最近、新聞の紙面などで、「○○力」という新造語を、折に見かける。
<○○+力>という形の複合語である。
11月8日の朝日新聞の広告欄(日本実業出版社)で、本の題名に、二つも、その例を見た。
「そうじ力で自分磨き!!」(「そうじ」とあえて平仮名で書いてあるが、意味は「掃除」のことであろう。)
「幸せ成功力を日増しに高めるEQノート」(「日増しに高める」は、細字で二行書きになっている。)
「そうじ力」に「成功力」か、と心で呟きながら、最近の造語として、折々目にするこの言い方に、この朝も、なんだか馴染めななかった。
早朝、新聞をベッドで読む習慣のある私は、読み止しの新聞を胸の上に置いて、昔からごく一般的に使われる「○○力」という形の複合語を思い出してみた。
想像力・構想力・表現力・判断力・応用力・生活力・耐久力・生命力・注意力
発言力・抵抗力・精神力・持久力……
指折り数えているうちに、すでに数えた語かどうか、頭が混乱してきたので、途中でやめてしまった。
思い出す言葉は、どうしても自分に関わりのあるものが多いようだ。
時間をかけてメモすれば、「○○力」という単語は、相当な数に上るのだろうな、と思った。
その後、「○○力」のことは忘れていた。
翌日、たまたま『雪舟応援団』(赤瀬川原平×山下裕二著)を読んでいて、「○○力」のことを、また思い出した。
「○○力」という言葉の生みの親は、赤瀬川さんだと、私は思っている。
赤瀬川原平著『老人力』の出版は、1998年。
それ以来ではなかろうか? 「○○力」という新造語が増えてきたのは。
『雪舟応援団』の中にも、数箇所「老人力」とい言葉が出てきた。
この本の中では、雪舟の晩年の絵に絡んで、この語が使われている。
この「老人力」という語は、誤って使われることが多いらしく、山下さんは、そことを心配して、次のように記されている。
<「老人力」というのは、三十年も前の留学を誇らしげに語る俗な元気さとは正反対の力で、留学したことを忘れてしまうような力のことを言う。最近、マスコミでは、この流行語をまちがって使っている例(「老人力でますます健康」みたいな)が多いから、ご注意を。赤瀬川さんも困っているでしょう。>と。(P.91)
赤瀬川原平著『老人力』の帯には、
<ろうじん-りょく【老人力】
物忘れ、繰り言、ため息等 従来、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌として忌避され
てきた現象に潜むとされる未知の力。
― -がついてきた【老人力―】
ぼけ、ヨイヨイ、耄碌の婉曲表現。>
と、解説されている。
この本を求め、如実に、しかしユーモラスに、老いの姿が捉えられているのを、人事とも思えず読んでから、もう八年になる。
「力」とは、本来、プラス面を表す言葉だろう。
ところが、常識的には、老人のマイナスと取れる一面を、「力」という語に複合させ、赤瀬川さんの、この造語、流行語は誕生した。
だから、なかなかインパクトのある言葉だった。
『雪舟応援団』には、また新たに「乱暴力」という造語が加わっていた。こちらも数箇所使われていた。
例えば、雲谷等顔の模本には、筆を置きにゆくような描き方がしてあって、「乱暴力」が出ていない、というふうに。
雪舟について言えば、その水墨画には、「乱暴力」ともいえる、雪舟ならではの、生きた筆遣いのよさがある、と言っているのだろう。
「老人力」「乱暴力」に比べれば、「成功力」「そうじ力」は、平凡すぎる造語のように思えるが、どうだろう?
物好きに、「力」を伴う複合語を広辞苑の逆引き辞典で調べてみた。
ずいぶんな数である。
8日の朝、頭の中で考えた語以外で、よく使われるものには、次のような単語がある。
影響力・強制力・起動力・原動力・購買力・親和力・推進力・即戦力・粘着力
復元力・付着力・摩擦力・労働力……など。
法律用語としては、
確定力・羈束力・形成力・公信力・執行力……など、馴染みの薄い語もあり、
理科系用語としては、
遠心力・求心力・交換力・電磁力・電気力……など、多数の用語がある。
私が思いついた語のうち、表現力・応用力は広辞苑には出ていなかった。ごく普通に使う言葉のように思うけれど。勿論、老人力・乱暴力・成功力・そうじ力なども、辞書には出ていない。
漢字は、簡単に複合語を造ることができるので、今後も、造語は増えてゆくことだろう。
「老人力」のような、ややシニカルで、ユーモアもある、そういった造語なら面白いが、薄っぺらな造語に出会うと、いやになる。日本語がかわいそうになってくる。
<○○+力>という形の複合語である。
11月8日の朝日新聞の広告欄(日本実業出版社)で、本の題名に、二つも、その例を見た。
「そうじ力で自分磨き!!」(「そうじ」とあえて平仮名で書いてあるが、意味は「掃除」のことであろう。)
「幸せ成功力を日増しに高めるEQノート」(「日増しに高める」は、細字で二行書きになっている。)
「そうじ力」に「成功力」か、と心で呟きながら、最近の造語として、折々目にするこの言い方に、この朝も、なんだか馴染めななかった。
早朝、新聞をベッドで読む習慣のある私は、読み止しの新聞を胸の上に置いて、昔からごく一般的に使われる「○○力」という形の複合語を思い出してみた。
想像力・構想力・表現力・判断力・応用力・生活力・耐久力・生命力・注意力
発言力・抵抗力・精神力・持久力……
指折り数えているうちに、すでに数えた語かどうか、頭が混乱してきたので、途中でやめてしまった。
思い出す言葉は、どうしても自分に関わりのあるものが多いようだ。
時間をかけてメモすれば、「○○力」という単語は、相当な数に上るのだろうな、と思った。
その後、「○○力」のことは忘れていた。
翌日、たまたま『雪舟応援団』(赤瀬川原平×山下裕二著)を読んでいて、「○○力」のことを、また思い出した。
「○○力」という言葉の生みの親は、赤瀬川さんだと、私は思っている。
赤瀬川原平著『老人力』の出版は、1998年。
それ以来ではなかろうか? 「○○力」という新造語が増えてきたのは。
『雪舟応援団』の中にも、数箇所「老人力」とい言葉が出てきた。
この本の中では、雪舟の晩年の絵に絡んで、この語が使われている。
この「老人力」という語は、誤って使われることが多いらしく、山下さんは、そことを心配して、次のように記されている。
<「老人力」というのは、三十年も前の留学を誇らしげに語る俗な元気さとは正反対の力で、留学したことを忘れてしまうような力のことを言う。最近、マスコミでは、この流行語をまちがって使っている例(「老人力でますます健康」みたいな)が多いから、ご注意を。赤瀬川さんも困っているでしょう。>と。(P.91)
赤瀬川原平著『老人力』の帯には、
<ろうじん-りょく【老人力】
物忘れ、繰り言、ため息等 従来、ぼけ、ヨイヨイ、耄碌として忌避され
てきた現象に潜むとされる未知の力。
― -がついてきた【老人力―】
ぼけ、ヨイヨイ、耄碌の婉曲表現。>
と、解説されている。
この本を求め、如実に、しかしユーモラスに、老いの姿が捉えられているのを、人事とも思えず読んでから、もう八年になる。
「力」とは、本来、プラス面を表す言葉だろう。
ところが、常識的には、老人のマイナスと取れる一面を、「力」という語に複合させ、赤瀬川さんの、この造語、流行語は誕生した。
だから、なかなかインパクトのある言葉だった。
『雪舟応援団』には、また新たに「乱暴力」という造語が加わっていた。こちらも数箇所使われていた。
例えば、雲谷等顔の模本には、筆を置きにゆくような描き方がしてあって、「乱暴力」が出ていない、というふうに。
雪舟について言えば、その水墨画には、「乱暴力」ともいえる、雪舟ならではの、生きた筆遣いのよさがある、と言っているのだろう。
「老人力」「乱暴力」に比べれば、「成功力」「そうじ力」は、平凡すぎる造語のように思えるが、どうだろう?
物好きに、「力」を伴う複合語を広辞苑の逆引き辞典で調べてみた。
ずいぶんな数である。
8日の朝、頭の中で考えた語以外で、よく使われるものには、次のような単語がある。
影響力・強制力・起動力・原動力・購買力・親和力・推進力・即戦力・粘着力
復元力・付着力・摩擦力・労働力……など。
法律用語としては、
確定力・羈束力・形成力・公信力・執行力……など、馴染みの薄い語もあり、
理科系用語としては、
遠心力・求心力・交換力・電磁力・電気力……など、多数の用語がある。
私が思いついた語のうち、表現力・応用力は広辞苑には出ていなかった。ごく普通に使う言葉のように思うけれど。勿論、老人力・乱暴力・成功力・そうじ力なども、辞書には出ていない。
漢字は、簡単に複合語を造ることができるので、今後も、造語は増えてゆくことだろう。
「老人力」のような、ややシニカルで、ユーモアもある、そういった造語なら面白いが、薄っぺらな造語に出会うと、いやになる。日本語がかわいそうになってくる。