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ささやかな緊張感

本番の緊張感というものを、長らく味わったことがない。
友達がライブに出る時、
本番って、すごい緊張感なんだろうなあと、
いつもすごいと思う。

本番の緊張感とは、桁違いだけれど、
いわゆる緊張感、ささやかなプレッシャーを感じたのが、
甥っ子の習字の宿題。

本番用に学校でもらった書初めの用紙は2枚しかない。
ちゃんと書けるかどうか‥。

子どもの集中力はあまり続かない。
好きなことならともかく、
私も習字は大嫌いだったから、
少しでも早く、なんとか形にできたらとしか考えない。

だから、何枚もある練習用の紙に
最初に書いた時のほうが、案外きれいに書けることもある。

課題は「美しい空」。
「美」という字は、横線が多くて、
太く書きすぎると、にじんでくっついてしまう。

小学生だから、3,4枚書いたら、
すぐ休憩して、他のことをしたくなる気持ちはよくわかる。
それでも、早く仕上げて、一緒に遊ぼうと、
早々に本番の紙に移る。

まずは本番の一枚目。
最初の一字、「美」を書いているその時、
父が戸を開けてのそっと入ってきた。

絨毯の上に新聞紙を広げ、孫が習字を書いている姿を見て、
しゃべろうとするのをやめて、すぐ戻っていったが、
父がふいに鳴らした音がいけなかった。
そこで、おならをしたのだ‥。
思わず「美」の縦棒が斜めにすべった‥。

まっすぐ立つ美女になるはずのその字は、
まるで、駆けていく人の足のように斜めになった。
「姜」のイメージ。

それでも、甥っ子はめげずに
「しい空」と懸命に書いた。

ところが、その清書した紙を丁寧に置いたつもりが、
練習紙と重なって、下の方に少し墨の点がついてしまった。
ショックで、そのことを言えなかった私‥。 

とにかく気を取り直して、2枚目。
「美しい」まで、今度はきれいにまっすぐ書けた。

最後の「空」。
「うかんむり」まで書けたところで、
甥っ子の筆は、縦でなく、横に動いた‥。
「え‥」
思わず絶句。
「美」と勘違いした線は、無情にも横線になって、
うかんむりの下に伸びていた。

甥っ子も緊張していたのだろう。
二人で思わず、呆然として、
どうしようねえと考え込んでしまった。

小学生ゆえの可愛らしい間違い。
でも、習字に修正インキはない。
貴重な最後の2枚目だった。

考えた私は、甥っ子に提案した。

二本の線をひっつけてしまおう。

こういう時に限って、にじみもせず、2本のままの横線の隙間を
墨で埋めて、1本にすれば、
「空」にできる‥!

私は、甥っ子に、「空」の横線を全部太目に書いて、
釣り合いをとればいいからと、
励まし、なんとか、仕上げてもらった。
細字で名前を書く頃には、甥っ子もすっかり力を使い果たしていた。

私は、アイデア勝ちの、苦心の作として、
2枚目を提出しようと意気揚々と提案した。
(1枚目を汚してしまった引け目もあったかも‥)
ところが、弟に見せたら、
「空の横線が太すぎる」と速攻で却下されてしまった。
弟には、
走っていく「美」の字の方が、太い「空」より見栄えがしたのだろうか。

弟の「一枚目がいいけど、下の方、ちょっと汚れてるね」との言葉に
私が罪の意識にさいなまれたのは言うまでもない。
けっきょく、弟にも告白できなかった。すみません‥。

習字を見守り、人生ゲームもし、卓球もし、で、
2日間、甥っ子と遊んで、
晩、義妹の実家に行った彼らをお見送りした後、
母がぽつりと言った。

「友達が帰っちゃったみたいだね‥」

図星だった。
彼らは私の大切なお友達だとあらためて実感した。
酔っぱらって、風呂で寝かけて、母に「アル中」になるがねと怒られると、
ちゃんとそういうことを聞き留めて、
別れ際も、「アル中」にならないでねーと
いたずらっぽく冷やかされた。 

そんなあれこれのお正月。
眼がわるくなった父の代筆で、
返礼の年賀状の宛名を書くように言われ、
1枚しか予備がない中、
13枚の宛名を書いた。
5枚目で、しっかり、「夫」と「男」を書き間違えた。
今度、間違えたら、また、少し先のコンビニまで
てくてく歩いて買いに行かなければならない、というプレッシャーを感じた時、
甥っ子の緊張を思い出した。

彼の緊張感は、これ以上だったのだろうなと思いながら、
何度も、つい自分の住所を書きそうになりながら、なんとか書き上げた。

甥っ子は、大切な私のお友達であり、師匠だとあらためて思ったお正月でした。 

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
お正月の光景 (ななみ)
2017-01-03 23:06:16
書初め用紙が2枚しかないってとこから,
なんだか私もドキドキ!ド!キ!ド!キ
えぇっ,まっすぐな「美」が,ナナメったって?
どんな字やぁ 想像してニヤニヤ.
大事な清書紙に,スミぃ! あーあぁ”
(メール文字では表現が超えられないワ)

三丁目の夕日か,ちびまる子かのアニメ見てるみたいに面白かったです.また遊んでもらえると,いいですね!

 
 
 
ななみさまへ (パラパラ)
2017-01-03 23:57:54
コメントありがとうございます。
楽しい感想くださり、すごくうれしいです。いただいた感想を読みながら、私も思わず思い出していました。

実家から大阪に帰って、自分の年賀状の返事を書くのに、ふと習字を思い出し、甥っ子には、中心線まっすぐと口うるさく言ったのを思い出し、丁寧に書こうと思いました!
 
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