杜の里から

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【考察】EMに関するよくある誤解(1)(農業編)

2013年10月06日 | EM
東日本大震災をきっかけに、EMと呼ばれる微生物資材の名を、被災地のあちらこちらで見る機会が増えてきました。
中には原発事故以来、EMが放射能に効果があるとする言説までも飛び出し、マスコミまで巻き込んでちょっとした物議を醸し出しています。
ただそういう議論が戦われていく中で、EMを推進する側否定する側双方に、EMに対して誤解していると感じられる部分が目立つ様になってきました。
今回はその部分を自分なりに整理して、それによって現在のEM問題を改めて考えてみようと思います。

EMを語る時、世間ではよくEMの事を「EM菌」と表記する事があり、それが大きな誤解を生む元になっています。まずここで、この誤解を解いておきましょう。

  「EM菌」という菌はいない

この「EM菌」という表記については、当の推進側からも、
「EM菌」という表記は正しくありません。マスコミ等においても正しく「EM」と表記してもらえるよう、我々も日頃の表現に気を付けていきましょう! 」
と、述べられているほどです(善循環の輪通信254号より→PDF)。

EMを紹介するブログや新聞記事などで、必ずといっていいほど繰り返されるこの表現により、あたかも「EM菌」というスーパー微生物が存在するかの様に勘違いされますが、EMはあくまで自然界に普通に存在する菌ばかりを集めて培養・発酵処理を行ったもので、この中には特別な菌など存在しません
だからこれからは、マスコミの方も「EM菌」ではなく「EM」と表記すべきであるというのは私もEM推進側と同意見です。
ただしそうなると、「EM」というのは特定の商品名ですから、それを取り扱う場合は特定商品の宣伝にならぬ様、マスコミの方でも注意が必要となるのは言うまでもありません。

今述べた事は世間一般にありがちな誤解ですが、EMを推進する側否定的な側双方においても、EMについてはお互い誤解していると思われる部分がある様に見えます。
本来EM問題は「効く」「効かない」の問題ではないのですが、この部分をはっきりしておかないと後々の議論にも影響すると思われるので、これからは双方の立場からEMの効果について、私なりの考えを述べていきたいと思います(ツッコミ歓迎)。
分かりやすい様に、否定側は「赤」で、肯定側は「青」で表し、それぞれの分野毎に考察していく事とします。
EMは元々農業用資材ですから、まずは農業分野における双方の誤解を指摘していきたいと思います。

〔農業編〕

●EMは効かない。それは土壌肥料学会の論文でも明らかである。 

そうとも言えません。
この論文の初めに記されているタイで行われた実験(p.9~)ではタイで調達した「スーパーEM」が使用され、その成分分析の結果「光合成細菌は検出されなかった」とありますが、それは当たり前の話で、タイで生産されているこのEM資材には元々光合成細菌などは含まれていません。
製品にEMという名が付されていても、その中身は現地生産のものと日本国内のものとは内容成分も違いますし、光合成細菌の有無を確認するならば、あくまで日本国内で売られている資材を用いて日本で検証を行うべきで、この部分だけを見ると、私にはどうしても恣意的なものを感じてしまいます(検証した人がその辺の事情をご存知なかっただけかもしれませんが)。
また、国内で行った実験(p.28~)において、他の微生物資材と比較した一覧でもEMの効果は否定されていますが、元々微生物資材は生き物であり、その生存環境や気象条件などによってはまた違う結果となる可能性もあります。
何より、ここで使われたのが「救世EM」(つまり「比嘉EM」)であったというのも気になります。
当時の「救世EM」は、世界救世教が設立したEM製造会社「EM研究所」で作られたもので、その品質にはかなりのばらつきがありました。
 (←クリックで拡大)
ですからこちらではなく、同じEMでも中身の微生物層も数も違う「サイオンEM(サン興産業EM)」が使用されていたならば、また違った結論になっていたかもしれません。
つまり、ここだけの実験結果をもって「EMは効果なし」と単純に決め付ける事は、批判の仕方としては極めて危ういと言わざるを得ないのです。
もっとも、これらの実験が比嘉さんのセールストークに対する検証であったならば、それはそれで頷ける事でもありますが。

(参考)
togetterより:「別冊現代農業 EM農法の記事と資料」
Food Watch Japan より:「オカルト」を乗り越えて見聞せよと叱責されたものの

●EMは効く。EMのおかげで作物の収量も上がり、味も良くなった。

そうとも言えません。
比嘉さんが唱えるEM農法というのは、EMによって米ぬかなどを発酵させた「ぼかし」を用いる有機農法ですが、ぼかし農法自体は昔から存在している代表的な微生物農法で、「ぼかし」は日本の伝統的な有機肥料でもあります。
元々の「ぼかし」とは、植物油の搾りカスや魚カス、米ヌカなどに山土などを混ぜ発酵させたもので、ボカシの名称は原料に山土を混ぜることにより、肥料から発生するアンモニアガスを吸着させ、その効力を長続きさせることに由来していると言われます(→参照)。
ただこのボカシ農法にはコツがあり、それをマスターするまでにはある程度の熟練を要する様です。
それにまた、これをマスターすればすぐ収量が上がるという訳でもなく、そこには農地の土壌との相性もあり、成功するまでにはそれなりの試行錯誤が必要となります。
こうして苦労してようやく収穫を得たおかげで、農家の方はEMの有効性を実感する事になるのですが、実は他の微生物資材を用いた方がより簡単に収量が上がるという事例も数多くあるのです。
EMは好気性嫌気性両方の菌が共生している事が売りですが、その分管理には余計手間がかかり失敗もしやすいものです。
だからこそ成功した時には余計喜びも大きく、EMの効果をより過大に実感しがちですが、その間他の農法や資材に目を向ける事は出来なくなり、もしかしたらより有効な方法を得る機会が失われていたのかもしれません。


●EMの作用は「波動」効果によるものだ。
(参考):「EM活用の自然農法」

いいえ、EMは自然界にある普通の菌達の集まりですし、そこには勿論「波動」などありません。
これはEMに神秘性を与え、すべての効果をEMのおかげと思わせる単なるセールストークに過ぎず、EMを純粋に農業用資材として活用している方達にとっては、自分達まで比嘉さんの言葉を信じていると誤解され、誠に迷惑な話だと感じている方もおられます。



【まとめと考察】
消費者の自然志向の高まりと共に、農家の間では徐々に有機農業を推進する動きが増えています。
そうした中で、微生物資材の一つであるEMは積極的な広報活動を繰り広げ、農家の間にEMを用いてさえいれば安心であるという「EMブランド」を定着させています。
しかしそのせいで生産者や消費者は、その負の側面から目を背けさせられているという事もあります。
有機農法を初めとする自然農法を推進する背景には、農薬と化学肥料の危険性を危惧する声とその偏見による影響が大きいものと思います。
しかし中には、自然農法においても実は危険性があり、その事を訴える声もあるのです。以下に紹介するのは、肥料の危険性とEM農法の問題点を指摘するものです。

「肥料の危険性」(←クリック)

EM農法では「ぼかし」が使われますが、「ぼかし」自体の役割としてアンモニア成分を土壌により長く滞留させるという事から、ここで言われる危険性も頷けます。
しかしながら「硝酸塩」自体は危険なものではなく、それが体内に取り込まれる事によって「亜硝酸塩」に変化し、それが発がん性物質の生成に関与するとの研究がある事がその根拠となっていますが、詳しい事はまだよく分かっていないのが現状でもあります(→参考)。

農業分野においてのEM問題を考える時(これはこの分野だけに留まる話ではありませんが)、どうしてもEMはこの様に「効く」「効かない」の議論になってしまう傾向があります。
しかし以前から言う様に、EMは通常の農業用資材であり、うまく使えば効くし、逆に失敗例も数多くあります。
その効果ばかりに注目し、その中の一事例だけを取り出して全体を語る事は、それこそEM問題の本質からどんどん離れていく事になってしまいます。

それにただ「EM」と言っても、国内では〔比嘉ブランド〕のものと〔サン興産業製〕のもの2種類のEMが販売されています。そしてその中身の微生物の種類や数も違い、同じEMと言ってもそれらは実質別物であるとも言え、これら全部を含めて「EM」と一括りにするのにも抵抗を感じます。
EM問題で取り上げるのはあくまで〔比嘉ブランド〕の方であり、これについてはサン興産業でも、比嘉氏の販売手法を問題視して批判しているほどです。

農家の方達がEMを利用し、それにより美味しい野菜が出来たとするならば、それはそれで良い事であると私自身は思っています。
ただ問題は、それがすべてEMの効果であると信じ込み、それが元となって農業以外(つまり自分の専門外)の分野において、比嘉さんの言説をまともに信じてしまう様になっているという事です。
その事がやがて、誤った方向へ導かれている事にも気付かないまま周囲を巻き込み、それが「善意」の名の下でどんどん拡散されていく、その様な事態が一番憂うべき事なのです。
そして震災以降、この誤った「善意の輪」は、ますます広がり続けているというのが現実で、この問題をこのまま放置しておく事は出来ない、そう私は感じるのです。
(2)に続く)


(参考)
hot-buzzより:「金スマのEM菌の放送に憤りを感じます!」(←№19以降のコメントに注目)
自ブログより:「なぜEMが効かないのか?(前編)」
      「EMへの疑問(3)~EMは「ニセ科学」か?~」
ジャンル:
科学
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2 コメント

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エビデンス(科学的根拠)はあるか? (KYM)
2013-10-26 02:56:56
はじめまして。
商材EMと、そのEM思想運動とでもいうものに、問題意識を持っている者です。
質問させて下さい。
いくつか、効果ありとされている事柄について。
それらははたして、対照実験による結果から言われている事でしょうか?
そしてそれは、第三者による追試によって確かめられている事なのでしょうか?
失礼ながら、あり得るはずだ、で言われていませんか?
ご返事お待ちしております。
中々難しいです (OSATO)
2013-10-26 15:04:51
いらっしゃいませKYMさん、初めまして。

効果ありとされている事例については、本文中に挙げた土壌肥料学会の試験でも、数少ないながら確認されます。
リンクされているPDF(本文中では「この論文」でリンク)のp.31に一覧表がありますが、そこではキャベツなどでプラス評価が出てます。↓
http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5f/72/74f23758dba456e42ba45ff4c307daae.jpg?random=163e30668711d84a5cbfe4a63803e5eb
ただ科学的手法という事からすると、この様な微生物資材の効果に関する本格的な科学的検証の事例は少なく、またその手法自体もちゃんと確立されているとは言いがたいと思えます。
その事は土壌肥料学会の論文中でも触れられている事で、最後のページ(p.77)の『4-4. 微生物資材の評価試験(圃場試験)』の項目をお読みになっていただければと思います。

農業分野で検証が難しいのは、対象として扱う野菜や果物の種類があまりにも膨大で、しかもその検証はどうしても個々の狭い範囲でしか行えず、またそこで成功或いは失敗となっても、条件次第では別の結果にもなってしまうという事です。
事実論文のp.11には、
『また、EMの土壌微生に対する効果も試験されており、それによると藍藻の成長と窒素固定効率は適度なEM濃度においては増加するが、それよりも高い場合には減少することが判明した。』
との記述もあり、条件次第でうまくいったりいかなかったりという事が示唆されています。

だからどうしても、効果があったとする事例については農家の方々の「実感」による所も大きく、それだからこそ尚更、正確で客観的な科学的検証が必要であるという事は言うまでもないし、その手法の確立が求められている訳です。

近年ではこの様なプロジェクトも進められており、今後はより科学的な解釈による農法が確立されていくかもしれませんね。↓
http://www.niaes.affrc.go.jp/project/edna/edna_jp/index.html

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