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パンズ・ラビリンス(10/10)

2007年10月15日 | 映画2007
並行世界で進む二人の女性の物語
IMDb

宮崎アニメのようなファンタジーを期待していると、のっけから涙目になるかもしれない。血を流す少女のアップで映画は幕を開けるのだ。

1944年のスペイン。1936年に始まったスペイン内戦は1939年のフランコ将軍による勝利宣言で一応、終わったことになっているが、敗れた人民政府側は山岳部に立てこもり、ゲリラ活動を継続していた。フランスのレジスタンスであるマキ団は、反ファシズムという点で理念の一致するゲリラを支援した。連合軍がフランスを解放した後には、フランコのファシスト政権打倒に連合軍が加担してくれるという希望的観測もあったが、フランコの巧みな外交戦術により、それは実現しなかった。結局フランコの独裁政権は1975年まで続くことになる。このくらいの時代背景を知っていると、映画を理解しやすい。パンフレットに簡単な解説が載っているので、詳しくない人は惜しまずに800円を支払うべし。

この映画は、抑圧的な世界に閉塞された二人の女性の物語である。

一人は、仕立て屋だった父親を失い、母親とともに新しい父親の許へやってきた少女オフィリア(イバナ・バケロ)。オフィリアは御伽噺が好きで、現実とも幻想とも区別のつかない世界を行ったり来たり。新しい父親──ゲリラ討伐を指揮するビダル大尉(セルジ・ロペス)のことを好きになれない。

もう一人は、ビダル大尉が住む館で働くメルセデス(マリベル・ベルドゥ)。彼女は弟が所属しているゲリラ組織と通じている。オフィリアは未成熟な女性であり、メルセデスは成熟した女性である。この二人を対比させつつ、物語は進行する。

館に着いたその夜、オフィリアは妖精にパン(牧神)のラビリンス(迷宮)へ誘われる。そこで彼女は自分は実は地下にある魔法の国の王女であることを告げられる。今は人間の姿をしているが、三つの試練を乗り越えれば王女であることが認められ、両親が待つ魔法の国へ戻れるというのだ。オフィリアはその試練に挑戦する。ビダル大尉が支配する館から抜け出すためには、魔法の国へ逃れるしかなかったのだ。

一方のメルセデスは、自分の意志でビダル大尉の館にとどまっている。そうすることで物資や情報をゲリラへ流すことができるし、仮にビダル大尉がいなくなっても、別のフランコ軍がやって来るだけだという諦念もあった。

オフィリアに与えられた試練の最初の二つは、あるアイテムを手に入れることである。メルセデスは既に同じアイテムを持っている。オフィリアはそのアイテムを使ってどんどん幻想世界の深部へ進んでいくのに対し、メルセデスは閉塞された現実世界を切り開くためにそのアイテムを用いる。ビダル大尉を境として、二つの並行世界が描かれる。

イバナ・バケロは少女が持つ妖しく危ういエロスを放っている。バスタブに足をかけて本を読む場面、大木の洞で泥まみれになる場面、ベッドの下に潜り込む場面など、何が見えるわけでもないがどきりとさせられる。

セルジ・ロペスもファナティックなフランコ軍将校を見事に演じている。偉大な将軍であった父親が死んだ時刻を告げる「死の時計」を渡された彼は、時計を修理し、父親が生きられなかった時間を引き継いで生きている。言ってみれば死人の時間を生きているようなものであり、他人の生死に頓着はない。拘泥しているのはその時間を次の世代に引き継がせることで、そのためにオフィリアの母カルメン(アリアドナ・ヒル)のお腹にいる子供がどうしても必要なのだ。

幻想世界に逃げ込むオフィリアと、現実世界で戦うメルセデスは、それぞれ違う形で支配者たるビダル大尉と対峙する。ここで第三の試練が訪れ、二人はやはり同じキーとなる「アイテム」を手にし、ついに抑圧された世界から解放される。それが願っていた結末であったかどうかは別として。

『パンズ・ラビリンス』はスペイン近代史が持つアイロニーを凝縮した寓話であり、大人のためのファンタジー映画である。観るたびに新しい発見をして、様々なことを考えさせてくれるだろう。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
並行世界 (kimion20002000)
2007-10-16 22:27:43
TBありがとう。
オフェリアとメルセデスの並行世界という観点は、わかりやすいし、当たっていると思いますね。
Unknown (overrated)
2007-10-17 08:43:36
性的な暗喩も多かったですね。オフィリアの最初の試練は胎内回帰っぽかったです。

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