le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-31~ 微笑のうしろに②(誕生日までの過ごし方ⅱ)~

2017年08月13日 23時33分26秒 | SS~微笑のうしろに~


~ 微 笑 の う し ろ に ② 
                ( 誕 生 日 ま で の 過 ご し 方 ⅱ )~



● ● ● O s c a r ● ● ●

「暑気払い……?」
この1週間、第1班の連中と何やらこそこそやっていると思ったら、そんな事を企てていたのか?
私の機嫌を図っていたのか、アンドレは執務机、つまり私の真正面に3時のお茶を置きながら口を開いた。そして、何が楽しいのか、私の問いに少年のように微笑んで大きく頷く。
「許可してもらいたい、と言うか……もう、準備段階に入ってしまってるんだ、実は……」
アンドレは尚もニコニと笑みを絶やさずに私を見つめた。
「今年の暑さは半端ないぞ。きっとみんなも何か景気づけがないしんどいと思うんだ」

アンドレ……。
私は、おまえにゆっくりと休んでもらいたかったんだが……。
フランソワから、何やらアンドレはみんなと一緒に飲みたいらしいです、との報告を受けてはいたが……。まさか、こんな大規模な宴会を計画してしまうとは……。

こんな誕生日プレゼントって、ありか……?

私は半ば諦めて、
「いつ?」
かなり不愛想だったに違いない。一瞬ひるんだ様子を見せたがアンドレは答えた。
「うん。結局、どう考えても、どこを調整しても、夜勤者がいる限りは、少なくとも2回は開催しなきゃ、全員参加は難しい」
夜勤班にだけ何某かの差し入れをしてお茶を濁そうなど考えつきもしないのだろう。勿論参加自体は強制ではないがな、と彼は微笑んだ。
「そうだな」
ごくシンプルな返事をして事実を確認した。
「そこで、この前から下見してた各隊の仕上がり具合が役に立つんだな」

胸を張ってそう言う姿に、少年の頃、めったに見ない蝉を見つけて大喜びしていた時の紅潮した頬の少年が重なった。
『今年は良い年になるぞ』
断言する幼馴染。なぜと問う私に、
『プロヴァンスならまだしもヴェルサイユで蝉を見かけるなんて、そうそうある事じゃない! もしかしたら、一生に一度くらいのものすごい奇跡かもしれない』
あの時。私は、蝉の生息には北限があり、わが国では南のプロヴァンスくらいでしか見ない、という事を知った。
果たして、あれから、この町で蝉を見ることがあっただろうか?

アンドレは8歳の春、屋敷にやって来た。最初の頃は何となく田舎臭くてちょっとした事でめそめそ泣いていた。だが、大自然の中で悠々と育った証に、おまえは野の事や自然の中にある物を道具にして遊ぶ事はすごく得意だった。草花の名前、蔓の編み方なんかはおまえから教わったんだぞ。動植物の生育についても、自慢するでもなく教え諭すわけでもなく淡々と喋るおまえの言葉の端々から、私は覚えて行った。

そして、その年の冬になってから、私はもうひとつの幸福を知った。
『お誕生日おめでとうオスカル』
頬を染めたおまえは、あの時、私にどんなプレゼントをくれたのだったか……。おそらく、おまえ自身の方が覚えているに違いない。
『おまえの誕生日は、いつだ?』
ありがとうの代わりに照れながら訊く私に、おまえはちょっと困ったような表情をした。おまえが屋敷に来てから祝った事がないのだから、当然誕生日はまだ先だと私は確信していた。だが、おまえの口からは夏に9歳になったよ、と言う答え。

あの蝉に出会った日が、実は、私達が一緒に迎えた初めての、アンドレの誕生日だった、と。
神が私にお与え下さった一生の宝物がこの世に生を受けた日から9年後に、私達は奇跡的な体験をしたのだ。

……そんな私の感傷などお構いなしにアンドレは言い切った。
「今回は偶数と奇数に分けて中隊ごとに招待すれば隊全体の負担も少なくてすみそうだ」
「招待……?」
現実に引き戻された。
「ああ。フランソワの達ての希望だ。暑気払いの為の宴会はジャルジェ家の大広間を貸し切って行われる」
「……何だって?」
私は無意識にこめかみを押さえたようだ。
アンドレは少々バツが悪そうに私を見つめ、
「何せ急だったからな……。あれだけの大人数を入れられる店が確保できなかったんだ、すまない。モルガン執事を通じてだんな様にはご許可いただいた」
「……万事、支障なく整っていると言う事か」

おまえの事だ、抜かりはないと知ってはいたが……。
つまり、私は両方の宴会に参加して、おまえの言うようにそこに座っていれば良いというわけか。
アンドレは、そうそうと頷き、
「余興で、パリで流行ってるシャンソンでも歌ってくれるか?」
あくまでも冗談だ、とその目が言っていたので私も乗じて、
「そうか……。では、発声練習でもしておかねばなるまい」

だが、発声練習以上に心配な事がある。
「しかし、だな……。アンドレ……」
陽気な内容にふさわしくなく私が茶器を遠ざけ、仕事モードに入ったのを見て取ったアンドレは、うん、それなんだ、と深刻に頷いた。私が言わんとする事まで既にお見通しなのだ。
「ブイエ将軍から許可をいただいてもらいたい」
そう言いつつ、アンドレは私の前から離れると、彼の机の小引き出しから数枚の同じ大きさの小振りの紙を取り出した。

「えっ!?」
我が目を疑うとは、こういう事だろう。アンドレが持っている中には既に変色した物もあるが、それは明らかに全て同額の小切手だ。アンドレはそれを握りしめたまま言った。
「ここに来て最初に見つけた時には信じ難かったよ」
「横領か?」
「いや。横流しするつもりだったのなら、こんなに堂々と置き忘れはしないだろう? それに、隊長クラスの貴族がネコババするには、あまりにも額が小さすぎる」
その基準はいかがなものだろう。そう訝しがる私に視線を送り、
「ダグー大佐にさり気なく探りを入れたんだ」
好々爺は、隊随一の古株でもある。
「どうも、本来は隊員達への慰労目的で予算が組まれているべきものだったらしい」
「えっ!?」
アンドレは深く頷くと、
「する気がなかったのか、本当に忘れてしまっていたのかは不明だが……4枚ある。少なくともここ数年隊長職に就いた者がこの小切手を使う機会はなかったようだ」
「今年の分は? 私は知らないぞ」
私は、つい声を大にした。
「驚くなかれ」
むしろ、アンドレは面白がっている。
「小切手の日付を見てみろ」
「えっ……」

絶句した。
「今年の分、去年の分。更にその前の年は小切手さえない」
きっぱりと言い切るアンドレに対し返す言葉も浮かばない。無意識のうちにそれでも何とか反応した。
「それじゃあ……」
「ああ。ブイエ将軍が就任して以来予算さえ計上されていないんだ」
悔しさのあまり歯ぎしりする私にポンッと小切手を寄越して、
「これを有意義に使って、総司令官殿の説得をお願い致します」
わざとらしく敬礼する従卒に私は最上の笑みを返した。
「なるほど。これをネタにブイエ将軍を嚇せ、と……」
彼の言いたいことを正確に汲み取ることに成功した私は、さっと席を立った。


● ● ● F r a n ç o i s ● ● ●

全くアンドレのやつ、何、考えてるんだろう。
今回の主役はあんたなんだよって言いたかったけど、きっと、俺がいろいろ言っても聞いてくれやしないって分かっているから、黙ってた。
アランが、
「よぉーしッ!」
拳を握りしめた瞬間、完全に物事の行き先がこんがらがってしまったような気がした。
隊長からアンドレへの誕生日のお祝いの話だったはずが、完全に隊員達の宴会の件に擦り替わってしまっている。

「だがなぁ、アンドレ……」
そのままのテンションでみんなに色々指示するんだろうなと思っていたのに、意外にも冷静にアランがアンドレを振り返った。
アンドレが手に持ってる小切手を乱暴に取り上げ、
「これ、まだ換金できるのか?」

アンドレの説明によると、隊長の“冷静かつ理路整然とした趣旨説明”でブイエ将軍は隊員達……つまり俺達の暑気払いの宴会の開催をすんなりと了承したらしい。
でもさぁアンドレ、て俺は言いたかった。わざわざ隊長の冷静な……なんちゃらかんちゃらって断んなきゃならない状況が、既にフツーのバトルじゃなかたって物語ってるじゃないか。

それでも将軍はぶつぶつ言いながらも許可してくれて、その上、お包みまでくれたってアンドレはニコニコ顔で言った
う~ん。隊長、またブイエ将軍と気まずくなったりしてなきゃ良いけど……。将軍に言わせると“脅し取られた”なんて状況じゃないだろうか。
まさか将軍は宴会には参加しないとは思うけど、俺等だけ楽しんで、大丈夫かなぁ……。
隊長もアンドレも俺達に余計な心配させたくなくって言ってるんだろうけど、二人とも、実は嘘がへたくそなんだよなぁ。
まあ、二人の間に重大な隠し事なんかないって証拠なのかもしれないけど……。

「もしこの小切手が無効だったら……」
まさか会費制にするわけにはいかないよな。更に不安そうな表情になるアランに、アンドレが涼しい顔で笑った。
「大丈夫。オスカルも勿論、資金元になる。きっとだんな様も場を提供した手前、ブイエ将軍への見栄もあるし、何よりも親心山盛りだからご協力下さるはずだ」
「へぇ~」
感心したようにアランが肩を竦めた。
「俺も……。ヴァンの1樽くらいは差し入れできるよ」
「あんたは、ダメだ」
速攻で言うアランに、アンドレが何か言い返してる。
何だって、主役のはずのアンドレが予算の心配までしなきゃなんないんだ?
でも、アンドレは冷静に、
「だって、これがすんだら……俺は……と言うか俺達は休みをもらって……」

そうだったっ!! 忘れてた。

「アラン。遠慮なんかしなくて良いさっ! アンドレからは隊長の倍くらいいただいちゃおうぜっっ!!」
「おー、兄弟。たまには良い事言うじゃねぇか」
俺はへへって笑って鼻の頭を掻いた。


● ● ● A l a i n ● ● ●

俺だって、最初は思った。
何だって、アンドレの誕生日を祝ってやりたいっていう隊長の気持ちを最大限に汲み取った結果が、隊員の暑気払いの為の宴会の計画を練る状況に陥ってるんだろう。

だが、事の発端はアンドレが思い出したように言った、実はこれの使い道に困ってるんだ、ていうひと言だった。手には握りしめたらパリパリ壊れそうな小切手。従卒用の小引き出しに入っていたという説明を加え、見せてくれた。

そう言やぁ、ダグー大佐が昔は夏祭りなんかもあったのだが、とか何とか言ってた事があった。
大貴族の屋敷では、使用人を労う為に定期的に施しの宴会が行われる。遥か昔の記憶の中でさえ俺の家に使用人がいた事はない。だから、その施しがどんな風に行われ、使用人達がどんな風にその時間を楽しんだかなんて知らないが、隊の中には大貴族に仕え文字通り“お仕着せ”を支給され、主家の為に働いた経験のある者もいる。
何よりも、良い見本がアンドレだな。
まあ、屋敷の施しとは違うだろうが、目的はどっちも一緒だ。要は、頑張って働いている者の鼻先に人参ぶら下げて、もっと美味い人参が欲しかったら、寸暇を惜しんで働けって鼓舞してるってことだ。

アンドレが呟いた。
「ちょうど良いタイミングだったよ」
奴は心底そう思っている様子だった。
「この小切手を使う方法。オスカルの、みんなに何か褒美を与えたいって気持ち……。
そんな色々をいっぺんに解決してくれそうだ。もともと暑気払いをって考えている感じだったんだ」

なぜか、兵士用食堂のど真ん中のテーブルで顔を突き合わせて、俺達は更に計画を練った。隊長の心の内はお見通しのアンドレが、
「でも、きっと経費全部をオスカルが持つって言ったら喜ぶ奴はいないだろうし……オスカルにもおまえ等にもどんなふうに切り出そうかって考えてた最中だったんだ」
そう説明する奴の肩が嬉しそうに揺れた。
各小隊の出来上がり具合を確認してたのは、この先の振り分けを決める目的は勿論あったが、何よりも今回のように大隊の半分が不在になるような状況になった時にも、指揮・命令系統がきちんと確立できているかを確認しておきたかったんだ、と笑った。
道理で、視察に俺がつき合わされたわけだ。
いくら隊長の右腕でも、各隊の特長や完成度合まで詳細に把握するのは、あんたには難しいだろう。

俺は、じゃあ、本格的に話を詰めようぜと、投げかけた。
「料理は、ジャルジェ家の厨房に任せるとして……後は、酒と……オンナ……」
「女なんて……そんな、隊長に失礼な事、良く言えるねっ!」
フランソワが本気で反論した。
「馬鹿だなぁ、フランソワ。アランは冗談で言ってるんだよ」
俺が口を開くより先、アンドレが説明した。

「おまえらのおかげで楽に物事が進みそうだ。Merci」
何やらしんみりした口調で言うアンドレ。
馬鹿野郎、おまえの為じゃねぇよと、俺はそっぽ向いた。

何だか、楽しい宴会になりそうだ。


≪continuer≫


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4 コメント

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Unknown (Ritsu)
2017-08-14 14:12:18
楽しい優しいお話しをありがとうございます
ほのぼのとして夏バテで疲れた心と体が癒されます

アンドレの誕生日は人権宣言の日なのですね
告白する事すら命がけだった彼の誕生日が人権宣言の日
感慨深い物があります

おもいっきりヒール役のジェロっちを模索中との事楽しみです
動けば動く程二人を結び付けたジェロっち多少悪くても許せます

おれんぢぺこ様の描かれるジェロっちは感情顕で人間臭くて魅力的です
余りに貴公子然、聖人君子然とした彼は血も青そうで苦手です

続きを楽しみにしています
暑い日が続きます体調等崩されません様にお祈り致します
アンドレらしい (りら)
2017-08-14 21:51:21
 アンドレのための誕生祝いが、衛兵隊員の暑気払いとなってしまう…8月生まれの悲喜劇でしょうか?でも何だか彼らしい。ブイエ将軍がチクチク嫌味を言いながら、宴会の許可を出した様子が目に浮かびます。しかも2回!こりゃ余興もかなりのものになりそう。

 こちらは毎日1回は雨が降る日々です。おれんぢぺこさまのお住まいのエリアはいかがですか?

 さて次はどんな展開になりますか?
>Ritsu様 (おれんぢぺこ)
2017-08-15 21:29:06
ご訪問ありがとうございます

>ほのぼのとして夏バテで疲れた心と体が癒されます
・・・そうだったら嬉しいです。当方、少々夏バテ気味で何とか食べようと冷たい物ばかりを口にしてしまい、今度はお腹もしくしく……。悪循環に陥っております

>アンドレの誕生日は人権宣言の日なのですね
・・・感慨深い物がありますね。原作者様は、やはりそこを意識して設定されたのでしょうか? 昔A君には5月生まれ説がありましたね。実在のF氏と星座がかぶるから変更されたという話をどこかで読みました。

>おもいっきりヒール役のジェロっちを模索中・・・
・・・うふふですね。果たして形になるのかも含めて、模索中、と申しておきます。

暦の上では秋とは言え、まだまだ暑い毎日です。Ritsu様も十分ご自愛ください。

コメントをありがとうございました。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
>りら様 (おれんぢぺこ)
2017-08-15 21:53:50
ご訪問ありがとうございます

>さて次はどんな展開になりますか?
・・・どんな展開に致しましょうか??? 世間様はお盆で忙しそうなのに、全くそんな気配がなかった我が家ですので妄想にも力が入りました

当初は、いきなり誕生日当日の出来事に話が飛ぶ予定だったのですが、暴走犯は書き手の他にも確実におりまして、ついつい書き進めてしまった結果ですが、オトシマエ、どうするんでしょうねぇ(笑)。
この全くの他人事みたいな感覚もどうするんでしょう?

我が家近辺、一昨日から昨日に掛けて、久々の。ダム湖の水嵩も若干上がっておりました。
降っても文句。降らなくても文句。ニンゲンってどこまでもわがままですね。

いつもコメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ

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