日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「半沢直樹」最終回の元銀行管理職からみた解釈

2013-09-23 | 経営
話題のTVドラマ「半沢直樹」の最終回を見た私の友人たちが、昨晩からけっこうSNSで騒いでいます。大半はドラマの結末に不満ありで、その論点は「自己の利益の為に迂回融資を指示した大和田常務はなぜクビにならないか」「半沢直樹はなぜ出向なのか」というもの。ここはひとつ私が元銀行管理職の観点で、納得のいくようにご解説申しあげましょう。

まず、大和田常務の降格という処遇について。ドラマの中で本人も「懲戒解雇になっても文句が言えない立場」と口にしていましたが、結果は外部出向でもなく平取締役への降格止まり。半沢の同期が、合併行の融和を重んじて相手行トップを完全掌握することを狙いとした頭取の温情人事であると言っていましたが、私はその見方は全くのはずれとは言わないもののあくまで付随的な理由であると思います。

最大の理由は、中野渡頭取自身の保身でしょう。定例の役員異動でない時期に№2の常務を更迭するなら、「東京中央銀行に何事があったのか」と大問題に発展しかねません。それが役員の家族企業への迂回融資であったなどと分かったなら(話題になればたいてい関係者からリークされます)世間的には大事件であり、対金融庁上もタダではすまされない問題に発展することは想像に難くありません。さらには銀行の信用問題にも発展するでしょう。そうなればすなわち、頭取の責任問題は回避できません。単なる降格人事であるならば、「与信管理上の責任をとらせた」等々理由はいくらでもつけられるのです。

「私は人を見て判断した」などと大和田常務本人に平気な顔でのたまう中野渡頭取は相当なたぬきであると思われますが、銀行上層部にたぬきはつきものです。このドラマの事件は、迂回元の企業が金を返してくれと言っている以上完全に犯罪であり、また私欲での迂回融資など、言い訳の余地なきコンプライアンス違反です。この事件を金融庁に対しては虚偽報告もしくは未報告で済ますであろう中野渡頭取は、大和田常務の上を行く一番の悪(ワル)であると断言していいと思います。

次に、半沢直樹の出向人事について。このドラマでは再三再四、出向は片道切符の「悪いモノ」的なイメージで語られ続けていますが、現実は必ずしもそうではなく、“一回休み”的な待避ポストとしての外部出行も存在します。特に今回の半沢氏への辞令は、グループ内証券会社と思われる先への営業企画部長発令です。同じ金融機関への出向は、銀行業法上本体では取り扱えない金融業務を身につける場でもあり、将来の役員候補に対する教育的出向であると理解できるものでもあります。

しかも、関連会社の職位はひとつ下の職位が本体の対応職位であり、営業企画部長という部長職は本体でば副部長がそれにあたります。すなわち本店次長職の半沢氏にとっては昇格人事であり、不満を感じるべき異動ではないのです。外部出向時に昇格人事で外に出すと言うのは“片道切符”ではあり得ないことなので、この点からも半沢氏の出向が片道ではないことが分かります。

さらにもうひとつ、半沢氏の出向人事には金融庁からの検査入検時の対応に関する指導に形式上答える必要に迫られたものでもあるのでしょう。対金融庁向けの「ご指摘の人物は主要ラインから外部への異動を命じました」というポーズです。要するにこの点もまた中野渡頭取の保身対応が見てとれるのです。私には金融庁長官宛、上記に関する報告書を携えて平身低頭“ご説明”にあがり、事なきを得て帰りの黒塗り公用車の中でほくそ笑む中野渡頭取の姿まで目に浮かんでくるところです。

いずれにしましても、多くの方々がご指摘の通り、続編を作らんがためのキャストの温存というシナリオありきのエンディングであるとは思われるのですが、上層部のさらに深い闇を最後に暗示させると言う意味で、銀行員観点からはよくできたエンディングであると思います。続編では、半沢直樹氏の中野渡頭取への「倍返し」を期待したいところです。
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8 コメント

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タミヤ電気の3000万は… (のりすけ)
2013-09-24 07:38:26
とても分かりやすい解説で納得できました。
ところでタミヤ電気の3000
万はどうなって、しまうのでしょうか?近藤に回収しましょう!と説得され証言をしたのに…
半沢たちは近藤のためにタミヤ社長にもう一度証言してもらわなかったのに、3000
万は戻らない、近藤
銀行に返り咲いてるでは近藤が裏切った事はバレバレな気がしますが…
一番の被害者はタミヤ社長ではないでしょうか?
タミヤ電気に3000万が戻る可能性はあるのでしょうか?
Unknown (綾崎モアイ)
2013-09-24 13:24:08
でもこれ、大和田のコンプライアンス違反を半沢が関西のマスコミを通じてリークする可能性もありますよね?
伊勢島の暴力団のネタの調査を、半沢がネタで返した描写もなかったし。
Unknown (綾崎モアイ)
2013-09-24 13:32:29
と思ったら、すでに解説済みでしたすいません(^。^;)
個人的には、 (Unknown)
2013-09-25 03:41:23
あくまでもドラマの最終回の最後のシーン、という見方で言ってしまうと、半沢の出向はやっぱり「片道切符」でもいいかなぁと思いました。

大和田を掌握し、自分のポジションが死守できた今、頭取にとってもはや脅威なのは半沢。支店長、常務相手に10倍100倍返しする人間を下手に的に回せば、必ず自分のクビが飛ぶ。それを目の前で見てビビった頭取は、あくまでも昇格ながらも「片道切符」の出向を命じることで敵を遠ざけた、と見ると面白い気がします。

つまり、あれだけ金ではなく人を信じて、と言っていた頭取も、結局は派閥の人間であり大和田同様頭取というポジションに固執するような人間だった、銀行なんて所詮そんな所だよ、と言いたかったのか、はたまた頭取も過去に絶対に口外出来ないような秘密を抱えていたのかは、分かりませんが。もしくはベタに、「半沢はそれほどまでに手強い人間なのだ」というイメージを植え付けて、めでたしめでたし、だったのかも知れませんが。

いずれにしてもこうやってドラマ的にエンタメ的に見てしまうと、ストーリーの流れ上実際には起こりえない事も起こってしまうんでしょうね。
自分的には (通りすがり)
2013-09-25 06:06:42
「麒麟の翼」という映画で、教師が生徒の事故を隠蔽したため教え子が自身の犯罪を隠蔽する元凶になった、というくだりがありました。天下・国家を標榜する銀行トップが自行存続のために犯罪を隠蔽する、本当に経営に携わる者のあるべき姿でしょうか?金融自由化以降、護送船団方式は崩れ、クライスラーは経営破綻、アーサーアンダーセンは顧客の粉飾決算隠蔽が露見して解散する時代です。TCBCも不祥事を自ら発表することがリークを心配するより何倍もいい事だと思います。
Unknown (Unknown)
2013-09-25 15:31:11
なるほどーー!!!とても納得しました!
ありがとうございました。
さっそく旦那や家族に伝えます!
Unknown (Unknown)
2013-12-07 08:46:37
もう二ヶ月も経ってますが今最終回を観たところです
深い解説有難う御座います
業界を知らない者としては単純にハッピーエンドを期待してしまうものの、
実際そうだったらそれはそれで単純すぎて何か違和感が残った気もします
現実はそんなうまくいかないんじゃないかっていう。
むしろ大和田への中途半端な降格と、半沢への中途半端な昇格で終わってしまい
視聴者が何の違和感もないままドラマを観た記憶を失っていく事の方が怖いです
実際そんなうまく行かないよなぁっていう問題意識を全く持たずに観終えたら
あなたのような業界人にとって歯がゆくてたまらなかったでしょうね。
原作ではどういう結末になってるか知りませんが
少なくともドラマでは解説された通りの深いエンディングだと思います。
Unknown (ミッチ)
2014-04-27 10:35:54
今更ですが、リアルタイムで見ておらず、先日見終わったものでコメントいたします。

私も同意権ですね。特に、半沢直樹の出向は私も昇格だと見てました。

内部の人間ではないので、どう説明付けたらと思ってましたが、貴投稿で得心できたしだいです。

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