためにいくつかプライベートな質問をさせていただくことがございます。また、体を癒してまいります際には専用のガウンにお着替えいただきます」

 女性が確認するようにわたしたちを見つめる。エステやマッサージのことを思えば、特に不審には感じられなかった。またわたしたちは頷いた。それを確認して女性は続ける。

「お客様にご提供いただいた個人情報につきましては、秘密を厳守いたします。また『癒し』を行う過程で、中にはどうしても抵抗があるという方もいらっしゃいますので、その場合はおっしゃっていただければ途中で終了することも可能です」

 抵抗、とはなんだろう。ものすごく痛いのだろうか。女性はゆっくりと首を振った。

「痛い、というようなことは無いかと思います。個人差はありますが・・・また料金に関しましては初回は無料となっております」

 無料と聞いて美香がホントに?と声をあげた。わたしも驚いた。

「ええ、2回目からはそれぞれのご希望コースに合わせた料金を頂戴しております。それではご質問が無ければ『癒し』にご案内させていただきますが、よろしいですか?」

 ご案内はおひとりずつ別々のお部屋になります、と言われて、わたしはもうひとり奥から出てきた女性に案内されて黒い布をくぐり、美香と別れて部屋の奥へと進んだ。

 入口から予想していたよりも、中はずっと広かった。赤い絨毯の敷かれた細い廊下のようなスペースがどこまでも続く。足元に点々と置かれた蝋燭だけが照らし出す、この薄暗い雰囲気も演出だろうか。両脇には番号の振られた部屋がある。わたしはその中の一室へと通された。小さなオレンジ色の照明がうっすらと光る室内は甘い香りがして、とても落ちついた雰囲気だった。

 部屋の真ん中には大きめのベッドが置いてある。お尻をおろすとふかふかとして気持ちがいい。白いガウンを渡される。

「それではお着替えになってこのまま少々お待ちください。施術師を呼んでまいります」

 壁に掛けられたハンガーに仕事用のスーツを脱いで吊るしていく。壁には下着もすべて脱ぐようにと注意書きがある。書かれている通り全裸になって、白いガウンだけを身につける。シルクだろうか。肌触りはすごく良いけれど、乳首の形がはっきりと浮き出てしまって恥ずかしい。

 10分程度過ぎたころ。ベッドに横になってうつらうつらしていると、ドアが静かにノックされた。

「失礼いたします」

 低く落ちついた声と共に部屋に入ってきたのは白衣を着た男性だった。40代前後。銀縁の眼鏡の奥には優しそうな瞳。背は高く、やや細身の体型。このひとのスーツのサイズは・・・と目算している自分に気づいて苦笑した。職業病。

 体を起こそうとすると、男性は微笑んでそれを制止した。

「本日担当いたします、武田と申します。それでは横になったままで結構ですので、いまから質問させていただくことに順番にお答えください。まずはお名前と職業から」

「酒井由梨です。紳士服専門店の店長をしています」

 そこから年齢、休日の過ごし方、趣味、最近感じられる体の不調などを次々と質問されるままに答えていった。

「・・・なるほど、かなりお疲れのようですね。それでは次に、現在恋人はいらっしゃいますか?また最近で性行為をしたのはいつでしたか?」

「恋人はいません、仕事が忙しいもので・・・えっ、性行為って・・・」

 思わず言葉に詰まる。施術師は微笑みを崩さずに穏やかに答える。

「酒井様は現在強いストレスを抱えていらっしゃるようですね。そういった場合、酒井様ぐらいの年齢の女性には性行為の有無が体調に大きく関わってくることがあるのです」

 最後にセックスをしたのは、いつだっただろう。遠い記憶を手繰る。まだ恋人と呼べる人がいた頃だから、4年か5年ほど前のことになる。

 正直にそう答えた。すると施術師は何かメモを取りながらまたちょっと恥ずかしいようなことを聞いてきた。

「そうですか、わかりました。それでは現在、自慰はどれぐらいのペースでどのようにされていますか?」

「自慰、ですか・・・」

「ひとりエッチ、オナニー、呼び名は様々ですがこれらのことも酒井様の体調に深く関わってくることなのです。そうですね、まずどのくらいの頻度で行われていますか?」

「それは、あの・・・ときどき・・・しています・・・」

 言いながら顔が赤くなるのがわかった。こんなことを口に出すなんて、恥ずかしくて泣いてしまいそうだった。寝る前のほんのわずかな時間、手軽に快感を得られるのが癖になって、このところは毎晩のようにやっていた。

「ときどき、ですね?わかりました、それではどの部分をどのように触っていらっしゃいますか?また器具などは使用されますか?」

「そんな、器具なんて使っていません・・・どこをって、そんなこと言えません・・・」

 施術師は困ったような顔をして、質問には具体的にお答えいただいた方がありがたいのですが、と言いながらわたしの胸のあたりにそっと手を置いた。温かい手の感触が薄いガウン越しに伝わってくる。妙な質問をされたせいか、体が少し火照っている。

「少し力を抜いてください・・・はい、いいですよ。たとえば、このあたりはご自身で触れられますか?」

 ガウンの上から両方の乳房をゆっくりと揉まれた。昼間に田中さんから受けたセクハラを思い出す。少しだけ驚きはしたものの、このやさしく包まれるような感覚は嫌ではなかった。

「いえ、胸は自分では・・・その・・・触りません」

「なるほど、そのせいか首から肩、胸のあたりにかけて筋肉が強張っているようですね。頭痛もそのあたりからきているのかもしれません。上半身から軽くマッサージをしてほぐしていきますが、よろしいですか?」

「あ、はい」

 施術師はそっとわたしの背中に手を当てるようにして体を起こし、ベッドに腰掛けるように促した。

マッサージは肌を直接刺激した方が良いらしく、ガウンは腰のあたりまで下ろされた。目の前の鏡に半裸の自分の姿が映る。背後から肩を揉みほぐされるのに合わせて、やや大きめの乳房が揺れる。恥ずかしさと緊張で乳首がかたくなっているのがわかる。

「痛くありませんか?このまま続けてもよろしいですか?」

「はい・・・」

 背中から腕までを順々に揉まれていく。温かい手が気持ち良くて、緊張も少しずつ解けていった。

 ふいにその手が胸にまわされ、肩や背中と同じように乳房を揉みほぐしていく。下から上へ持ち上げるように、ゆっくりと。その手のひらに乳首が触れた瞬間、思わず声が出てしまった。

「あっ・・・」

 施術師の手が止まる。鏡越しにわたしの顔を見て、また優しく微笑む。

「ここからが『癒し』の大切なところです。できるだけ動かないようにお願いいたします。ただし、いまのように我慢できない場合には声を出されても問題はございません」

「は、はい・・・」

 ごつごつとした太い指先に、勃起した乳首をつままれた。尖端を撫でられ、ぐりぐりと強く擦られる。心臓の鼓動が速まり、呼吸が荒くなる。

「あぅ・・・んっ・・・」

「いいですね、血行がよくなってお体が温まってこられたようです」

 施術師が耳元で囁く。熱い吐息が耳にかかる。体がはっきりと熱を帯びてくる。

 指は胸から腹のあたりへと這い、腰に結ばれていたガウンの紐が解かれた。はらり、と前がはだける。軽く開いた足の隙間から黒々とした陰毛がのぞく。太ももの間に手を差し込まれ、大きく足を広げさせられた。

 鏡の中にはあられもない姿のわたしがいる。陰毛のその奥にあるグロテスクな性器までもがはっきりとそこに映し出される。

「こ、こんな・・・恥ずかしいです・・・」

 施術師の方へと顔を向け、足を閉じさせてくれるように懇願すると、彼はゆっくりと首を振った。

「誰もが同じものを持っているのです。なにも恥ずかしいことはありませんよ。さあ、力を抜いて、わたしにお任せください」

 指は陰毛をかきわけ、その奥に触れた。くちゅりと粘ついた音がする。クリトリスを両方の指で執拗に撫でられ、敏感になったその部分を指の腹でぎゅうと押し潰された。

「あぁっ・・・!」

「気持ちいいでしょう?ほら、もっと気持ちよくして差し上げますよ」

 指がわたしの入口を押し広げ、何かを探るように少しずつ中へと入ってくる。思わず足を閉じて叫んだ。

「やっ、だめぇ・・・っ!」

「やめてよろしいんですか?本当に?」

「あ・・・」

 指はあっさりと抜かれたのに、わたしのその部分はもの欲しげにひくひくと蠢いている。これはただのマッサージなのだ。そう自分に言い聞かせて、ためらいながらもう一度足を広げる。涙目になって施術師を見ると、慈愛に満ちたまなざしが返ってきた。

「酒井様はこちらにお越しになられるのが初めてですので、そのように戸惑われるのは当然です。すべての『癒し』が終わった後にはきっとご満足いただけるはず。それを信じて、わたしに酒井様のすべてを預けてはいただけませんか?」

 わたしは迷いながらも頷いた。施術師はまた指をわたしの中へと沈ませていく。ゆっくりと膣壁を弄られるうちに、あのいつも自分で触れている、気持ちの良い場所へと指が辿りついた。

「あ、そこっ・・・すごい・・・いい・・・っ」

「ここですね?もう少し足を開いて・・・そう、力を抜いて・・・」

 二本の指がわたしのなかをぐちゅぐちゅと掻き混ぜる。もっと欲しい。自然に腰が揺れる。意識が飛びそうになる。もっと奥まで、もっと、もっと。

「あっ、あ、あ・・・もっと、奥までェ・・」

 鏡の中には背中をのけ反らせて足を広げ、涎を垂らしながら快感に悶える女の姿が見える。あれが自分だなんて信じられない。信じたくない。でも欲しい、一番奥まで欲しくて欲しくてしかたがない。

「酒井様、これより奥は指では届きません。よろしければ別の方法でマッサージして差し上げますが」

 そう話しかける間も指はわたしのなかを刺激し続ける。いつのまにか正面にまわった施術師はわたしの乳首に唇をあて、思い切り強く吸いあげた。その吸い上げた部分をべろべろと舐めまわし、軽く歯を立て、また吸い上げる。

「き、気持ちいい・・・あ、あっ・・・・そんなことしちゃ・・・いく、いっちゃう・・・」

 頭がくらくらする。あと少しで絶頂に上りつめるというところで、施術師はわたしの肩を軽く押してベッドに寝かせた。指も舌も肌から離れてしまい、わたしは快感の淵に取り残されたような気持ちになる。

 呼吸はもう苦しいほどに荒い。体のなかで何かが暴れ出しそうなほど興奮している。施術師はただ微笑んでわたしを見ている。

「あの・・・」

「酒井様、ここからは少し強い刺激をお体に与えさせていただきます。あまり抵抗されますと危険が伴う可能性がございますので、しばらく両手を固定させていただきますね」

 頭の上で両手を組まされて、手錠のようなものをかけられる。手首にあたる金属がひやりと冷たい。

 そのとき、唐突にドアがノックされた。

 施術師がドアを開けて何かを話している。マッサージは中断しているのにわたしの体は少しも冷えないばかりか、全身の疼きは増すばかりだった。じっとしていられなくて、太ももの内側を擦り合わせながら身もだえして待つ。はやく、続きを・・・

「酒井様、専門のスタッフが到着いたしました。それでは酒井様のお体のなかの状態を、今度は器具を使用してチェックしてまいります」

「あ・・・はい・・・」

 そのスタッフは同じような白衣に身を包み、顔はマスクで覆われていて表情を確認することはできない。カチリと何かのスイッチが入る音がし、続いてモーター音が響いた。

 細かく振動する棒状のものがわたしの入口に触れた。焦らすように少しずつ襞を押し広げてそのなかへと侵入してくる。

「んっ・・・あ、あっ」

「ああ、良い反応をされていますね。健康な証拠ですよ、もう少し奥はどうでしょうか・・・」

 一息に一番奥まで貫かれる。体が跳ねる。激しく出し入れされながら、そのなか全体を刺激されて堪らずに腰を振りながらそれをねだる。お尻の穴にも指を捻じ込まれる。

「だめ、そこはだめぇ!」

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響く。もう何も考えられない。そんなところだめなのに、それなのに気持ち良くてどうしようもない。施術師はまたわたしの胸を揉み、乳首に舌を這わせ、そして耳元で囁く。

「酒井様、少し失礼いたします」

 施術師はわたしの足もとにまわり、両足を押さえつけた。後から部屋に入ってきたスタッフがその白いズボンを下ろす。赤黒く猛った性器が剥き出しになる。

「な、なにを・・・」

「こちらのスタッフはこうした『癒し』専門なのです。きっとご満足いただけますよ」

 これ以上ないほどに大きく怒張したそれは、見る間にわたしのなかへと飲み込まれていった。その太さはなかが裂けてしまうのではないかと思うほど。何度も何度も突き上げられ、一番奥のあの気持ちの良いところにしっかりとその刺激が伝わる。

「いい・・・気持ちいいっ・・・」

 胸を思い切り掴まれる。施術師の優しい声が響く。

「酒井様、いま誰にどのようにされていますか?口に出せばもっと気持ちよくなれますよ?」

「し、知らない男のひ、ひとにぃ・・・おちんちんを・・・っ、あ、あっ・・・突っ込まれて、イクのぉ、いっちゃうのぉ!!」

 頭の中が真っ白になり、意識が飛ぶ。それでもスタッフの腰の動きは止まらず、もう何度いかされたかわからない。片足を持ち上げられ、四つん這いにさせられ、あらゆる体位で犯され続けた。

「もう、もう許して・・・おかしくなっちゃうからァ・・・!」

「あと少しで終わりますよ、さあ起きて」

 挿入したままベッドの脇に立たされ、腰を抱えられて正面から突き上げられる。揺れる視界の中で施術師がにやにやと笑いながらズボンを下ろすのが見えた。わたしの背後にまわり、胸を揉みながら熱くなった性器ををわたしの尻に擦りつけた。

「わたしはこちらの『癒し』専門なんですよ・・・ゆっくり入れますからね・・・」

 熱いものがお尻の穴に潜り込んでくる。ずぶずぶと沈みこんでくるその未知の感覚に、わたしは絶叫した。

「やめ、やめて!!だめ、そこは、ほんとにダメなのォ!!」

「ああ・・・酒井様、素敵な締まり具合ですよ・・・うぅっ・・・ぐいぐい締めつけてくる・・・そろそろ、いいですか?」

 腰を振り続けるスタッフに施術師が声をかけた。スタッフは目を細めて頷き、ふたりの動きが大きくなった。

「こんな、あ、あっ・・・お尻も、き、気持ち良くなっちゃう・・・恥ずかしいのに、こんな、だめなのにィ!!」

「ちゃんと両方とも穴の中に出してあげますからね・・・」

 うっ、と呻き声が聞こえて、ほぼ同時に熱いものがわたしのなかに放出された。性器は抜かれ、ふたりの体がわたしから離れたところから記憶が無い。


「・・・酒井様、終わりました。酒井様」

 はっ、と気がつくと、わたしは薄いガウンを着たままベッドの上で眠っていた。夢でも見ていたのだろうか。

 施術師はあの優しい顔で、お加減はいかがですか、と微笑んだ。

 ベッドから体を起して、首や肩をぐるぐると回してみる。あの重くだるい感覚は嘘のように消え去り、ここ数年悩まされていた頭痛も治まっていた。鏡に映る顔も浮腫みがとれたようにスッキリとしていた。

「それはなによりです。『癒し』の効果は通常1週間程度となっておりますので、またお気に召された場合は受付で来週のご予約を済ませてからお帰りください」

 施術師はうやうやしく頭を下げて部屋を出て行った。眠っている間にそうされたのか、きれいに拭かれて良い香りのするパウダーがはたかれている。

 ベッドから降りて着替えようとしたとき、足の間からどろりとした液体が流れ出てきた。あれは・・・やっぱり、夢じゃなかった。


 個室を出て、薄暗い廊下を抜け、受付へと戻った。そこには、満足げに笑う美香の姿があった。

 顔を見合わせる。何も言わなくてもわかった。わたしたちはまた来週もここへやってくるだろう。

 極上の『癒し』を求めて。

(おわり)
ジャンル:
小説
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1 コメント

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いいいよ! (かずちん)
2014-01-09 00:29:42
次の仕事はマッサージ師に決めた!♪

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