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現在ストパン憑依物「ヴァルハラの乙女」を連載中。

【完成】弓塚さつきの奮闘記~MELTY BLOOD編 ACT.10「憂鬱」

2017-01-23 22:31:47 | 弓塚さつきの奮闘記~月姫編

「ぐ、は――――――」

足取りは重く、呼吸するたびに喉が焼けるような乾いた感触。
体力は消耗し、疲労で睡魔が絶え間なく襲いかかっている。

このままこの場で睡眠を取ることができればどんなに楽か。
そんな誘惑にシオンは心を動かされるが、それでも体は動き続ける。

何故ならいくら人気がないとはいえ、
彼女の計算によれば再度代行者に捕捉され、
今度こそ生命活動を強制的に停止させるに至るだろう。

ふと、その時シオンは思った。
今の自分はどんな姿になっているのだろうかと。
視線を下に向け、路地裏に散らばっている窓ガラスの破片に映る己の姿を見出す。

そこに映るのはこれまでになく酷い表情であった。
顔は青白く、目元は何日も徹夜してきたように疲労の極みであるのを示し、
おまけに代行者に傷つけられた生傷まであった。

「ふ―――――、なんて無様」

シオンの口から自嘲の言葉が漏れる。
何せこうも酷い状態となったのは全て自分自身が原因なのだから。

「長年の疑問が解決したにも関わらず、それを拒否。
 挙句タタリ打倒に必要な協力者とは戦闘状態に入る・・・。
 ふふふ、私と言う人間は計算ではなく感情的な人間だったとは初めて知りました」

自虐の台詞がシオン自身から発せられる。
自らを演算装置と見做す高速思考で感情という要素は省かれる。
計算において感情という計算できない要素は必要でなくむしろ邪魔である。

シオン・エルトナム・アトラシアという人間はだれよりもそれを実現してきた人間で、
これからもそうした生き方に疑問を抱いていなかったが・・・。

「異世界人、それもこの世界を俯角することができた人間の介入など計算外にもほどがあります」

壁に背を預け、シオンが嘆息する。
始めは遠野志貴の記憶から読み取ったなかに登場する重要人物、という程度の認識でしかなかった。

だから実際に弓塚さつきと邂逅した時、
『いつものように』エーテライトで情報を抜き取った。
そして得られた情報にシオン・エルトナム・アトラシアは全てを知った。

弓塚さつきが平行世界、否。
『この世界を物語として』観測できる存在は平行世界、
と言うよりも異世界人と表現した方がこの場合適格であろう。
そしてそんな存在などアトラス院の院長補佐に上り詰めた頭脳を以てしても理解不能であった。

「どう、すればいいのでしょうか?」

月を見上げるシオンからそんな言葉が漏れた。
これまでの人生で積み上げて来た物が通用せず、否定されたことにシオンは途方に暮れた。

「妹から聞いたけど、
 随分と派手に暴れたみたいね、錬金術師」

――――第三者の声が突然路地裏に響き渡る。
女性の、凛と響く声だ。
シオンは顔をゆっくりと下げ声の主を確認する。

暗闇にでも輝く黄金の金髪。
爛々と燃え盛る紅の瞳に造形美を極めた肉体と表情。
何よりも彼女が作り上げる空気は「人の形をした何か」をこれ以上なく主張していた。

「・・・真祖の姫」

「こんばんわ、エルトナムの末裔。
 今夜は良い月ね、私達みたいな魔性の者にとっては」

アルクェイド・ブリュンスタッド。
全ての吸血鬼の生み親である真祖の生き残り。
どういうわけか、極東に長期滞在しているのを把握しており、
タタリ打倒と吸血鬼化の治療に協力を求めるつもりであったが・・・。

「成程、ここが私の旅が終焉する場所ですか。
 ・・・いいでしょう、好きにしてください」

真祖の姫に関わる人間を害して生き残れるとはシオンは考えていない。
もはやこれまで、という心境で終わりを受け入れる。

しかし、シオンの諦めに対しアルクェイドは予想外の言葉を投げかけた。

「何勘違いしているのかしら?
 さっちんが傷ついた事には腹が立ったけど、
 私は別に貴女をここで殺すつもりなんて無いわ」

「なっ・・・!?」

呆れと共にシオンの決断を否定したのだ。
やれやれ、と言わんばかりの身振りすらしている。

「馬鹿な、何故です?
 目の前に吸血鬼がいる。
 それだけでも姫が動くだけの理由があるはずです!!」

魔術師の常識が崩れシオンはアルクェイドに問いただす。
吸血鬼を前にして行動を起こさない真祖の姫、という事実は受け入れがたい物であった。

「そんな事言われても意味がないし。
 ・・・そうね、強いて言うなら貴女の様子を見に来た、それだけよ」

「・・・・・・・・・」

殺す価値もない、
と言われての衝撃と様子見という想像の範疇外の回答にシオンの思考は停止する。
弓塚さつき、遠野志貴から抜き取った記録から魔術師が考える真祖の姫と、
実際の人物の間に大きな亀裂があることを知っていても予想外であった。

「それにしても、正直がっかりだわ
 てっきり私に突っかかって来るものかと期待していたけど、
 世界を知り過ぎて自ら絶望に捕らわれた歴代のアトラス院と同じ道を歩むなんて」

「――――——――—」

アルクェイドの言葉に対しシオンは沈黙を保つ。

「まあ、それが貴女の選択、
 ということなら別に私は止めないわ。
 ここのタタリは私やシエルで何とかするから三咲町から出ていくといいわ。
 それじゃ、もう会うこともないと思うけど、バイバイ――――」

「――――——――待ちなさい、アルクェイド・ブリュンスタッド」

踵を返し立ち去ろうとしたアルクェイドに沈黙を保っていたシオンが言葉を投げかけた。

「先ほどから随分と好き勝手に私を評していましたが、
 認めましょう、確かに私は所詮アトラス院という穴倉の住民。
 自らの行き先とこの世界の未来に絶望と狂気を覚える錬金術師です」

「ふぅん・・・?」

批評を素直に認めるシオンの話す内容にアルクェイドは足を止めた。
先ほどまで失せていた関心が再びシオンに向けられる。

「その上自分の矛盾を認められず癇癪を起した未熟者です。
 ・・・ですが、貴女が言うようにタタリから逃げることなど有りえません!
 タタリとの戦いは私が決着を付けねばならない事情で、そのために此処まで来たのですから」

僅かに残った意地と勇気を頼りにシオンは己の内心を口にした。
これまで自分自身を欺いていた事実を認めつつタタリから逃げないという発言。
その内容にアルクェイドは・・・。

「・・・あは、あはははははは!!
 成程、貴女は意地だけを頼りにしているのね。
 愚かね、貴女程度でタタリに敵うとは自分で分かっているはずよ?」

腹を抱えて爆笑した。
金髪の髪が乱れ、瞳には涙さえ浮かべている。
眼の前にいる人間が抱える矛盾と愚かさに笑い続ける。

「魔術師としては失格だけど―――――――私はそういう人間の事嫌いじゃないわ」

だが、遠野志貴に『壊され』た後、
そうした人間という種族の性質を理解しそれを良し、
とするアルクェイドはシオンの発言に対しそう締めくくる。

「じゃあ、今夜はこれで。
 貴女の健闘を期待するわ」

再度踵を返し、
今度こそ立ち去ろうとする、その時。

「ところで、真祖の姫はどこまで知っているのですか?『弓塚さつき』という異物を」

シオンの質問が飛ぶ。
夜の路地裏に響いたその声は冬の様に冷たく、
肌を突き刺す緊張感がこの場を支配し、重い空気が流れる。

「――—―――—さあ、私が知るさっちんは、私が認識するさっちんしか知らないわよ」

一拍間を開けてアルクェイドが質問に答える。
しかし顔は振り向かず背をシオンに向けたままだ。
そしてその声の音は先ほどまでの感情豊かな音声と違い抑制された音調である。

「好奇心が強いのは感心するわ。
 でもね、あまり深入りすることをお勧めしないわね。
 今回は腹を立てた程度にしたけど――――――—次はないから」

「――――――——っ!!?」

刹那、濃厚な殺意が夜の路地裏を制する。
人には耐えがたい強烈な意思と気配に気圧され、
シオンは吐き気を堪えるように口を手で塞ぎ堪える。

「今度こそ、ばいばい。
 せいぜい足掻きなさい。
 それが未来を目指す人間のあるべき姿であり、
 過去にしがみ付く吸血鬼との最大の違いだのも」

言い終えるとシオンの方へ顔を振りことなく、
手をひらひらと手を振りアルクェイドはその場から立ち去る。

残されたシオンはただ茫然とその後ろ姿を見送る事しかできず、
より深い夜の闇に消えゆくアルクェイドの姿が見えなくなるまでその後ろ姿を見つめた。







 
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