ここはどこだろう?
上下左右の感触が掴めない不思議な意識の中に俺はいた。
重力もないようで体の重みも感じられず、浮遊感にただ身を任せる。
一体いつからここにいたのだろう。
記憶もひどく曖昧で、思考することができない。
おまけに、視界情報もなく、自分がどうなっているかがまったく分からない。
しかし、何も分からないことに不安に駆られることはない。
なぜならこうしてじっとしている間、不思議と体は暖かく、気持ちが良い。
気力が湧かない、体が動かない。
けどこのまま別にずっと居ていいような気がする。
そう、それこそ永遠に――――。
唐突に紫色の少女の姿が瞳に浮かんだ。
灰色の脳漿が彼女、シオンとの出会いの記憶を再現する。
吸血鬼との対決、そして俺は致命傷を受けて倒れた記憶が蘇る。
思い出した。
俺はこんな所でボンヤリとしてはいけなかった事に。
起きて、あの後の話を聞かなくてはいけない。
体が重い。
瞼を開くだけでも重みを感じる。
けど、それでも開けねばならない。
吸血鬼、シオン。
そして謎の第三者の介入。
その全てを俺は知る必要があるのだから。
「く、は――――」
徐々に瞼が開く。
光りが鼓膜を刺激し、眩しさを感じる。
まだ吐く息は荒く、呼吸はか細いものであるが、
沈み込んでいた意識は覚醒し、視界情報が認識できるようになる。
「ここは、」
体に掛かる布団。
首だけを回して周囲を見るとどうやら俺の部屋らしい。
多分、シエル先輩とさつきがここまで運んでくれたのだろう。
が、部屋には俺以外誰も居いない。
ここから、先は俺が行動に出る必要があるようだ。
しばらく、浅い呼吸を繰り返し、
やがて上半身を起き上がらせるのに成功した。
「ぐっ……!?」
痛みが胸元から走る。
視線を自分の胸に移せば包帯がキッチリと巻かれている。
しかも、包帯には何らかの文字が書かれておりどうやら唯の包帯ではないようだ。
こんなことが出来る人間は俺が知る限り2人しかいない。
1人はロアから知識を授かることで魔術師を始めたさつき。
そして、同じくロアから魔術の知識を学び、例え仮の姿でも俺にとっては先輩の、
「もう、こんばんわ。
と言うべき時間帯ですけど、
おはようございます、遠野君」
「先輩……?」
横から声。
首を回せばその先輩ことシエル先輩が佇んでた。