杜の里から

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報ステ「甲状腺がん特集」で疑問に思った事(その二)

2016年03月14日 | 福島
(その一はこちら
画面には福島県立医科大学附属病院の俯瞰映像が映し出されます。
[ほとんどの手術が行われている福島県立医大。そのすべてに携わるのが、鈴木眞一教授だ。
「過剰診断」なのかどうか聞いた。]

鈴木 「今回見つけてあるものは、もうすでにリンパ節に転移したり、甲状腺外に出ていたり、またそれが強く疑われるものに対して治療していますので…」

[鈴木教授は摘出手術した甲状腺がんのおよそ75%にリンパ節への転移があった事などから、「過剰診断」ではないと強調した。
一方で、「放射線の影響は考えにくい」という立場だ。
とすると、手術が必要なこれだけの数の甲状腺がんが、潜在的に存在していたというのか?]

鈴木 「そうだと思います。」
記者 「逆に、手術しなきゃいけない症例がほったらかしにされていたという事かなという風に思っちゃうんですよね…」
鈴木 「そこは…」
記者 「結果的にはみんな手術してるわけじゃないですか。」
鈴木 「だから、難しい問題があります。転移までは早いかもしれませんが、その後進行して他臓器に転移をするとか、あとは命にかかわるというのは非常にゆっくりしているがんなんですね。」

[リンパ節などへ転移しても今は症状がないが、将来発症し、しかも重い症状になるかもしれない甲状腺がんを検査で発見しているのだと言う。
一方で、それらがいつ発症するかについて、確証は持てないと言う。]

鈴木 「それは誰も分からない事なので、我々が治療させていただいたものでも、多分すぐにでも見つかったであろうものもあれば、しばらく見つからないものを見つけている可能性もあるだろう。
 ただそれが、この先急に大きくなるのかならないのかは、我々予測はして治療はしません。」

[多くの甲状腺がんを手術した医師すら、その正体を掴めないという事なのか。]
鈴木教授へのインタビューはここで終ります。
結局スタッフは、キーマンたる鈴木教授の元まで赴いて、ただ「甲状腺がん」というものの講義を聞いただけで終ってしまってます。
この特集のテーマは、「原発事故との因果関係はあるのか?」であったはずです。
鈴木教授と言えば、福島とチェルノブイリの甲状腺がんの遺伝子変異の違いを発見し、2014年12月に
「総合的に考えれば放射線の影響ではなく、子どもの段階から検査していることで前倒しで見つかっているということは分かる」
と新聞発表までしている方です。

 
(出展はtogetterより)
彼こそまさに今回のテーマに沿った回答をお持ちのはずなのに、何ゆえスタッフは本人を前にしてこの事を尋ねなかったのでしょうか?
それともスタッフは、この記事が掲載されたのが地方新聞だったがために、これらの情報をお持ちでなかったのでしょうか?
自分としては鈴木教授ご本人の口から、あのニュース記事の詳細が聞けるかと楽しみにしていたのですが、見事に肩透かしとなってしまいました。

特集ではその後、「福島での被ばく線量はチェルノブイリと比べて極めて低い」という理由から「甲状腺がんへの影響は考えにくい」とする事に対して、検討委員会内部でも異論がある事を紹介し、スタッフは弘前大学の床次(とこなみ)眞司教授の元へ向かいます。


床次 「はるかに低いから考えにくい“なんですよ”みたいな感じで言ってるから、いやそうじゃな…、それだったら私の説明いらないじゃないと思った訳。
 今回私が説明したのは、あくまでも集団としてとらえた場合に、チェルノブイリ事故の線量と福島原発事故の線量、グループとして、集団として捉えた時の線量を比較した訳で、個人のがんになった人たちのどうのこうのという議論じゃないですから。」

[住民全体の被ばく線量を比較して、甲状腺がんと放射線との因果関係に直接結び付けるのは乱暴だという床次氏。
検討委員会中間報告の最終案に、放射線の影響が考えにくいという見解が盛り込まれている事も批判した。]

床次 「放射線の影響の可能性は小さいとはいえ現段階ではまだ完全には否定できず、って書いているから、そう書いてるなら「考えにくい」って書かない方がいいですよね。
 今のこの額面通りに受け入れるのは難しいですね。先ほども言っている様に、まだ段階…端緒を開いたばかりですよ、今。」
床次氏自身、「福島の事故における甲状腺被ばく線量は、チェルノブイリ事故に比べて小さい」という見解を持っています。
彼が言いたい事は、まだ本格的な検査が始まったばかりの段階で、全否定を連想させる「考えにくい」という文言を入れる事に対しての危惧ではないかと思われます。
そしてナレーションはこう続きます。
[メンバー間の認識の違いが明らかになった検討委員会の議論、キーワードはチェルノブイリだ。我々は現地に向かった。]
〜CM〜
[原発から80キロ離れた、ウクライナ北部の町チェルニーヒウ。地域の汚染度は比較的少ないとされ、避難区域にはならなかった。
一方で、事故当時に子どもだった50人以上から、甲状腺がんが見つかっているという。]


番組では、事故当時生後11ヶ月で、14歳の時に甲状腺がんが見つかった女性(現在30歳)を紹介します。
[地元医師はこの年齢層の発症に特徴があったと話す。]

医師 「すぐに発症したわけではありません。12歳から14歳になってから、はじめて甲状腺がんが見つかったのです。」

[5歳以下の子供たちの発症は、思春期に入ってから。つまり早くても事故から7〜8年経ってからだった。ただ、なぜそうなったのかは分かっていない。]
ここの部分でも気になったのですが、医師の発言(字幕)では「甲状腺がんが見つかった」となっています。
でも次のナレーションでは、「発症は思春期に入ってから(事故から7〜8年後)」と言っています。
「見つかった」という事と「発症した」というのは違います。すでに発症していたにも関わらず、長い間発見されないというのが甲状腺がんの特徴です。
ここでは意味の違う言葉が混在しているのですが、スタッフはこの言葉の意味する所をご存知なのでしょうか。

次にスタッフはベラルーシのミンスクを訪れ、国立甲状腺がんセンター所長のユーリ・デミチク氏に福島での検査結果を見せ、それを見た彼のコメントを紹介します。
デミチク 「(吹き替え)1巡目の検査でがんが見つからなかった子どもたちから、2巡目の検査になってなぜ見つかったのか腑に落ちません。」

[1巡目の検査で目立った異常のなかった人から、わずか2年後にがんが見つかったケースについて関心を持ったという。]

デミチク 「(吹き替え)検査ミスがあったのかもしれません。あるいは信じがたいことが2年間で起きたのかもしれません。甲状腺がんを知り尽くしている私でも興味深いものです。なぜ2年間で現れたのか…」
「信じがたいこと」、果たして本当にこのような言葉を発したのでしょうか?
取材先では多分通訳を介しての会話だったでしょうが、医師の話す言葉として、この翻訳は正しいものなのでしょうか。

結局チェルノブイリでの取材報告はこれだけで終ります。
せっかく現地まで行ったのに、番組ではとうとう事故当時の食生活に関して触れる事はありませんでした。
福島の原発事故後、国内では内部被ばくの恐れから食品の汚染状況についてはかなり問題にされました。
内部被ばくを調べるならば当然それが最も重要視されていると思ったのですが、スタッフはその事すら考えもしなかったのでしょうか。
[ベラルーシの専門家が異変を感じた2巡目、日本の専門家も違和感を覚えていた。
福島県の検討委員会では唯一の甲状腺の専門家、〔日本医科大学 清水一雄医師(名誉教授)〕が指摘する。]

清水 「2巡目で51人というのは比較的多いですよね。一回目に検査の時に、「A1」が一番多いんですよ、その中でも。なので、ちょっと少し気になるかなと。」

[清水氏は、2巡目で見つかった腫瘍の中に、30ミリほどまで成長したものがあった事に注目した。]

清水 「2年間で3センチまで大きくなる事はあまり考えにくいことなんですよ。」
30ミリまで成長したものというのはレアケースですから、医師として注目するのは当然の事だと思うのですが、特集ではこのコメントのみをクローズアップして、こうナレーションを続けます。
[2巡目の数はおかしい――]
[専門家ではなく、まったく違う分野からこの異変を研究した学者がいる。
〔神戸大学大学院の 牧野淳一郎教授〕(専門は「計算科学」)、驚きの結果が出てきた]
として、彼が考えた計算上の仮説を紹介し、順当な予想では7人/10万人のはずが、実際は22人/10万人との値にとなったと言います。

    

そしてナレーションはこう続きます。
[2巡目検査は今も続いているが、この時点でもこれだけ違うとは、誤差の範囲では説明できないという。]
牧野 「被ばくの影響も考えの一つには入ってくるのではないかと。」
これはもう、何が何やら…(^^;)。(思わず顔文字)
番組では甲状腺がん患者の年齢別発生イメージを直線としていますが、実際のグラフでは患者数と年齢の関係は「双曲線」となっており、そうなるとそもそも計算の前程条件そのものが違っている事になるのですが、あのイメージ図は一体どなたが作ったのでしょうか。


(出展はtogetterより)

特集の最後に、3月7日に外国特派員協会で会見する星北斗座長の姿が映し出されます。
Q 「今後も甲状腺がんは増えるのか?」
星 「放射線の影響があって増えていくのかという質問ならば、現時点では私はそういう風には見ていません。ただ、それを頭から否定する気もありません。」
そして再び冒頭の直美さんのインタビュー映像が現れます。
[自分の身に何が起きたのか知りたい、それは、甲状腺がん患者の切実な問いかけだ。]

直美 「どのぐらい被ばくしたのか知りたいですね。
 やっぱりそこを知って、本当に原発のせいなのかせいじゃないのか、みんながそう思っているので、早く白黒はっきり、本当にどうなのかというのはつけてもらいたいなとは、すごく思ってます。」
このコメントで特集は終わり、これを受けて古館アナがこう語ります。
古舘 「検討委員会が言っている〔考えにくい、因果関係は〕というこの〔考えにくい〕という言葉ってのは非常に都合の良い言葉だなと私は感じてます。 むしろ逆だと思うんですね。
 因果関係というものがはっきりとは分からない、否定はできないと言っている訳ですから、分からないんだったら因果関係があるんじゃないかという前程で、じっくり探っていくってプロセスが必要なんだと思うんですよね。
 まずですね、ここで申し上げたいのは、甲状腺がんの摘出手術を受けた女性、インタビューに応じて下さいました。 そして、それとはまた別の、子どもさんががんを抱えた親御さんにもインタビュー受けていただきました。
 勇気を振り絞っていろんな声がある中で問題提起という事で、取材に応じて下さった事に心から感謝申し上げます。
 そしてその前程でですけどもやはり、これは未曾有の原発事故が福島で起きた訳ですよね。
 もちろんチェルノブイリやスリーマイルとの程度の比較とか色々ありますが、未曾有の事故が起きて未曾有という事は、これまでになかった事ですから、なかった事というのは詳しいデータの積み重ねがある訳はないので、まだ端緒という言葉も学者の先生から出て来ましたけども、ですから、やっぱりまだデータが完璧ではない段階では謙虚に、気長に粘り強く、検査をしていき調査をしていき、研究をしていくっていう姿勢が、例えば166人のご本人及びこれからもしかしたら増えるかもしれないなと、ご家族にそういう誠意が伝わっていった時に、また違う境涯が生まれてくる可能性があると思うんですね。
 境涯を変える事が免疫力を高めたり、いろんな事にもつながっていくという可能性すらある訳ですから、ここは一つですね、スタンスを一部変えていただけれれば困るなと、強く考えております。」
最後のインタビューで、直美さん(仮名)が知りたかったのは、事故当時の放射性ヨウ素の被ばく量であった事がようやく分かりました。
しかしながら、放射性ヨウ素については今現在はほとんど残っていませんから、当時の状況を知るにはもはや「状況証拠」による推察しかありません。
今現在行われている甲状腺検査は、言い変えればこの状況証拠を探している作業であるとも言えます。
古舘アナは、
 「分からないんだったら因果関係があるんじゃないかという前程で」
と仰っていますが、これは非常に危うい考えであると感じます。
「あるかもしれない」という前程で探していけば、あらゆる事象を「ある」という事に結び付けてしまい、「あるかもしれない」はやがて「あるに違いない」という思考に取り込まれてしまう恐れがあります。
一度そうなってしまうと、目の前にある「ないかもしれない」証拠をみすみす見逃してしまったり、或いは見えていながら敢えて見ないふりをするという、極めて偏った行動に走ってしまうという、最悪のコースを辿る事になってしまいます。
だからこそこの作業には先入観に捕われず、まずは「(放射線の影響は)あるかもしれないし、ないかもしれない」つまり「(今はまだ)分からない」という中立的な立場から始まらなければならないと思います。
今回の特集を見ていると、製作スタッフはすでにその様な危険な状況に陥ってる様に見えます。
古舘アナはさらに、
 「データが完璧ではない段階では謙虚に、気長に粘り強く、検査をしていき調査をしていき、研究をしていくっていう姿勢〜」
とも仰っていますが、そのためにはそれこそ偏った視点を持つ事なく、あくまで中立的な視点を持ち続けなければならないのではと自分は考えます。
 「スタンスを一部変えていただけれれば困るな」
と言う相手は、今回の番組スタッフの方ではないでしょうか。そんな思いを新たにした今回の特集でした。

番組終了の最後のトークで、古館アナは今回の特集をこう振り返ります。
古舘 「報道ステーションのスタッフの中には大変しつこい人もいますからね、もうベラルーシ行って、甲状腺の専門のお医者さんに何回も同じ事繰り返し聞くんで、同じ質問はもう止めにしてくれって怒られたぐらいで。」
あくまで邪推ですが、自分が望むコメントが得られなかったから、敢えてしつこく質問したのかな等と思ってしまいます。
古舘 「やっぱりこれは、原発事故から5年ですから、検討委員会に対して私も偉そうな事言わせていただきましたけども、やっぱりこのチェルノブイリの例を見たら、5歳以下の子どもさんは7,8年以上経ってから発症してるケースが非常に多いので、5年以降のこの2巡目のこれからというものを注視していただかないといけないので、「考えにくい」という言葉ではないだろうという事を重ねて申し上げたい気がしております。」
古舘アナは結局、「考えにくい」という表現に異議を唱えている訳ですが、その根拠はすでに番組内でも紹介された様に、以下の4つの項目によるものです。

    

これに対し番組では一つ一つ検証を重ねてきた訳ですが、ここで私からの最後の疑問を提示して、今回のエントリーを終ろうと思います。






   



   なぜ、この根拠を無視したのですか?
(終わり)



(参考)
・放射線医学県民健康管理センターより「各調査の結果」
・JACRI日本臨床検査薬協会より「Q3. 放射線被曝と甲状腺がんの関係は?」
・ATOMICAより 「チェルノブイリ事故による放射線影響と健康障害」
・buisiness newsline より「福島県で小児の甲状腺ガンの発生率が上昇、最有力科学誌が指摘する意外な原因とは?」
ジャンル:
東日本大震災
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Unknown (Unknown)
2016-03-16 00:24:03
報ステも毎日新聞もチェルノブイリ事故後、小児甲状腺がんが発見された数は伝えても、被ばく量は決していいませんね。ほっぽど都合が悪いことなんでしょうね?1000mSv以上被ばくした子ども達が数万人いて、患者数が7000人くらいですからね(それが全て被ばく影響ではないし)
http://www.unscear.org/docs/reports/2013/15-0285_Report_2013_AnnexA_Ebook_web.pdf
HNお願いします (OSATO)
2016-03-16 12:34:36
>Unknownさん

当ブログでは、基本「名無しさん」のお相手はしない様にしております。
ただ今回は貴重な資料のご提示がありましたので、ここに公開させていただきました。
捨てハンでも構いませんので、お名乗りしていただけたらと思います。
資料の提供、どうもありがとうございました。

>数は伝えても、被ばく量は決していいませんね。

正確に言えば、数【だけ】ですね。
実際は年齢・性別による分布があるのですが、それらにも一切触れる事はありませんでしたね。
失礼しました (kazooooya)
2016-03-18 00:50:33
(ツイ垢です)

報ステや毎日新聞が報道している「18歳以下の子ども7000人以上から被ばくが原因とみられる甲状腺がんが発生した」というのも、事故直後から数年間で発見されたティーンエイジが含まれてますよね(勿論、それは事故前から持っていたであろう甲状腺がんがスクリーニング等で発見されただけですね)。どこまで健康影響を盛りたいのでしょうかね。
単純化による印象操作 (OSATO)
2016-03-18 12:34:19
いらっしゃいませkazooooyaさん(Unknownさんですよね?)。

チェルノブイリでの部分でも、あちらで発生した甲状腺がん【すべて】を放射能のせいと思わせていますね。
実際は汚染されたミルクや食品の影響が大きかったし、また地域によってもその発生状況は異なっているはずですが、それもすべて無視して、ただ単純な数字だけで放射能とがん発生を関連付けようとしているのですね。
大手のメディアがこんな単純な形で印象操作するという事は、社会的責任という観点からは果たしてどうなのかという思いでいる所です。

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