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自分へ漕ぎ出す。

「命」は、重いですか?

2011-07-17 15:57:12 | 感想箱
娘を殺された女教師の、命の授業が始まる。


――告白(2010年 6月公開)


中島哲也監督の作品は、すべて見ました。
中でも「嫌われ松子の一生」は、中谷美紀さんの真骨頂。一番好きです。

「下妻物語」のゴスロリ、「パコと魔法の絵本」の絵本の世界など、
突き抜けた極彩色の世界観が、独特で好きでした。

「告白」も、本当は劇場へ行って見るはずだった。
でも見逃して、何となく見ないまま来た「告白」をついに見ました。

…いや、これは衝撃の問題作でした。前評判を裏切らない。
傑作でしょう、間違いなく。でも、名作とは言いたくない。
結論から言うと、この作品は嫌いです。

ただただ、気持ちが悪かった。描き方がえげつない。悪趣味。
おぞましくて吐き気がした。

ともすれば単調になりがちな「静」のシーンばかり。きっと映画には向かない原作。
それをわざわざ実写化してなお、魅せる完成度は高いと思います。

特に冒頭の、女教師の「告白」の場面は長く、普通なら観客を飽きさせる。
視覚的にも教室を生徒が埋め尽くし、その制服の黒で画面が暗い。

しかし何ひとつ無駄のない完璧な台詞、映像や、
女教師の淡々とした狂気がひたひたと近付いてくるような感じが、見る者の心をとらえて離さない。

そしてそのまま、中だるみすることなく最後まで見せる。
「告白」のつなぎも無駄がなく、完璧。
「作品」としては、非の打ちどころがないと思います。

でもとにかく…悪趣味でした。
一番は、いじめや殺人など、重い場面を「スタイリッシュ」に描いているところ。
(こう言うと語弊があるのですが…本当にそうとしか言えないのです。)

「少年B」が、女教師の娘をプールに落として殺す場面。
4歳の子だろうと、華奢な少年には重いだろうに、本来重いはずの「命」が、
ボールを放るみたいに軽く扱われる。

スローモーションで落ちてゆく幼い少女の軌跡。
それを放り投げるのも少年。
決して人物に寄ることはなく、定点からの映像は視覚的で、美しくさえある。

「少年B」が母親を刺す場面、「少年A」が同級生を殺す場面も同様に、
人を殺すこと自体が「芸術」であるかのような描写。

この描き方は禁じ手ですよ。
たとえ「現代の」犯罪を描くことでその罪悪を糾弾しているのだとしても、許されない映像。

女教師の「告白」の後、何事もなかったように帰る生徒たち。
この映画の、このシーンの後に配されたのでなければ、
みずみずしい若さや、若さゆえの儚さ、刹那的な美しさを感じさせるカットなのですが、
わざわざここに入れてあることで、
大人が信じたがっている「子どもの純真さ」というものを
大人に突き付けるような、制作側の悪意にも似た狙いを色濃く感じる。

冒頭の、女教師の話を全く聞かないクラスの生徒たちや、
「少年A」へのいじめのシーンもそう。制作側の悪意を感じる。
生徒たちが「悪魔」に見える。

本当に気持ちが悪い。悪趣味。
一応きちんと理解するために二度見ましたが、もう二度と見たくない。

二度見てさらに実感する、無駄のない完璧な脚本。
そしてラストで松たか子さんが「少年A」の髪をつかんで、涙を浮かべながら、
怒りとも笑いともつかない表情をするシーンは、際立って優れていました。

喜怒哀楽のすべてを現わしたような表情。
能面のように表情を変えなかった女教師が、初めて人間くさく見えた、
感情的な場面はすばらしかった。

でも、終始不快でした。

何をもってこの映画を「面白い」「リアル」だと言うのか、まったく理解できない。
「この映画を一番好き」とか言ってのける人の心が、信じられない。
おぞましい。

何がおぞましいって、この映画の演出もさることながら、
この映画を評価する人が一番おそろしい。

なのに引き込まれて最後まで息がつけなかった。だから私は嫌いです。
原作を映画に活かしきった監督の手腕、の一言に尽きます。評価するとしたらそれだけ。

ポップでコミカル、スピード感あふれる過去の作品の世界観。
中島哲也監督は、今作で新たな境地をひらいたことでしょう。

でも、気持ちが悪いんだよなあ…。いろいろ。