日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

乙武さんの一件に学ぶ、正しいトラブル・コミュニケーションのあり方

2013-05-23 | ビジネス
車いすでエレベータのないレストランに来店した乙武さんが店側に入店を拒否された一件が大変な話題を集めています。事件の経緯や障害者と健常者のやり取りのあり方をとやかく言うつもりは毛頭ありません。私はどちらが良い悪いではなく、自己の商売柄ビジネスにおけるコミュニケーション円滑化を扱う立場から、この一件から学ぶべきコミュニケーション上の教訓を記しておきます。なお、あくまでネット上で得た情報を元に一般論で教訓を記します。事実関係の成否確認はしておりません。

1. 相手に負担や迷惑をかける可能性は、分かった段階ですぐに伝える
相手に迷惑や想定外の負担を与える可能性がある場合は、その事実が発覚した段階で即座に相手に伝え事前の了解あるいは心構えをもってもらう必要があります。それがないと、相手は予期せぬ事実に「聞いてなかった」→「話が違う」→「知っていながらなぜ教えなかった」という驚きから怒りに変質することにもつながりかねません。相手に負担や迷惑がかかる恐れがある事実は、判明時点で必ず伝える必要があるでしょう。

今回の件では、乙武さんはそのレストランがエレベータの停まらない階にあることは事前に知らなかったそうではありますが、未知の店への来店であるなら、「もしかすると、お店にご迷惑をおかけすることがあるかもしれませんが、車いすでも大丈夫ですか」と事前に申し出ておくのがベターであったとは言えるでしょう。

2.店舗側はどんな時もビジネスであるということを忘れてはならない
ビジネス・コミュニケーションでもっとも大切なことは、どんな場面においても「主客」の立場を忘れてはならないということです。要するに、自身が「主」相手が「客」であるのなら、どんなに不都合なことがあろうとも(犯罪行為の類は当然除きます)、お客様に接しているのだという態度を忘れてはならないということなのです。

乙武さんは今回で相手をブログで非難した理由について、店主の「上から目線」を最大の理由として挙げています。これがもし本当であるのなら、店主の「上から目線」がなかったなら、今回のような第三者を巻き込んでの大きな騒ぎにはならなかったと思われます。店主に「上から目線」があったか否かは、乙武さんの主観の問題ですから何とも言えませんが、それを思わせる「主客」を忘れた何かはあったのでしょう。

3.トラブル・コミュニケーションは第三者を介さない大原則
トラブル発生時によくある「火に油」の状況は、トラブルの口火となうような一言を、当事者ではなく代理人や取り巻きに対して発し、そのことが間接的に伝わることで当事者同士のコミュニケーション成立前に感情がもつれ、まともなコミュニケーションが成立しなくなることです。「××と言っておけ」と伝言形式で非難、批判、罵倒の類を口にすることは、相手に正確に意図が伝わらないばかりが、第三者を介することでその第三者の主観がそこに入り込み一層やっかいな感情のもつれを生む原因になるのです。

今回の件で店主は断りの第一声を乙武さんの同伴女性にしています。同伴女性はそれを受けてあまりのショックに言われたことを泣きながら乙武さんに伝えたと言いますが、ここがトラブルを大きくした最大の原因であると思っています。店主はその後階下に降りて乙武さんと直接話をしていますが、もう後の祭り。乙武さんは泣きながら戻った女性を見て、どんなにひどい言われ方をしたのかと、相手と直接相対する前に相手に対する怒りや嫌悪の感情を持ってしまうわけで、これではまともなコミュニケーションが成立するハズがありません。完全なる店主側の落ち度です。「トラブル・コミュニケーションは第三者を介さない」は大原則として記憶したいところです。

4.外に出すリスクの大きさを知り、時を改め再度コミュニケーションをとる
当事者間のトラブルを外に公言するということは、最大限避けなくてはいけない部分です。どんな形であれ、トラブル情報が外に出ると言うことは詳細な事情を知り得ない無関係な第三者の目に触れさせることを意味するわけで、相手への誹謗中傷の拡大に加えて予期せぬ自己への批判も起こりうることであり、相応にとってプラスは何もないということになります。今回の件のように、大企業や著名人がトラブルの当事者として絡んでいる場合はなおさらリスクが大きくなると考えるべきでしょう。著名人のツイッター炎上などは大半が、このようなリスクの行方を考えないトラブルの公言や他者批判に起因するものです。

もしトラブルを公言しようと思うことがあったなら、特に影響力の強い立場にある側は、まずは冷静さを取り戻すだけの時間をおいたうえで、直接相手に再度コンタクトをとり改めて事実関係を正してみた上で善後策を検討するという注意深さも必要であると思います。

トラブル・コミュニケーションはビジネスをおこなう上で避けては通れない問題でもあり、その上手な運び方に対する心得や事を深刻にしない工夫があれば、余計な労力や精神面のダメージを生むことなくやり過ごすことができるのです。今回の件を傍目で見ていて、ビジネス・パーソンはこの機会に改めてそのあたりを認識されてはいかがかなと思った次第です。

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