忍山 諦の

写真で綴る趣味のブログ

満開の桜とカワナ君の思い出

2017年04月18日 | 心のアルバム
春、桜の満開する頃、私はいつもかつての同僚カワナ君の事を思い出す。





司法研修所での前期の研修を終え、実務修習に入るに当たって津地方裁判所を修習地として希望した。
カワナ君は同じ津の修習を希望した6人の中の1人だった。
カワナ君は大学3年の時に司法試験を現役合格したという秀才で年令も6人の中で最も若く、やる気満々の自信家だった。





桜の満開の時季がやってきて、カワナ君は何処で聞きつけたか、大阪天満の造幣局の桜の通り抜けに行かないかと誘った。
「行こう」と言ったのは私ともう1人の同僚。
津の町でレンタカーを借り、3人は不慣れの道を地図を便りに大阪造幣局を目指した。





昼過ぎに目的地に着いた。
桜之宮公園の桜は満開で、日曜日でもあったため造幣局の通りぬけの桜は押すな押すなの人出だった。
カワナ君は新品のカメラで満開の桜を夢中で撮り続けた。
帰路はカワナ君がハンドルを握り、夕刻、津の町に帰った。





レンタカーを返却し、3人は喫茶店で一休みした。
カワナ君はやおらカメラを取り出し撮った写真を現像に廻すためフイルムの巻き戻しにかかった。
途端、
「しまった!」
カワナ君が素っ頓狂な大声を上げた。
フイルムがしっかりカメラに装填出来ていないまま、それに気づかずカラ取りを続けていたのである。
フイルムカメラの時代である。
その時のカワナ君の失望とも、悲しみとも、怒りとも、喩えようない顔を、私は今も忘れることが出来ない。

年も若く、それまで総てが順風満帆で、まだ挫折の経験もなかったはずの彼にとって、それは小さいながら、初めての失敗と挫折の経験ではなかったかろうか…





研修を終えると同期はそれぞれの道へと進んだ。
カワナ君は東京で弁護士への道を選んだ。
大きな法律事務所に入り、カワナ君が大活躍している噂が私の耳にとどいていた。





私が東京地裁へと転勤になったのはそれから約7年の後のことである。
また、カワナ君に会える、と喜んでいた私に、間もなく届いたのはカワナ君の訃報であった。
新婚の妻から届いたその訃報によると、彼は急性肝炎に罹りうまく快復しないまま劇症肝炎へと進み、施す術もなくなく亡くなった旨の、死にいたるまでの病状経過が切々と認められていた。
30歳を前にしての早世であった。

適わぬ事ではあるが、
「もう一度会ったみたい」
桜の時季を迎えると、毎年そう思う。

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