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素敵な出会いをするには。 7

2016年12月10日 | essay

 

 ゴミステーションで素敵な出会いをするには。

 

 小学生たちがランドセルを振り回したり奇声を発したり、口喧嘩の末、拗(す)ねて先に歩き出したり、眠い目を擦りながらすぐ傍で起こっている喧嘩に全く無関心でいたりと、つまりは大人たちの社会と同じような行動を取って登校している、その朝靄立ちこめる団地の光景に、完全に溶け込むようにして男と女が現れる。男は可燃ごみを両手に提げる。ぼさぼさの髪には寝癖が付き、無精ひげに火の付いてない煙草をくわえ、のそりのそりと現れる。いかにも去年妻に逃げられました、というオーラを発散している。彼より一足先にゴミステーションに着いた女も、孤独と疲労が片足ずつサンダルを履いて立っている感がある。ほつれた鬢(びん)を地味な色のカーディガンの上に垂らし、ゴミ袋の山がどう築き直しても崩れるのに悪戦苦闘している。

 男が女の脇から片手でドン、と袋を叩いてやると、すべてのゴミ袋は鬼隊長に一喝された一兵卒たちよろしく、大人しく一山に固まって微動だにしなくなる。

 「あ、ありがとうございます」

 女は身を退き、小さく礼を言う。長年、他人と関わり合うのを避けてきた人が発する、相手に聞こえることを望まないような、声にならない声。彼女はたとえ喫茶店で甘ったるいストロベリー・パフェをご馳走しても、自分の長い過去を語りそうにない。

 しかし男の不愛想に、内心女は心惹かれる。ひょっとして自分より不幸な人生を歩んできたのかな、この人は、と、ふと不謹慎な考えまで脳裏をよぎる。

 男が自分の持ってきたゴミ袋を二つ、放るようにしてゴミの山に乗せると、せっかく固まっていた一団が、鬼隊長の去った後の一兵卒たちよろしく、だらしなく崩れ落ちてしまう。

 女は思わず、くすり、と笑う。男は女の顔を見て、鼻息だけで苦笑を返す。

 まぶしい朝日が靄の上から顔を出す。二人は同時に目を細める。

 「いつもこの時間に捨てに来るんだ」

 「あなたも」

 二人は目を合わせ、気まずく逸らす。

 「たまには亭主にやらせりゃいいのに」

 「亭主なんて五年もいないわ」

 「・・・そりゃ、どうも」

 「あなたこそ。奥さんにやらせればいいのに」

 「奥さんがいる恰好か、これが」

 女は男を上から下まで眺め回し、思わずぷっ、と噴き出す。

 「・・・ごめんなさい」

 「構わねえよ」

 二人は並んで佇み、騒々しい小学生の一団をやり過ごす。一人の子が彼らに向かって朝の挨拶をする。二人共、驚いたように挨拶を返す。

 朝日はぐんぐんと高く昇る。

 お互いとうの昔に三十路を過ぎ、人生の何かを諦めかかった矢先の────それは朝靄のように掴みどころのない────しかし、忘れかけていた朝のすがすがしさを思い出させるような出会いであった。

 

 

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