le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-29~ ピロートーク・Ⅳ(朝まだき・・・②)~

2017年07月13日 00時32分35秒 | SS~ピロートーク シリーズ~


~ ピ ロ ー ト ー ク ・Ⅳ ( 朝 ま だ き ② ) ~



何から手をつけたら良いのか。こんな事では部下に対しての示しがつかないと思い直して、アランが置いて行った日誌に目を通すことにした。
ついてまだ10分も経たないのに、アンドレが来るまでの待ち時間に耐えられそうにない。
今すぐ屋敷に戻り、すまなかったと言った方が良いだろうか?
そんな事を考えながら、日誌を開こうとした瞬間、軽やかなノックの音がして私はドキリとする。
アンドレだ。このノックの仕方はアンドレだ。
だが、私はドキドキをひたすら心の奥に押しやり、はいと短く返事をする。

「急ぐ必要があったなら、先に……」
何だって、おまえはそんなにも普段と変わらない態度が取れるんだ……?
銀のトレイに紅茶を載せて、アンドレは、にこやかにさわやかに現れた。
言い終わらぬうちに、トレイが一旦そこに置かれた事を確認すると、私は思わず立ち上がって後ろから回り込むとアンドレに抱きついた。
「……遅いぞ……」
「え? いや、だから……普段通りの出勤で良いとばかり思ってて……」
私のめちゃくちゃな言いがかりなど慣れっこになってしまっているおまえは、おまえの腹に回した私の指先をポンポンと叩いた。そして、そのままギュッと握りしめると、
「……ホント言うと……」
と、一瞬ためらうように言葉を切ったが、
「……おまえが先に屋敷を出たって聞いて、怒らせちゃったのかなと思って……急いで飛んで来た」
「なぜ、怒る必要がある?」
「えっ……。えーっと……」
「……私は……」
アンドレの背中にギュッと右の頬全体を押しつけてから、
「……おまえの顔を見ること自体が恥ずかしかったんだ」
「……え……」
私の手を握っていた指の力がスッと抜けた。

アランの教えに従っている訳ではない。しかし、こんなにも正直に、素直に私が言っているのに、おまえはほーっと息を吐く。そして言った。
「昨夜の事がお気に召さなかったのかな、とか……色々考えた」
「えっ?」
どういう意味だ、それは?
「男ってさ……」
言いながら、おまえは組んでいた私の指先をそっと外させると、こちらを向く。そして、私を包み込んでしまった。

朝っぱらから司令官室で抱擁するなど……。
自分から先に抱きついた事などとっくに忘れて、まずくはないか、と自問してみる。
「男って?」
言い淀んだアンドレの言葉の先を促してみる。
「うん。男ってさ……。愛する人と一緒になれた後でも、どうしようもない事をグダグダと考えてしまうんだよなぁ」
唇がかすかに髪に触れ、とてもくすぐったい。
「たとえば……?」
「言わせるかなぁ、それを……」

私を抱きしめていた温もりが離れた。
「たとえば……」
アンドレは目で私に着席を促しながら、言葉を続ける。
「俺の愛しい恋人は、果たして満足してくれただろうか、とか……」
「は……?」
満足って、何だ!?
私の表情を見事に読み取ったおまえは、一旦私に背中を向けると、改めて紅茶が載ったトレイを持って来る。

いつものように茶器を机に置きながら、
「慌てて飛んで来たら、ちょうどアランがこれを持って来るところだったんだ。だから、急いで受け取って……」
アランが?
また、アランか。何を考えている? アランは夜勤明けだ。当番であるはずがない。
そんな私の疑問などお構いなしに、なぜアンドレが紅茶を持って来たのかという説明を先にした。だが私は“どうしようもない事”の方が気になってしようがない。
「どうしようもない事って……何だ?」
「えっ……ああ、本当にしようもない事だ」
頭を搔きながら、アンドレは私の左後ろに張り付くようにピタリと立つ。従卒としての位置だ。そして、私が紅茶を啜るのを確認すると、
「美味しい?」
直立不動のまま訊く。ああ、と私はわざと不愛想に答える。だが、
「……おまえが淹れた方もっと美味しいけれど……」
これは事実なので、平静を取り戻した私がそう言うと、
「なかなか素直だなぁ」
朝っぱらから恋人を悩殺してどうするつもりだと腹を立てたくなるくらい、背中をスーッと撫でるような深い甘い声が頭上から響いた。

こいつ……。
私は顔だけで振り返ってアンドレを睨んだ。有耶無耶にするつもりだろう。私の質問を何とかはぐらかそうとしているに違いない。勢いついて出してしまった本音だったが、私に聞かせたのは間違いだったと、その顔が言う。だが、にこやかなその表情にも負けず、私は再度尋ねる。
「どうしようもない事って何だ? 答えろ」
もっと可愛い言いようもあるだろうにと情けなくなりながらも、私の中に普段の私が戻って来たのを味方にして、言い放つ。
「ああ……」
アンドレはしようがないなぁと言った。そして、私の椅子をくるりと回すとその正面に両膝を突き、下から私の顔を覗き込む。

やばい……。それは、反則だ。
正面から見つめられるのは、まだちょっと……。
慌てて顔を逸らそうとすると、頬を両側から挟まれた。ダメだろう、アンドレ。急上昇する熱がおまえに伝わってしまう。
「今朝、おまえが果物しか食べなかったってマリーが気にして俺の所に報告に来た」
ジャルジェ家の使用人は、みんな几帳面すぎるくらいに真面目だからな、とアンドレは笑った。
「俺も言わずもがなだが、な……」
そんな言い方をされるとちょっと悲しい。私達の間の見えない壁を見せつけられているような気持ちになる。でも、それはおまえの誇りでもあるから、しようがない。
「……で、おまえがバタバタ出勤して行ったって、気にしてたから……。挙句に『アンドレご一緒しなくて良かったの』とかアッパーカット喰らわすもんだから、さ……。俺も色々考えてしまったんだ」
「どうしようもない事を?」
そう、とアンドレは深く頷いた。クスリと笑う私の頬を覆う指先がかすかに揺れる。
「どんな?」
「おまえまで……」
大打撃だとアンドレは情けなさそうに笑った。どうも私のパンチも彼の顎に喰い込んだらしい。

ひとしきり笑った後、急に真顔になり、
「笑うなよ」
姿勢はそのまま、おまえは私の顔を見つめている。
「呆れるなよ」
今度は、そう言った。
うん。おまえの言う事だ、笑わないと約束する。コクコクと頷く私に満足したのか、
「さっきも言っただろう? 俺の愛しい恋人は、果たして満足してくれただろうか」
「はっ……?」
すまないが……。言っている意味が分からない。そんな私の表情をおまえは読み取って、
「……そうなんだよなぁ。オスカルなんだよ……」
また、意味の分からない独り言を呟いた。

おまえはコホンと咳払いすると、やっと私の頬から手を離し、立ち上がった。そのまま、窓際に行くと窓から裏庭を見つめている。
私は椅子を更に回し、座ったままおまえの背中を見つめた。
「取り越し苦労だったなぁ」
アンドレ、すまないが、私にわかるように言ってくれないか?

「先に行ったって聞いた時、まず考えたのが、きっと気に入らなかったんだ……って事なんだよなぁ、本当に情けない事に……」
背中を向けたままのおまえの声は向こうを向いているから、当然ややくぐもっている。
「何が?」
「ほらなぁ、オスカルなんだよ……」
また、そんな言い方をする。私を怒らせたいのか。

「つまり!」
いきなり勢いをつけて私の方を向き直ると、
「俺が下手くそだったから、おまえは気に入らなかったんじゃないかって……そんな、どうしようもない事をウダウダ考えてたわけ」

……えっ……?

「下手……だったのかって……?」
「な? オスカルなんだよ、俺の彼女は。……だから、こんな俺の悶々とした気持ちなんか関係なかったんだ」
「自己解決か?」
「う~ん。課題は残るし、研究の余地はあるが……」
……アンドレ……。
何だか、おまえの事が、ものすごく希少価値のある単細胞生物に見えているのは気のせいだろうか? ……と言うか。あんなに気恥ずかしかしくて、おまえの顔を見る事もできないまま屋敷を飛び出した私の気持ちは、何だったんだ……。

……何となく、アランの方が賢くて大人のような気がして来た。
「アランが……」
「アラン?」
おまえは素頓狂な声を上げる。何だって、ここにアランが登場するんだと憮然とした表情になる。そのまま窓枠にもたれかかる。そして、
「そこで会ったぞ。今週は当番だ。さっきも言ったよな? お茶を持って来ようとしてたから……」
「いや。それはおかしいだろう。アランは夜勤明けだ」
私は興奮して立ち上がる。すると、反しておまえは冷静に一拍置く。
「何だって? そんなはずはない。今週は第3中隊が夜勤だから、アランが当番なはずが……」
「だが、日誌を持っておまえより先に……」
平行線の会話に二人同時にハッとなる。

「……ハメられたか……」
呆然と呟くおまえに、私も笑いがこぼれてしまった。
「……みたいだな」
「あ、いや……。ハメられたって、ちょっと違うかな」
アンドレは丁寧に説明を加える。
「アランは明らかに俺の到着を待ってた」
「えっ?」
「……俺が馬を馬場に持って行くのを確認するかのように、厨房の裏口から出て来たんだ」
「わざわざ?」
ああ、とおまえは深く頷いて、
「いったいどこに、隊長の茶を運ぶのに厨房の裏口から出て来る奴がいる?」
その奥には、厩しかない。
「……いないな、通常は……」
アランの他には、と敢えて分かり切った答えを出す私に、アンドレは言った。
「それで納得だ」

うんうんとアンドレは何度も頷く。
渡り廊下まで一緒に歩きながら、アランと交わした会話の内容を私に聞かせるアンドレ。
「あいつが『どうしたんだ』って言うから、俺はてっきり遅くなった事について聞かれてるんだと思って『ちょっと野暮用でな』とか誤魔化したんだが。意外にもふ~んって素気ない返事だけだったんだ」
「何のツッコミもなかった、と?」
「そうなんだよ。おまえ……何があった? アランと……」
「何も……ない」
歯切れの悪い私の答えに、おまえは数歩の距離を縮める。
「馬車から降りる時の様子とか……。まず何よりも俺が一緒じゃないって事とか、見られてたんだな、きっと……」
「みたいだな」

何だか、言ってしまえばそれだけのような気がした。
慌てまくって一人で出て来た私のいつもと違う様子、その上アンドレが一緒ではない。そんな状況を見て、アランはまず私の様子を探る為に、ちょうど夜勤者が持って来ようとしていた日誌を取り上げた。
「いやいや、取り上げたってのは人聞きが悪い」
庇う発言をするアンドレにちょっとむっとして、
「では、言い換えよう。強引に預かった」
「何だかなぁ。どこが言い換えた事になるんだか……」
アンドレは大笑いだ。しかし、アランが取った手段はおそらくそうだぞ。おまえもそれについて異存はないだろう。表現方法には疑問がありそうだが……。
「それで、私の様子を見に来た、と言うわけか……」
「おそらくな……。そして、喧嘩じゃないって悟った」
「うん、そう言ってた。加えてあいつにしては珍しく指南までして行った」
「まあ……」
あんまり言いたくないけど、とおまえは笑った。
「指南と言うより、単にからかいたかっただけなんだろうが……」

「あ……」
私は続きの言葉をどう言おうかと迷っている間に、気づくとまたおまえに包まれていた。
「アンドレ……。この状況はまずくないか……?」
私の意図する所は伝わったはずなのに、アンドレは私を抱きしめる腕を緩めようとはしない。だが。私も、軍服の背中を抱きしめたまま離す事ができずにいた。
「……まずいだろうね……」
「きっと、扉の向こうにはアランが……」
「そうだね。アランどころかおそらく可能な限りの兵士が集められて……」
それでもおまえの腕から力が抜ける事はない。
「そうだとしても俺は構わない。俺が愛しているのはおまえだけだって宣言できる」
「……アンドレ……」
何でそんな凄い事を、何でもない、当たり前の事のように言えるんだ。
「下手くそだったら、とか考えた事は事実だけど……。それ以上に、もうおまえを抱きしめる事ができなくなったらって思ったら、一刻も早くおまえの顔を見たかった」
「……アンドレ……」

扉の外でカタンと音がした。
ああ、連中がお出ましだと思ったけれど、私はしがみついたおまえの背中から、この手を離す事ができなかった。

≪fin≫

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9 コメント

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Unknown (まみも)
2017-07-13 03:10:10
おれんぢぺこ 様

素敵なお話をありがとうございます!
(๑˃̵ᴗ˂̵)
今日は即、コメントさせていただきました。

3が日ということで…
原作に添えば切ない時期なのですが、このお話で幸せな気分になっております。

いつも他の読者の皆さまのコメントも楽しく読ませていただくのですが、①話のコメントにビックリ!!
私の書きたい内容が、私では書けない素敵な言葉でたくさん寄せられていました。もう他に何も言う事がありません(^^;;

お話の内容と、コメントの内容で私の胸は幸福感でいっぱいです(*≧∀≦*)
アランの絡み方も絶妙です。

次作も楽しみにしております。
Unknown (マイエルリンク)
2017-07-13 10:03:03
おれんぢぺこ様


恋愛講座実技編、超ど初級のオスカル様のボケボケ加減がたまりません! アンドレ相手だと、知ったかぶりっ子しようなんて意識もなくって、素のまんま(笑)

それに対して、今朝は内心肝を冷やしたであろうアンドレ君。 余裕の色男ぶりがたまりませんね。

恋愛モードでの二人のこの力関係って、本当にファンにはツボでございます。



扉の向こうの面々には、どこまで聞こえているんでしょう。 声が聞こえないなら聞こえないで、アレコレ妄想大暴走でしょうね!
Unknown (依久)
2017-07-13 18:50:04
おれんぢぺこ様、こんばんわ

うーん、幸せなお話だ良かったです。
アンドレがの、満足のくだりに……ああ、もう言葉がございません。\(//∇//)\


アランも大好きなので、ニマニマしながら読み進めました。

ありがとうございました(*≧∀≦*)
>まみも様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 22:15:31
ご訪問ありがとうございます

>・・・①話のコメントにビックリ!!私の書きたい内容が、私では書けない素敵な言葉で・・・
・・・まみも様はどんなふうに思って下さったのでしょうか?

>アランの絡み方も絶妙です。
・・・ありがとうございます。何よりの励みになります。
ラブラブOAにアランを絡ませるのって大好きでついつい悪乗りしちゃいますが、このパターン、ストーリーの展開は乏しいものの次々に設定が浮かんでしまいます。
宜しかったら、またお付き合いください。

一番乗りでのコメントをありがとうございました。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
>マイエルリンク様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 22:26:59
ご訪問ありがとうございます

>恋愛モードでの二人のこの力関係って、本当にファンにはツボでございます
・・・やはり恋愛に関しての主導権はAくん、というところでしょうか。実は原作でのきっかけつくりはO様の方なんですけどね(-_-;)

>扉の向こうの面々には、どこまで聞こえているんでしょう。 声が聞こえないなら聞こえないで、アレコレ妄想大暴走でしょうね!
・・・本当に(笑)。あ! そう言えば、蔵の中にそんな場面を想定した書きかけの話もあったような…。果たして、お披露目できる状態まで書き上げる事ができるかどうか、甚だ疑問ですが、もしも完成しましたら、またお付き合いいただけましたら幸甚に存じます。

いつもお優しいコメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
>依久様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 22:34:41
ご訪問ありがとうございます

>アンドレがの、満足のくだりに……ああ、もう言葉がございません
・・・本当に男の人がこのように思うかどうかは知りませんが、何かの雑誌で読んだ記憶がありましたのでちょっと使ってみました(笑)。

アランですね。書いていて一番自己主張が強いのはアランです、はっきり言って! 
その辺をまた触ってみたいですね。宜しかったらおつきあいください。

いつもコメントをありがとうございます。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ
三が日 (rona)
2017-07-13 23:34:24
今年も気がつくとこの日がきたんだとネットサーフィンに走っております。昨夜はこちらのお話にクーっとテンションが上がりました。アンドレ〜!下手くそかどうかなんて経験のないオスカル様にはわかりません。けど、そこらへんを思いつくあたり、また二人の短いラブラブな時間を思い胸がときめきました!!三十路ながらかわいいオスカル様とこれまた一途な従僕アンドレ!今日は仕事中にもこちらのお話を思い出してしまいました。続きを楽しみにしています。
>rona様 (おれんぢぺこ)
2017-07-13 23:46:42
ご訪問ありがとうございます

>・・・下手くそかどうかなんて経験のないオスカル様にはわかりません・・・
・・・普通、そうですよね。まぁ、A君もそんな事さえわからないほど必死だった、と( ´艸`)……何に…?

>今日は仕事中にもこちらのお話を思い出してしまいました
・・・ありがとうございます。お仕事の邪魔をしてしまったのではないでしょうか? 私もしょっちゅう仕事中に妄想マックスで、目の前の紙を眺めつつ頭の中ではOAが良からぬ会話を繰り広げております。
そんなところも、またいずれ。宜しければおつきあいください。

コメントをありがとうございました。
またお時間のある時にお立ち寄りくださいませ


Unknown (Unknown)
2017-07-22 22:57:14
そうなんです その後に戦闘がなければ、翌日2人はお互いにどんな感じで会話して? とか妄想したものですが、今回のピロートークで そうだったのか〜〜って 幸せな気分を味わえました。2人に幸せになって欲しいから嬉しいです。ステキなお話をありがとうございます。できれば2回目の2人も ^ ^ よろしくお願いします!

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