2007年12月号発行

2007年12月号


■編集担当のオススメ■
特集「自殺対策基本法をつくった市民たち」。メインで担当した早
瀬編集委員が「取材を進めていく中で僕自身が癒されていった」と
いう本特集。力が入っています。心に深く鋭く迫ってくるはず。

■目次■
02《この人に》西村いつきさん(「コウノトリ育む農法」普及人)
  千葉 有紀子

06《特集》 「自殺対策基本法」をつくった市民たち(全文PDF特別公開中!約3.4MB)
  早瀬 昇、石田信隆

18《V時評》 光母子殺害事件と裁判員制度 ~浮かび上がる市民参加の課題
  増田 宏幸

20《私の市民論》 「市民」の歴史の記憶を手放さない。
  普天間 朝佳(ひめゆり平和祈念資料館学芸員)

22《ゆき@》東京・小平、日本中にあったらいいなのコミュニティケアです(*^^*)
  大熊 由紀子(福祉と医療、現場と政策をつなぐ「えにし」ネット)

24《語り下ろし市民活動》
   嵯峨野から、平和を拓いて三十余年① 長尾 憲彰さん(常寂光寺前住職)
  村岡 正司

29《うぉろ君の気にな~る☆ゼミナ~ル》 「取調べの可視化」って?

30《コーディネートの現場から~現場は語る》
   多様化するボランティア
   ―受け止め方とその行方―
  西村 こころ(京都福祉サービス協会 高齢者福祉施設紫野)

34《リレーエッセイ 昼の月》 暗いニュースのウラにも心したい。

35《むだちしき》 モンスターボランティア

36《まちを歩けば ~大阪の社会事業の史跡》 大阪職業紹介所と八濱三郎
  小笠原 慶彰

38《3つ星》 エコリゾート赤目の森(三重県)
   福満 奈都(大阪ボランティア協会会員)

40《ライブラリー》 反戦平和に半生を捧げた2人のエスペランティスト
  牧口 明

42《レポート》「深化する協働」~「ろうきんグッドマネープロジェクト エイブル・アート近畿 ひと・アート・まち」の試みから~
  金丸 芙美代(近畿ろうきん地域共生推進部)

43《VOICE NPO推進センターの現場から》
   一手間かけるEメール広報のすすめ
  永井 美佳(大阪ボランティア協会・NPO推進センター)

44《ウォロニュース》
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2007年12月号(通巻431号):V時評

光母子殺害事件と裁判員制度
~浮かび上がる市民参加の課題


編集委員 増田 宏幸


 山口県光市の母子殺害事件は、1999年4月の発生から8年半が過ぎ、現在、広島高裁で差し戻し審が行われている。当時18歳1カ月だった被告が23歳の主婦と生後11カ月の女児を殺害したとされる事件は、これまでに多くの報道がなされ、注目を集めてきた。12月早々に弁護側の最終弁論があり、裁判は大詰めを迎える。一般には死刑適用の是非が注目されているが、ここでは「司法への市民参加」という観点から一連の経過を考えてみたい。

■最高裁が無期懲役判決を破棄

 事件があったのは99年4月14日。1、2審判決によると、光市の会社員宅で、元少年が会社員の妻を性的暴行目的で襲い、抵抗されたため首を両手で絞めて殺害。さらに泣き続ける長女を床にたたきつけ、首にひもを巻き付けて絞殺した、とされる。

 元少年に対し1、2審は「更生の可能性がある」として無期懲役を言い渡した。だが、検察側の上告を受けた最高裁は「無期懲役の量刑は甚だしく不当」と原判決を破棄。「死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くしていない」として高裁に差し戻した。これにより、今度は死刑が言い渡される可能性が高まったとみられている。

 1、2審では、元少年と弁護側は起訴事実を認めていた。それが最高裁段階で弁護人が代わり、殺意や性的暴行目的だったことなどを否定、「傷害致死」の主張に転じた。元少年も今年5月以降の差し戻し審で「赤ちゃんを抱くお母さんに甘えたいという衝動に駆られた。背後から抱きついたが、性的なものは期待していなかった」「無意識で(プロレス技の)スリーパーホールドをした」などと述べた。起訴事実を差し戻し審で否認した理由については「検察官に『否認していると死刑の公算が高まる』と言われ、調書に署名した」と供述。当初担当した弁護士からも「検察側の主張をのんで無期懲役を維持した方がよい」と助言を受けた、という(元少年の供述部分は毎日新聞から引用)。

■弁護団への懲戒請求3900件

 もちろん、供述の真偽は不明だ。だが1、2審では起訴事実を争う弁護活動がなされなかった点、最高裁以降では弁護団が異なっている点、差し戻し審で証言に立った弁護側の法医学者らが、検察側が主張する殺害方法と遺体の状況が一致しないと述べている点などは、きちんと把握する必要がある。元少年の新たな主張を「唐突で荒唐無稽(こうとうむけい)」と断じることはたやすいが、一方で検察側の主張がすべて正しいとも言えないのである。

 ところが、こうした新主張が思わぬ波紋を呼んだ。9月4日の同紙によると、元少年の弁護人に対して懲戒処分を求める請求が全国の弁護士会に少なくとも3900件出され、昨年の請求総数1300件の3倍に上った、というのだ。この前日には、テレビのコメンテーターとして知られる弁護士がバラエティー番組で懲戒請求を促す発言をしたとして、元少年の弁護団のうち4弁護士が、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こしている。いわば「場外乱闘」ともいえる訴訟だが、09年5月までにスタートする裁判員制度を考えた時、この事態が示唆する意味は大きい。

 事件では、被害者の夫であり父親でもある会社員が犯罪被害者の権利拡大を訴え、元少年への死刑適用を求め続けている。理不尽な暴力で家族を奪われた人の言葉には否定できない重みがあり、死刑を支持する人も多いだろう。治安悪化の不安から、厳罰化を求める心理もあるに違いない。だが、断片的な情報で元少年がうそをついていると即断したり、テレビの呼びかけの尻馬に乗るようなことが続けば、裁判員制度の前途は厳しいと言わざるを得ない。

■不可欠なメディアリテラシー

 同紙は10月8日付のメディア面で裁判員制度と報道についてリポート。最高裁事務総局刑事局の総括参事官が講演で「裁判員は刑事裁判に参加するのは初めてで、報道された事実と、証拠に基づいて認定された事実とを区別して判断することに慣れていない。現在の事件報道のままで公正かつ中立な判断をしていただけるか大きな不安を有している」と述べたことを報じた。参事官は事件報道について「裁判を行う前に容疑者があたかも有罪であるかのような一方的な報道がなされ」ていると指摘。更に、有罪視だけでなく「無罪方向の報道も予断になる。有罪視よりやや許容度が高いとはいえ、予断である以上、無罪報道も困る」と明言したという。

 メディア側が犯人視報道を自戒することは当然必要だ。だが、裁判員に与える予断を理由に、例えば捜査機関が情報の開示を一切拒んだらどうなるだろうか。密室での自白偏重の取り調べが批判され、ビデオ撮影など「捜査の可視化」が求められている中、冤罪防止に逆行することになるのではないか。より重要なのは報道規制ではなく、真偽を識別する受け手の能力を高めることだと思う。

 独裁国家にとって、情報統制やメディア支配は不可欠な要素だ。市民の自由を守るにはデメリットやリスクをも引き受けつつ、報道・表現の自由を守らなければならない。そのためにはどうしても、情報を主体的に読み解く力(メディアリテラシー)が必要となる。もちろん、インターネットの匿名情報に踊らされるなどは論外だ。

 メディアリテラシーの向上は、自ら考え、判断する能力を高めることでもある。それにより、社会はより健全で強靱(きょうじん)なものになるだろう。裁判員制度は、日本の市民社会の実力や成長の度合いを測る試金石とも言える。
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