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漫画「さんさん録」(こうの史代)~脱力感とユーモアとちょっぴりのときめき‥爺さんの生活録~

駅の近くに「まちライブラリー」という、
寄贈で成り立っているライブラリーカフェがある。
『この世界の片隅に』の原作者、こうの史代さんの漫画ということで、
たまたま目についたので、借りてみたら、
すこぶるおもしろかった。

こうのさんは、情熱と脱力感のバランスが絶妙で、
どこか冷めてるようで、ユーモアにあふれ、
深刻になりそうなところで、
じょうずに踏み外すようなおもしろさがある。

「さんさん録」というのは、
主人公の参平さんが、妻に急逝され、
妻が、自分のために残してくれた生活記録、
炊事や洗濯など、家事の知識も盛り込んだ備忘録を見つけ、
それを読みながら、息子夫婦との同居生活をやりくりする姿を描いた漫画。

妻が夫のことを「参さん」と呼んでいたことから、
このタイトルがついたらしい。

息子夫婦、詩郎さんと礼花さんもいい感じだし、
虫好きの一人娘、乃菜ちゃんが、かなり変わった子でユニーク。

参さんが、初めて肉じゃがをつくり、
やっとできあがった時には、夜の11時。
一人、「めちゃくちゃうまい」とほくほくしながら持っていくと、
家族は5時間も待ちくたびれて、
「美味しくて当たり前じゃ」とぼやく。
なんて話を読み、思わず触発されて、
ひとりで肉じゃがを大量につくって、しっかりたいらげた。

ボタンのつけ方、アイロンのかけ方のシーンもあり、
花屋で働き始めた礼花さんのシャツの胸元のボタンが取れてるのが気になり、
場所が場所だけに言えない、気になる(汗)ということで、
参さんがボタンをつけ、
見ていた乃菜ちゃんが、次々ボタンとれてる服を持って来たり、
動機がちゃんと描けているから、
裁縫が大の苦手の私でも、ボタンをつけてみようかという気にさせられる。 
 

こうのさんのあとがきもいい。

2002年頃、いくら描いても、いっこうに速くもならず売れもしない事に気付いて、
自信を失って落ち込んでいた時、
いっその事うんと苦手なものを描いてみようと思い立ち、
悪口しか言わない「じじい」という人種が苦手だったから、
「じじい」を主人公に、家事の知識を織り込んだ、豆知識漫画にしてみたそうです。

「参平を描くうち、わたしの思っていた「苦手なじじい」はごく一握りで、大抵はこんなふうな善良な大人だったな、という事に気付かされました。気付いてからは、恋の甘さと痛みという新しい主題を加えました。「この世に居る」とはどういう事かを、参平を通じてより鮮明に描いてみたかったからです」

礼花さんの言葉で締めくくります。
礼花さんが、広島の実家にいきなり帰ってしまい、
連れ戻すため、参さんと乃菜ちゃんが、広島を訪ねる。
海にいると教えられ、出向くと
礼花さんは一人でわかめをとっていて、
「‥ご心配かけました」「ちょうど はあ帰ろう思いよったとこです」
「おめでとういうて喜ばれる覚悟ができたけえ」
と赤ちゃんができたことを告白する。
そうして、砂浜で遊んでいる乃菜ちゃんを眺めながら話した言葉です。
こういうのを読むと、作家の心の底に横たわっているものの深さと重さを思います。

「乃菜が生まれる時ぁ大ごとでした」
「おかあさんにも付き添うて貰うて結局二ヵ月も入院した」「起き上がっては吐くだけで毎日が過ぎて」「このまま死ぬんだと思いました」
「あん時」「死ぬんならここの海をもっぺん見ときたい思うた」
「じゃけえ戻ってきました」
「本当に死なないとも限りません」「あの花屋にも今度こそ戻れんでしょう」
「それでも『おめでた』なのですよね」
「おとうさんがうちに居場所を見つけてくれたように」
「見も知らぬこの子がこの世に来て」「かけがえのない人に育ってゆくのに立ち合いたくて仕方ないのだから」

◆おまけ①
つるかめ算で、
足の数と、鶴亀を合わせた数が書いてあり、
それぞれ何匹いるかとの3問の問いに、
幼い詩郎さんは、
「つるは0羽 ぜんぶかめ」と書いた。
「だってかめは足を出したりひっこめたりするじゃんか」との答えに、
「出ても引っ込んでも足の数は変わらねーんだよ」と怒る参さん。  

こういう発想、私は大好きです。

◆おまけ②
「参さん
あなたがこれをよんでいるということは
わたしはもしかするとこの世にいないのかも知れませんね」

「あなたの背中に笑って 怒って」
「そしてたくさん勇気を貰ってわたしは年をとりました」

「わたしはあなたにこんなものしか残せないけれど」
「この世ででわたしの愛したすべてが」
「どうかあなたに力を貸してくれますように」

これは、妻のおつうさんが、さんさん録に書いた言葉です。
最後の言葉は、心にしみますね。
私もこんな言葉を言って死にたいです。

漫画の方は、ここでしんみりさせておいて、
乃菜ちゃんが、虫好きだと教えられた参さんは、
池でゲンゴロウをとって、
帰って「珍しいだろう」と自慢しながら、
乃菜ちゃんに渡したら、
ただのクロゴキブリで、
乃菜ちゃんが
「やっぱり‥(ぼけかけてる)」と
泣きながらにらむ、という楽しいオチでした。

◆おまけ③
昨日、阪神百貨店のたねやで、帰省土産に
どらやきを買っていたら、
前に並んでいたおじいさんが、買いながら、
店員のお姉さんに「めちゃくちゃ美味しいんだ」って
嬉しそうにほめていた。
お姉さんも、照れながら「私も大好きなんです」と答えていた。
じいさんが「めちゃくちゃ〇〇」という言葉を使うのは
間近で聞いたのは初めてで、新鮮でとても印象に残っていたのだが、
参さんも使っていたとは‥!!!(チャンチャン)

◆おまけ④
「さんさん録」で参考文献とされたいた本を備忘録代わりに
書き写しておきます。
「はじめての台所」浅田峰子(グラフ社」
「生活図鑑」おちとよこ・平野恵理子(福音館)

漫画の惹句は、
「昨日を懐かしみ、今日を慈しみ、明日を楽しみます」 

こうのさんの「夕凪の街 桜の国」
という漫画の惹句は
「読後、
まだ名前のついていない感情が
あなたの心の深い所を
突き刺します。」 

出版社の惹句は、さすがプロならではです。 

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