た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

素敵な出会いをするには。 4

2016年11月24日 | essay

 

 朝起きたら、雪。

 ということで、雪の降る朝に素敵な出会いをするには。

 

 やっぱり何といっても旅館がいい。それも、「はたごや」と呼ぶに相応しい、時代遅れの寂れた小さな宿。浴衣姿のまま朝食を終えた男は、腕組みをして窓の外を見やる。街道は昨日と打って変わった雪景色。その上になお、湿り気のある雪が列を乱しながら舞い降りる。

 「参ったな」男は嘆息する。「午後には本社で会議に出る予定だったんだが」

 「仕方ないどすえ」と旅館の女将が膳を片付けながらわざとのんびりした声で言う。なぜか京都弁である。「電車もいつ復旧するかわからしまへん。ここは観念して、ゆっくり連泊でもしなはったらどうどす」

 男は腕組みをしたまま女将を振り返る。昨晩お酌される時も思ったが、色艶のいい和服の似合う女である。涼しげな眼が訴えるような、からかうような媚びを湛える。

 男は再び窓の外に目を向け、舞い落ちる雪を眺めながらいろいろと自問自答する。しかしいかんせん旅先である。浴衣姿である。非日常を演出する雪景色である。どうしても気の緩みがある。

 男は腕組みを解き、大きな伸びをする。

 「そうか、じゃあ諦めて、もう一晩お世話になろうかな」

 「そうしなはれ。朝から雪見酒も風流どすえ」

 「朝からかい?」

 女将は和服の襟元を指でなぞる。「こんな天気で他にお客さんもいてはらしません。私も付き合わせてもらおうかしら」

 男が驚いて女を見つめる。女はじっと男を見上げる。

 二人の視線が動かなくなる。

 

 ・・・おやおや、朝っぱらから書く話じゃないな。ほら、さっさと外に出て雪かき、雪かき。

  

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