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四方田犬彦朗読会『わたしの犬の眼で』~夢を見ているような世界が展開する前衛文学~

神戸映画資料館で、比較文学・映画研究家、詩人、エッセイストの四方田犬彦さんの
朗読会があるからということで、朗読が好きな私は頑張って、新長田まで行ってみた。
読まれたのは、ブラジル女性前衛作家イルダ・イルスト「わたしの犬の眼で」。

四方田さんの本は、難しいイメージがあって、あまり読んでおらず、
映画雑誌で映画評論を読んだくらい。

客席は、普段の映画の上映会の時とは、少し違う感じの客層で、
なんとなく学者っぽい人が多かった。
定刻を過ぎると、カラフルなシャツを着た四方田さんが
本を朗読しながら、会場に入ってこられた。

卒業するとき、声優になりたかったけれど、当時、そんな学校はなくて諦めた
と言われた四方田さん。
とてもいい声で、声色を使い分けたりもして、楽しく聞けた。

しかし、本は、全くわけがわからない内容で、
ここにいたかと思えば、別のところにいるような、
誰がしゃべっているのか、主語もどんどん変わって、わからなくなる。
現代詩のようなテキストで、
絵でいうと、キュビズムのような抽象画のような文章と思っていたら、
「前衛文学」といわれて、納得。

きっと文字で読んだら、あまりにも意味不明で、一頁も読み通す自信はないが、
朗読で、言葉を音として聞くと、
まるで不可思議な世界を旅しているような気分で、
夢を見ている感じに似ている。
この世界から、別世界へと、一瞬で移っていて、いつのまにか世界が変わっている。
夢を見るための眠りの世界は、死にも通じていて、
性や、死に隣接した世界を、あちこち旅していく。

わかろうとする試みを放棄して、ただ言葉の響きに心を傾けているうちに、
眠くなって、途中、気持ちよくまどろんだ時間もありましたが、
心地よい2時間。

終わってから、四方田さんが、少し作家について語ってくれて、
ざっくばらんな話に、難解な本の世界との距離が一気に縮まったような気がした。

ジョルジュ・バタイユの講義がきっかけで、作家イルダ・イルストのことを知り、
イルダは、両親とも統合失調症だったから、自分もいつ発症するかわからない恐怖と常に隣り合わせで、
ブラジルのコーヒー農園のひとり娘で、富裕の家で、
20代から詩人として活躍し、36歳の時に「太陽の家」という広大な邸宅をつくり、
芸術家やゲイの青年たち、百匹の犬たちに囲まれて、小説や戯曲など、創作活動を続けたそうです。
27歳でパリを訪れた時には、映画館でマーロン・ブランドを発見して、
絶対彼と寝てみせると決意し、いろいろお金も費やしたとかいう話もあり、
非常におもしろい女性。

聴衆との質疑もあり、フェミニズムの話も出ました。
性に対する見方において、男女での違いはなくて、
人それぞれで異なるもの。
男性ならこういう感じ方をする、とか、
女性ならこういう感じ方をする、というのはないとか、
いざ、自分で言葉にしようとすると難しいです。

主語のこととか、いろいろ興味深い話も多く、わかりやすくて、ありがたかったです。
多分、朗読だけだったら、全く未消化に終わっていただろうが、
こうしていろいろ語ってもらえると、かなり身近に感じられる。

帰り道、元町駅で降りて、元町映画館に、
『クーリンチェ少年殺人事件』の映画のパンフレットを買いに降りたついでに
神戸の本屋に足を延ばした。
外国文学が2階で本棚をのぞいたら、
「わたしの犬の眼で」が掲載されている本が何冊か置いてあったので、
立ち読みしたら、
小説のなかに、詩になっている箇所もあって、おもしろく、
立ち読みで済ますつもりが、なんだかほしくなって、買ってしまった。
この作品は、同じ作家の「猜褻なるD夫人」という小節と一緒に掲載され、
本のタイトルは「猜褻なるD夫人」なので、
レジで買う時、少し勇気が要ったのは事実。若い女性の店員を選んだけど、すこし恥ずかしかった。

音読なら読めるでしょうか。 

 参考:イルダ・イルスト(1930~2004) Hilda Hilst 
ブラジルの小説家、詩人、劇作家。1930年に富裕なコーヒー園の一人娘として生まれ、2004年にサンパウロ近郊に設けた「太陽の家」で逝去。サン・パウロ大学で法学を学ぶかたわら、詩人としてデビュー。つねに若い男と百匹に及ぶ犬たちに囲まれ、創作活動を続ける。数々の文学賞に輝いたものの、20世紀ブラジル文学史にあってもっとも毀誉褒貶に満ちた文学者として知られる。代表的な小説に『猥褻なD夫人』『わたしの犬の眼で』『誘惑者の手記』がある。

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