隨著風遠行

隨著風遠行

んなにそれが

2017-06-14 12:04:11 | 日記

そっと近づき、顔に掛かった毛布をめくった琉生は、絶句した。

「ひっ……!」

毛布の下にいたのは、琉生が二度と会いたくない義父だった。
しかも横たわった義父は、既に土気色でこと切れていた。
驚いたように見開かれた瞳が、視線を交わすことなく空を見つめている。

「お……お父さん、なんで……あっ!?」

後頭部を、思いきり鈍器のようなもので殴りつけられ、琉生はその場に昏倒した。
誰が父を手に掛けたのだろう。
意識を手放した琉生に、誰かが「琉生」と声を掛けた気がするが、その声はもう琉生には届かなかった。
倒れ込んだ琉生の唇に、声の主はそっと長い指で触れた。

「護ってあげられなくて、ごめんね、琉生。……もう、辛いことはお終いだよ。みんな終わらせてあげる。」

静かな部屋に、優しい声が響いた。
「これをかすり傷と言い張るのだから……一衛は相変わらず、辛抱がいいのだな。骨はどこも折れてはいないようだが、ひどく腫れて熱を持っているじゃないか。槍術を頑張るのは良いが、手当てはきちんとしなければいけないよ。」
「……」

湯で患部を温め、一つずつ丁寧に膏薬を張ってやった。
黙りこくって俯いた、一衛の背中が強張っている。
直正は訝しく思った。

「一衛?どうした?わたしに手当てをされるのが、そいやだったのか?医者に診てもらうか?」

一衛は強く頭を振った。直正の問いかけにも、固く口を結んでいた。

「困ったな。そんな風に何も言わないと、一衛の考えていることが分からないよ。」
「一衛は……強くなりたい……のです。」

涙をたたえた一途な瞳が、直正を捕らえる。

「そうか。上を見るのはいいことだ。傷を見ればわかる。すごく頑張っているじゃないか。」
「そうとも。何よりも強い気持ちが、己を強くするんだ。一衛にはあるとわたしは思う。」
「直さま。」

父の事を口にすれば、ただの我ままになると一衛は思っていた。
どれほど会いたくとも、お役目でずっと藩主に同道している父に、剣術の稽古をつけてもらう事は叶わない。
その上、頼りにしていた直正も江戸行きが決まり、一衛は一人で不安と闘っていたのだった。直正には、一衛の抱えている葛藤が、難なく理解できた。
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