敵討(吉村昭著)

2016-12-05 00:00:00 | 書評
吉村昭といえば、幕末から終戦までの間の史実をとりあげ、細部にわたり膨大に調査し、再構築する作家で、没後も着実に売れ続けているそうだ(奥様である津村節子氏の記載)。

本著、敵討については少し説明が必要だろう。幕末に起きた二件の殺人に基づき、二つの小説(『敵討』と『最後の仇討』)が収録されている。

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しかし、吉村昭氏は基本的には歴史の中で木の葉のように無力な個人を描くというのが基本スタンスであるのに、単純に個人の問題である「かたき討ち」を題材に選んだのはなぜかというと、その理由について著者自身があとがきで述べている。

まず、『敵討』だが、老中水野忠邦の懐刀だった鳥居耀蔵がライバルを消すために鳥居に取り入っていた不良武士に殺人を依頼。その不良武士が、知人の剣豪に報酬付きで殺人を持ちかけたのだが、これを拒否され、口封じのために斬り捨てる。その兄弟と子供による犯人捜しと敵討までの追跡行なのだが、やっと犯人の場所を特定するも、すでに幕府の囚人として、遠島になることになっていた。それでは敵討しようにもできないわけで、途方に暮れた頃に、江戸に大火が起こり、囚人は一旦、牢から切り放しになり、鎮火後、逃亡せず牢に戻ってくれば、罪一等軽くなるというルールがあり、運良くというべきか運悪くというべきか、島流しから、江戸所払いに変更。

江戸を追い出されるのを尾行し、そこで切り刻むことになる。


次の『最後の仇討ち』の方だが、幕末九州の秋月藩が佐幕と倒幕に藩内が二分され、討幕派の中心人物が暗殺される。実際には、すでに幕府は白旗上げていたので、今更佐幕ではなかったのだが、時代変換点によくある悲劇だ。

ところが、その後、明治時代になり、殺した方は過去を隠して新政府で出世。裁判官となる。そして、すでに敵討禁止法すら布告されているのに、被害者の息子が隠し持っていて短刀で丸腰の裁判官をブスブスと貫いたわけだ。結局、終身刑となるが、西南戦争終結の恩赦により10年で出所。


しかし、どちらの小説も、まず、犯人の調査と、逃亡したり隠遁中の犯人を捜すことから始まる。江戸市内なのか、地方なのか。今のようにネット検索で犯人に近づけたりはできない。日本を縦断して、探し回るわけだ。


そして第一の事件の首魁である鳥居耀蔵だが、丸亀藩に預けられ幽閉の身となるが、薬草作りを始める。その薬効のせいか長寿を誇り、幕府崩壊により釈放され、長寿をきわめることになる。悪運強しだ。許せない。


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