パピとママ映画のblog

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リンカーン ★★★★★

2013年04月23日 | ら行の映画
スティーブン・スピルバーグ監督が、名優ダニエル・デイ=ルイスを主演に迎え、アメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの人生を描いた伝記ドラマ。

貧しい家に生まれ育ち、ほとんど学校にも通えない少年時代を送ったリンカーンだが、努力と独学で身を立て大統領の座にまでのぼりつめる。しかし権力の座に安住することなく奴隷解放運動を推し進めたリンカーンは、一方でその運動が引き起こた南北戦争で国が2つに割れるという未曾有の危機にも直面していく。奴隷制度廃止を訴えた共和党議員タデウス・スティーブンスにトミー・リー・ジョーンズ、リンカーンの妻メアリー・トッドにサリー・フィールド、息子のロバート・トッドにジョセフ・ゴードン=レビット。脚本はスピルバーグ監督作「ミュンヘン」のトニー・クシュナー。第85回アカデミー賞では同年度最多12部門にノミネートされ、デイ=ルイスが史上初となる3度目の主演男優賞受賞となった。(作品資料より)

<感想>本年度のアカデミー賞で最多12部門にノミネートされながら、受賞は2部門のみ(主演男優賞と美術賞)という結果に終わったのは、このストイックな作風が原因だったのではないか?・・・だが、普通の伝記ものとは異なり、リンカーンの最晩年の4か月間に話を絞ったのが巧いと感じた。それを奴隷制廃止法案通過のための、議会工作に強い照明を当てていたのが心憎い。

これは奴隷制廃止のためにあらゆる策略を用い、自己犠牲を払った人物の脅威に迫る。大半の人は、第一印象でリンカーンの目に深い悲しみが浮かんでいることに気付いたはず。そこで十年は老け込み、その身を削り切ったリンカーン、ゆったりと描いていく余裕の演出で、夫として父としての人間性にも触れ、戦争の愚劣をうたう。
第16代大統領エイブラハム・リンカーンという、アメリカ合衆国最大のネタの一つに取り組みつつも、「たたき上げの達人」的な定型の伝記映画にすることを避けて、例の「人民が」が3回連呼される有名な演説すら出てこない。もったいない、・・・という声が聞こえてきそうだ。

映画が始まって間もなく、ダニエル・デイ=ルイス扮する大統領は、自分が猛烈な速さで進む小舟に乗っている夢を見る。いったいこれは何なのか、彼は妻に判断を仰ぐ。サリー・フィールド扮する妻のメアリーは、あなたが乗っている船は憲法修正第13条なのだといい、早くもこの作品の争点を明らかにするのである。
私は未見ですが、かのジョン・フォード監督の「若き日のリンカーン」(38年)が青年期のリンカーン、主に弁護士時代を描いている。それとは逆に、スピルバーグ版は、南北戦争が大詰めを迎えた1865年、晩年の最期の数か月で、メインとなるのは、憲法第13条の修正案を議会で可決させるための、パワーゲームである。ここでのリンカーンは、目的のためなら手段を選ばない、現実のグレーゾーンに生きる“戦略の達人”の顔が強調されている。

そして、雨夜の中駐留地で兵士たちを迎えるリンカーンが描かれるが、彼に向かって一人の白人兵士がやはりこの演説を暗唱する。だが、名高い最後の一節を思い出す前に、彼は出立を余儀なくされる。彼の言葉を引き継ぐのは黒人の兵士である。彼はそれを述べた当人を前にして、これが自分の演説であるかのように自信に満ちた口調で口ずさむと静かに闇の中へと消えていく。
ダニエル・デイ=ルイスの甲高い声は、この大統領が人前で話をする資格を欠いていると言っているかのようでもある。むしろ彼自身は、他者の言葉を口にする時にこそ溌剌として見えるのだ。会議室で弁護士時代の挿話を述べ、聖書からシェイクスピアまで自在に引用し、電信技師の若者に向かって、ユークリッド幾何学の原理を講釈する。これは徹底して言葉と声をめぐる映画なのだと思った。

奴隷解放を実現するためにの憲法改正を成立させるには、あと20票足りない。そこでリンカーンは国務長官らに「敵対する民主党議員を必要な人数分、こちらに寝返らせよう」と提示し、強引な議会工作を開始する。そもそも共和党から初の大統領となったリンカーン、つまり当時は民主党が保守だった。だが、再選の際には、党派を超えて支持をまとめるため、「全国統一党」として出馬していたのだ。
確かに投票前夜には、独裁者といわれても仕方のないような癇癪を爆発させもするのだが、ここで重要なのは彼が自らのエゴのためではなく、修正第13条という言葉のために逆上しているということだ。
有能な政治家は、理想主義者かつ現実主義者であれ、・・・というテーマは、クリント・イーストウッド監督が、ネルソン・マンデラを描いた「インビクタス/負けざる者たち」(09)と重なるが、本作のリンカーンを見つめる目はさらに冷静である。おそらくスピルバーグ監督は、実際には綺麗ごとばかりではないリンカーン、(ネイティブ・アメリカンへの徹底的な弾圧は有名)ゆえに美化することは避けたかったのだろう。
まずその風貌が異様だ。オールバックの広い額から、髭が突き出した顎までのライン、シルクハットをかぶるとさらに面長な顔が際立。正面よりも横顔をとらえたショットが目につく。リンカーンは歴代大統領の中でも、最も背が高く、デイ=ルイスも190㎝近い長身で、そのいでたちはもはや恐怖に近いものがある。成りきり演技というよりも、リンカーンの実物を知らない私には、ダニエル・デイ=ルイスが演じるリンカーンにその人物像を見たようで、彼のオスカー受賞にも納得がいった。

そして息子役のジョセフ・ゴードン=レビット、出番が少ないがいい勉強になったのでは。それにも増して、惜しくも助演男優賞を逃したトミ・リー・ジョーンズの鬘を取ったスキンへットもまたカツラのようで、それも渋いぐっとくる泣きの演技で素晴らしかった。
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