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No1341『レッドタートル ある島の物語』~重ねられた手と手~

ジブリはすごい。
こんなわかりにくくて、ぶっとんでる物語で、セリフまでない映画を、今の日本で配給しようなんて、ジブリじゃないとできない。
想像以上に、ファンタジックで、大胆なお話。
つまり、余白だらけ。ロジックの世界ではない。徹底的にポエムを極めた映画。

無人島に漂流した男。
いかだをつくって、何度も脱出しようとしても、上手くいかない。
そして、ある日、赤い亀に出会う‥。

普通なら、どうやって生き延びたか、人間の世界に果たして帰れたのか、とか描きたいところ。
でも、本作では、そういうところに焦点を当てない。

むしろ、自然の移り変わり、雨や雲や鳥や海を丁寧に描いていく。
時に厳しく、時に優しい自然。
その中で、ひとりで生きようとする人間。

まるで、主人公といっしょに、絵本の中に入り込んだような映画体験といったらいいのか。
いっしょに海の中に潜って、不思議な時間を過ごしたような気がする。
きっと海が好きな人なら、好きになってもらえそうな映画。

波のやさしい音。
砂浜をカニがちょこちょこ動く音や動きが、すごくかわいらしい。
海にもぐったときの光、青くて深い水底の世界。

空を飛んでゆく鳥たちの姿が何度もとらえられる。
きれいだなあと見とれる。
特に、最後の、夜明け頃だったか、水平線沿いに見える鳥たちの姿は、美しすぎて泣けた。 

映画が進む中で、いろんな音や動きや瞬間の映像が心の中に、きらきらとこぼれおちていく。
監督は、やはり、超ロマンシストだと思う。このロマンにのれるかどうか。

自然と人間、生と死、いろんなことが描かれている。
人が人を愛し、大切に想うこと。
手と手を握り合うのではなく、重ね合うところに、ロマンがある。
守りたい‥という想いかもしれない。 
あるいは、一緒にいたいという想い‥。 

人物の顔は、目が点だし、表情もほとんどなく、あえて単純化されている。
もう少し、かっこよくとか、美しく書いてもいいのにな、と思うほど。
でも、それが監督の考えなのだろう。

監督は、
『岸辺のふたり』(2000年)という、わずか8分ほどの短編でありながら、
父を想う娘の人生を描ききり、涙なしでは見られない作品をつくりあげた(自転車の重なる輪と輪!)
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督。
『岸辺のふたり』を観て感銘を受けた、ジブリの鈴木敏夫プロデューサーが
監督に長編をつくらないかと声をかけたそうだ。

『岸辺のふたり』でも、父や娘、人間の姿は、デフォルメされていて、
顔の表情はなかった。
だからこそ、観ている側は、勝手に心の中で、想像の翼を膨らませるのだと思う。 

本作でも、人間よりも、
カニとか亀のほうが、丁寧に細部まで書き込まれていて、ギャップがおもしろかった。

3連休の最終日の夜、
『君の名は。』や『四月の君の嘘』で、やたらアベックの若者たちで混雑している映画館。
私は、混んでるシネコンは行列だらけで、嫌いや~と思いながらも、
割引券のチケットで、座席をとろうと窓口にいったら、
「この映画はセリフがないですが、大丈夫でしょうか」と念押しされてしまった。
映画館の人が、心配している感じで、悲しかった。
確かに、ネットで「こんな映画、時間とお金の無駄だ~」という品のないコメントも見た。
でも、映画に何を期待するかで、全然、この映画から感じ取るものは違うはず。
ポップコーン食べながら見始めたとしても、ふとその手が止まってしまうような魅力があると思う。

「どうして」「どうやって」と、細かいところをつっこむのをやめて、耳をすまして観てほしいと思う。
いわば、民話、おとぎ話のようなお話だから。
異類婚姻譚の一つともいえる、亀と人間のお話。

映画館の人には、むしろ堂々と、これはセリフがないですが、
セリフなくても、すごくいい映画で、お薦めですと言ってほしかった。

休みの日の6時半からの回なのに、
寂しいことに、お客さんは、多分、20人弱だったと思う。
ジブリでありながら、この不人気。
お客さんは、男子一人が多かった。彼らのこころに届いているといいなあと思う。

こんなお客さんが入っていなくては、せめてパンフを買って応援しようと、
久しぶりにパンフを購入した。

監督のすてきなコメントがあったので、引用したい。
「私がこの映画で描いている木々や空、雲、鳥たちの場面には、私たちにとってとてもなじみの深い、純粋で簡素な瞬間があります。そこには過去も未来もなく、時がじっと立ち止まっているのです。この映画は、直線的にも円形的にも私たちに語りかけてきます。音楽が沈黙を際立たせるのと同じく、時間を用いて時間の不在を物語るのです。この映画は死の本質についても語りかけています。人間は死に抗い、それを恐れ、戦いますが、これは健全で自然なこと。それなのに、私たちは生命の純粋さや、死に抗う必要がないことを美しく直感的に理解しています。映画がその感覚を伝えてくれていることを望んでいます。」 

『岸辺のふたり』は、なんとYouTubeでも観れるので、ぜひのぞいてみてください。
 

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