le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-29~ ピロートーク・Ⅳ(朝まだき・・・①)~

2017年07月12日 00時20分42秒 | SS~ピロートーク シリーズ~


~ ピ ロ ー ト ー ク ・Ⅳ ( 朝 ま だ き ・・・ ① ) ~



【最初の言い訳】

3が日でございます。
内容もない、ただ書きたいだけの何の変哲もない日常のだらだらと進むシーンを12、13日に。当初、あまりの内容のなさに、いっそ14日のUPだけに絞ろうかと思ったほどでしたが、この話が蔵の中に残ってしまう事も恐ろしく……。ダーッと読んでいただけましたら、嬉しいです。
そして、『出会いの日から』の最終話を14日にUP予定でございます。こちらは、もう1年計画(!)書き手としては、やっとタイミングがあったと自負しているところでございます。宜しければおつきあいくださいませ。




掛け布がおまえの方へ引っ張られる感覚がした。私を背中から抱きしめていたその手を離し、寝返りを打つと反対を向いて、寝台の端に寄るのが分かった。
私が一睡もできなかった事におまえは気づいているだろう?
カーテンの僅かな隙間から差し込み始めた朝陽が、起き上がったおまえの影を動かす。
「オスカル……」
ベッドに肘を突き私の方へ顔だけを寄せる。
耳元で小声で名前を呼ばれたが、振り返る事ができない。その理由もおまえは分かっている。
だが、私の名を呼んだおまえもそれ以上何を言ったら良いか迷っているのだろう。そっと、背中を向けたままの私の左頬にくちづけを落とすと、おまえが立ち上がる気配が伝わって来た。微かに寝台のマットレスが音を立てる。そして、衣服を整えている気配。

まだ、行くな! もう少しそばにいてくれと本当は縋りたかった。……だが。上手に甘える手段を私はまだ知らない。
静かに寝室の扉が閉まると同時に私は上半身を起こした。
すまない、慣れない。
……いや、慣れている方が問題だろうな、こういった場合。

……私達は、初めての朝を迎えた。

アンドレの唇が、指先が、その魂の全てで私を愛してくれた。
不器用な私は、おまえの愛にどう答えたら良いか分からなかった。『正解』や『見本』があれば何かが違っていただろうか。やっと気づいた自分の想いに素直になる事に必死だった。それだけしかできなかった。

表面は、いつもと変わらない朝。
身支度の手伝いに来てくれた侍女が、珍しく起こされる前から寝台を抜け出している私に驚き、
「いつもこうだと大変嬉しいのですが」
と、軽口を叩いた。
普段の私の寝起きの悪さは侍女達の間でも有名らしい。
そう言えば、もうずいぶん前。無意識のうちに、起床を促す侍女に枕を投げつけて転倒させてしまった事があった。
次々に整えられていく洗面用具。水面に映った自分の表情が不安になる。

私は……美しいだろうか……。

侍女からリネンを受け取りながら、
「私は疲れたような顔をしていないだろうか?」
つい訊いてしまった。侍女はちょっと顔だけを私に向け、
「よくお休みになれませんでしたか? 特段いつもと変わったようにはお見受け致しませんが。……むしろ、お顔の色はいっそう艶やかに感じられます」
彼女はそのまま、正面を向き直り私の衣類にブラシを当て始めた。
驚いた。一睡もできなかったというのに顔色が日頃より良いとは。

突然。昨夜のアンドレの囁きが耳元に蘇った。

『綺麗だよ、オスカル』

私は、アンドレの為に綺麗でいられる。化粧だとか香水だとか、そんな女らしいものとはおよそ無縁に暮らしてきたが、今、おまえの為に美しくありたいと素直に思える。

「さあ、朝食にお行き下さいませ」
促され、私は立ち上がった。ブラウスの裾を侍女が軽く引っ張ってくれる。
「とてもお綺麗ですよ、オスカルさま」
そう呟くと、彼女は夜具を片づける準備を始めた。
多分、彼女は気づくだろう。不自然に乱れたシーツ。
そして、何よりも。そこに残された彼の瞳の色と同じ色の髪……。微かに残る彼の香り。
私は、部屋を出る寸前に寝室を振り返ったが、彼女はもう何事もなかったかのように私の寝具の片づけを始めていた。

朝食のダイニングにアンドレの姿がない事に、私はホッとした。
今朝までおまえのぬくもりの中にいた。だが、今、おまえの前でどんな表情をしたら良いか、私には分からなかった。だから、そこにおまえがいない事にむしろ安堵した。
……おまえも、そうだったのではないか?

義務のように食卓に着いたものの、食欲は湧かなかった。果物とカフェ・オ・レだけで満たされてしまった。後の準備に行こうとする侍女にクロワッサンはいらないと告げ、一旦自分の部屋に戻る。
もう、侍女の姿はなかった。
出仕までの時間にアンドレと会わずに過ごすのは、そう珍しい事ではない。その事に、ほんの少しの寂しさと安堵感が入り混じる。アンドレも彼なりの用意があるのだから仕方ない。
ゆっくりと窓辺で侍女が準備したお茶を飲んでいると、やがて馬車の準備が整ったとアンドレか侍女が告げに来るだろう。私は、いつものように軍服を着て、姿見で身だしなみを確認する。そして、いつもと変わらずに出仕する。
いつもと何も変わらない日常が、今日も始まるはずだ。

マイセンの茶器を手にしたものの、視線の持って行き場がなく、ふと寝室の入り口に眼が行ってしまう。……あの扉の向こうに、凝縮された愛の世界がある。
またしても、頬が火照ってしまう。
つい、駆け寄って扉を開けた。
ついさっき、侍女の手によっていつものように整えられた寝台。おまえの香りも白いシーツと一緒にここから持ち出されたと思うと、寂しくなってしまった。と同時にどうしようもない恥ずかしさが全身を襲った。

昨夜の私は、おまえにふさわしかったか?

嫌だ! このままいつものようにおまえに会う事ができない。

気がつくと、私は走り出していた。
逃げよう!
――― 何から? なぜ!?
自分でもよく分からないが、とにかく、今、おまえの顔を見る事はできない。

幸いな事に玄関の車寄せに、まだおまえの姿はなかった。
「すまない、ジル。大急ぎで出してくれ」
近づきながら私は、御者に大声で告げた。
侍女と語らっていたジルは、慌てて御者台に上がったが、
「アンドレがまだですが……」
と、そこにいない彼の名を口にした。
「良い。先に行くと言っておいてくれ」
私は慌てて駆け寄って来た数人の侍女に言い残すと、自分で馬車の扉を開け踏み台も使わずに飛び乗った。
ジルは慌てて馬車を駆る。激しく鞭打つ度に馬車のスピードが上がる。門を出て、公道に差し掛かったところで私は小窓を叩き、御者台のジルに、
「もう良いよ。スピードを落としてくれ」
そう言うと、ジルは私の気まぐれだとでも思ったようで一瞬当惑の表情をこちらに向けたが、畏まりました、と礼儀正しく返事をすると馬を宥めた。

やがて、いつもより早く兵舎に到着した馬車を認め、数人の兵士が慌てて迎えに集まって来た。ダグー大佐も傷めた腰を擦りつつ、車寄せに走り寄って来る。
さすがに、飛び出すわけにもいかずジルが踏み台を用意してくれるのを待った。別にジルの要領が悪いわけではないと分かっているものの、アンドレの手順の良さとつい比べてしまう自分に笑ってしまった。
皆が一斉におはようございます、と私に頭を下げる。
私は、習慣となってしまった、
「私の馬車が着いたからといって、自分のやっている事の手を止めてまで迎えに出なくて良い」
少々無愛想に言い放つ。
「いや、しかし、隊長。物事のけじめとして……」
厳しい階級制度の元で成り立っている我々軍人の性か、ダグー大佐は几帳面に応答した。
「隊長こそ、そろそろ慣れていただきませんと……」
父より高齢の私の部下は、私を諭すように笑った。そして、当然、
「今日は……アンドレは……?」
そこにいるはずの従卒の不在を訝しんだ。

「あ……」
私はとっさに嘘を吐く。
「屋敷内の雑務が追いつかず……遅れて来る……かな……。あ、いや……来ないかな……」様相は普段通りなのに、なぜか歯切れの悪い私に、大佐が首を傾げているのが分かった。
歩は何の変わりもなく進むが、司令官室の扉を開けるダグー大佐の立ち位置さえ気に入らない。あいつは、扉を狭めて2歩ほど中側……つまり今の大佐の位置よりももっと右に立つ。人ひとりやっと通れるくらいだ。だが、そうすると、背中の向こうから入り込んで来る朝陽の眩しさから私を守る事ができるはずだ。
そんな些細な、日常のアンドレの何気ない心配りに、こういう時改めて気づかされる。
私がいつものように、机後ろの窓から裏庭を眺める様子を確認すると、副官以下はそれぞれの持ち場に戻って行った。

自分で引き出した椅子に腰かける。
常日頃なら絶妙のタイミングでアンドレが引いてくれるのに、と思うとまた溜息が出た。
勝手に羞恥心を覚え、ひとりで屋敷を飛び出して来たのに、と悲しくなって来た。
勿論、アンドレが出勤して来たら顔を合わせるのだから、と今度は後悔が襲ってくる。何も避けるかの如く出て来なくとも良かったのに、と少し反省する余裕もできた。

「……アンドレ……」
口を吐くのは彼の名前。
「……早く来い……」
我ながら、良くもここまで我儘になれるものだと笑いが出て来る。


アンドレの不在を聞きつけた当番兵が、そろそろお茶を持って来るだろう。気をつけておかなければ、彼らに、こんな心もとない表情を見せるわけにはいかない。
私が出勤してしばらくすると、日頃ならアンドレがお茶を取りに行くのに、現れないのを不審に思った厨房のマダムかもしくは当番兵自身が準備をしているに違いない。
私は己を叱咤する為に頬を軽くパンパン叩いた。

すると、それにタイミングを合わせるかのように乱暴に扉が叩かれた。
「隊長、今日はアンドレがいないって本当すかぁ」
最悪のタイミングだ。
図っていたに違いないと思ってしまうほどの間合いで、アラン・ド・ソワソンの登場だ。手に日誌を持っている。昨夜の夜勤報告のようだ。
「あ、いや……。いないわけではない……」
ダグー大佐に言ったよりももっと歯切れ悪く、私はアンドレの不在の言い訳をする。
「まさか“持って来る”のを忘れちゃったんじゃないでしょうねぇ」
持って来るとは、何と言う言いようだ。無礼千万。
そんな私の気持ちがそのまま表情になったようだ。アランは、おっとぉと笑って、何を考えているのか机に身を乗り出すようにしながら、正面から私を見つめた。

止めろ。朝っぱらから、私を怒らせたいのか!?
心の中で、舌に載せる言葉を思い浮かべてみた。だが、不思議な事に挑発するかのようにニヤッと笑うアランにさえ、なぜか私はイラつかなかった。
それどころか、視線をどこに置いたらよいのか戸惑ってしまう。正面にいるアランの横で、いい加減にしろと宥めるように笑っている、そこにいるはずのないアンドレが見えた。
「……アンドレ……」
まずいと思った時には手遅れだった。
私の口からは、愛しい、今すぐに会いたい彼の名がついて出てしまった。

「喧嘩……じゃなさそうだな」
アランは、呆れたという顔をして、その場を離れた。両手を頭の後ろで組み、今にも口笛でも吹き出しそうな雰囲気で、部屋の中央の応接セットのテーブルに腰を下ろし、足を組んだ。そして、
「あ、いや。むしろ、本物の喧嘩、か……」
「本物の喧嘩って、何だ?」
下手に喋るとボロが出そうな気がしたが、私はついついアランに聞き返した。

アランは何でもないっすよと言い、ニヤリと笑った。
そして、無言のまますっと立ち上がると、手に持っていた日誌を私が座る執務机に放り投げると、
「素直になんなきゃいけない時ってのは、タイミングを逃すとこじれるばかりですよ」
そう言い放ち、振り返りもせず、出て行った。

おまえは……。
何を知っていて、私に諭すような口を利く?
素直になるとはどういう事だ?
だいたい、私達は、だな……。何と言うか、もうおまえ達が知っている私達ではない。

何せ、昨夜、私はアンドレのものに……。
……ダメだ。やはり、赤面するばかりだ。

アンドレ、早く来てくれ……。

≪continuer≫

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8 コメント

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素敵な「3ヶ日」のスタート、ありがとうございます! (みにら)
2017-07-12 08:14:36
おれんぢぺこさま

いきなりのコメント、すみません(>_<)
でも12日に、こんなに可愛い(失礼^^;)オスカルさまに会わせて頂いて、嬉しくなってしまって!朝から通勤電車で、ひとりニヤニヤしてしまいました(笑)

きっと出動が無かったら、こんな想いのオスカルさまが居たのでしょうね。
アンドレ、早く来てあげて~(^^)

これからも楽しみに拝見させて頂きます!

突然の乱文、失礼しましたm(__)m
Unknown (マイエルリンク)
2017-07-12 10:15:02
おれんぢぺこ様


「うふふっ!」 と思わず笑みが・・・
何と可愛いオスカル様ではありませんか!

オスカル様にこんな優しい空気に包まれた、幸せな朝を迎えて頂きたかったですね。
原作のアンドレが寝台から抜け出す瞬間の二人の心を思うと……


三が日の朝、 幸せだけど、ちょっぴり(というより相当)オドオドしているオスカル様に出会えて嬉しいです。
明日、明後日とおれんぢぺこ様からありがたすぎるプレゼントがいただけるなんて!
もう、ドキドキでございます。


ありがとうございます。
嬉しいです (RM)
2017-07-12 12:26:55
こんな幸せな 朝の様子・・・お二人が 結ばれた日の翌日に迎える朝は、こうであって欲しかった(涙)
二次創作の中 だけでも、幸せな、そして、アンドレとの事だけに思いを巡らせることの出来る 可愛いオスカル様に出会えて 本当に嬉しくて、ハッピーな気持ちになりました♡
もちろん、原作は、至高のもので、三が日も、全て含めて、ああでなければ、きっと、ここまで何十年もあの二人を思い続ける事は無かったのだと 確信しておりますが・・・

その原作ありきの、幸せな二人が 生き生きと日常を送られる姿を見られる おれんぢぺこ様のお話しが、私は本当に大~好きです!!!
いつも読ませて頂いているのですが、文章を書くのが苦手で コメントは時々しか 書けなくてごめんなさい。

お忙しい中、素敵なお話しを、いつもいつも ありがとうございます!!!
しかも、今回は 続けて 三が日中お会い出来るなんて!最高です!
三が日も、これからも、楽しみに更新お待ちしてますね!!!
Unknown (nasan)
2017-07-12 12:58:28
あー❤おれんぢぺこ様。もう大変です。仕事中なのに朝からニヤニヤとしております。(とりあえずマスク着用で、物相手ですので、変人扱いされずに済んでます)

こんなO様、大好物です。(あっ思い悩むA君も)
とにかく、O様が可愛い。可愛いすぎる。
あたしも、アランになってからみたい。

昼からの仕事も、ニヤニヤしながらこなしたいと思います。この後のアップも、楽しみにしてます。

更新ありがとうございます。
>みにら様 (おれんぢぺこ)
2017-07-12 23:59:15
ご訪問ありがとうございます

>きっと出動が無かったら、こんな想いのオスカルさまが居たのでしょうね
…本当に。そうであったと思います。
昔レベッカが歌っていた『フレンズ』という歌の冒頭部分の歌詞がとっても可愛くて、それを最初に聞いた時になぜか浮かんだのがO様でした。
そんな事を思い出しながら書いております。

お優しいコメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
>マイエルリンク様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 00:08:31
ご訪問ありがとうございます

>・・・ちょっぴり(というより相当)オドオドしているオスカル様・・・
・・・恋愛モードのO様は。、きっとツンデレだったに違いないと昔から思っております。

>明日、明後日とおれんぢぺこ様からありがたすぎるプレゼントがいただけるなんて!
・・・とんでもないです。私の方こそ、いつも暴走を暖かく受け止めて下さる皆様からプレゼントをいただいております。

お優しいコメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
>RM様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 00:15:56
ご訪問ありがとうございます

>その原作ありきの、幸せな二人が 生き生きと日常を送られる姿を見られる おれんぢぺこ様のお話しが・・・
・・・このように解釈していただけると本当に嬉しいです。前にも申した事ですが、私が書く話は、おそらく誰もが一度は思い描いた事がある類のものと思っております。

何よりもOA至上!! この思いは永遠に変わりません。そこにたどり着く為にジェロちゃんやアラン等の“揺さぶり役”は不可欠なのですが(;^_^A

>しかも、今回は 続けて 三が日中お会い出来るなんて・・・
・・・とんでもないです。こちらこそお越しいただけて嬉しいです。
コメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ

>nasan様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 00:25:39
ご訪問ありがとうございます

お仕事、順調に終わられましたでしょうか?

>とにかく、O様が可愛い。可愛いすぎる
・・・どうなんでしょう? 可愛いO様って。
やはりO様はツンデレと思っていますので、A君と二人きりの時って、きっと思いっきり可愛いはずと信じてやみません。

>あたしも、アランになってからみたい
・・・同感です。アランって、斜に構えてるから素直におめでとうとか言わないイメージでおります。でも、自分の失恋とは別次元で二人の事を一番祝福しているのも、アランだと思っています。

コメントをありがとうございました。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ

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