~Agiato で Agitato に~

再開後15年以上になるピアノを通して、地域やほかの世代とつながっていきたいと考えています。

骨董の鑑識耳

2006年09月25日 00時06分45秒 | ピアノ
先日楽器店から無料の情報誌<ぶ○○ぼ>をもらってきた。
ヒマな時間にこれをすみからすみまでなめるように読むのが私の趣味のひとつなのだが、10月号にも大変興味深い記事があった。

すでにご存知の方もおられるかと思うのだが、現在、かつて約半世紀にわたってホロヴィッツが自宅で練習に使っていた愛器が「来日」している。
このスタインウェイについて、それからホロヴィッツについて、現在の松○楽器の代表取締役の方が語っておられる記事である。

83年の来日公演については、実際聴かれた方、映像を見られた方、噂だけを聴いておられる方、さまざまだと思うのだが、あの頃の病状(服薬の状態)についても結構今はオープンにされているので、本来のホロヴィッツの調子ではなかったのだということは、だいたい定説となっているのではないかと思う。

興味深いのは、その演奏について他のピアニストはどう感じていたかということ。
以下は、記事からの抜粋。

「85年の暮れにマルタ・アルゲリッチとミシェル・ベロフのデュオのコンサートがあったのです。・・・・・・・・終演後に皆で六本木の寿司屋で打ち上げをやることになったのです。・・・・・・・アルゲリッチの話が直前に聴いたシャンゼリゼ劇場でのホロヴィッツの話になり、それがとても素晴らしかったというので、話が自然と2年前の“ひびの入った骨董品”云々の話になって、その放送の録画がたまたまその寿司屋にあるのを知ると、マルタが急に観たいと言い出したのです。初めは『敬愛するホロヴィッツがこんなにも惨めになってしまって!』と言って涙を流していたのが、そのうちに、ここが凄いあそこも凄いといって食い入るように観ていたのですね・・・」

その姿があまりに印象的だった松○氏は、さっそくハンブルグのスタインウェイに電話を入れて、今後ホロヴィッツが弾くようなことがあったら、世界中どこでも飛んで行くからチケットを必ず手配してくれと依頼したそう。
その後しばらくしてハンブルグでホロヴィッツのコンサートがあり、松○氏は飛んで行かれた。「本当に彼は蘇った。アルゲリッチの話は嘘ではなかった。これは奇跡だ」と実感されたそうなのだが、果たしてその会場にはパリから駆けつけたアルゲリッチの姿もあった。

この後帰国して、松○氏は、音楽事務所の梶○氏に何回も話をし、やっと再来日が決定するのだった。(83年の来日のリベンジをホロヴィッツは望んでいたのだが、当時日本側はどこも受け入れようとしなかったらしい)

このエピソードを読むと、やはり舞台に立つアーチスト同士、天才同士というものは、一般聴衆や評論家とは違う観点から見、聴いているのだなと思う。
「ここが凄い、あそこが凄い」ということが感じられるのも、至高の芸術家だからなのであって、ミスや緊張や不調に隠された部分を聴き取る能力もおそらく尋常ではないのだと思う。
きっと「本質をつかまえる」というのはそういうことなのだろう。
そして、このアルゲリッチの涙と賞賛のおかげで、ホロヴィッツの再来日もかなったのだとしたら、ビデオをさっと取り出した寿司屋の店主にも感謝せねばならないと思う。

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6 コメント

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Unknown (転妻よしこ)
2006-09-25 09:53:11
ちょっと前にこの話題はうちのBBSでも出ていて、ホロヴィッツ初来日の際、会場に聞きに来ていたポゴレリチが、前半が終わったところでスタンディング・オベーションをおくった、

ということが目撃者の方によって書き込まれていましたよね。



私はあの演奏会は当時、テレビで観ただけで、本当に最近までずっと、ホロヴィッツが無惨に崩壊した演奏会だったと思いこんでいました。私もまた、表面的なミスタッチや、演奏者の体調不良のところしか、捕らえられていなかったわけです。



聴く人が聴けばわかる演奏会の最たるモノだったということなのでしょうね。私など、凡庸な耳しか持っていないために、多くの宝をむざむざ聞き逃しているのだろうなと反省しました。
いや、ほんとに (仮装ぴあにすと)
2006-09-25 11:27:40
私も以前のよしこさまのところのBBSの書き込みを思い出しました。



やっぱりどんなに聴衆として耳が肥えていたとしても、その曲を知り尽くし弾きつくしてきた者にしかわからないことってあると思うのですよ。

(とはいえ、普通は「弾きつくした」聴衆なんてそう多くはないわけなんですけど・・)



ポゴレリチだって、お義理でスタンディングオべーションなんかしない方と思いますし、

アルゲリッチにしてもやはり食い入るように画面を見ていたということですから、これはやはり「そのスジ」の方にしか通じない何ものかを漂わせた演奏だったのかもしれません。



こういう文脈で書くのは大変気がひけるのですが、私コンペなぞでいろいろな方の演奏を聴く時、弾いたことのある曲とそうでない曲とでは、やはり聴きところが違ってきます。

弾いたことのある曲では、ほかをどんなに達者に弾かれていたとしても「ここぞ」部分が空振りだったりすると、まったく印象に残りません。

逆に、ほかはつっかえつっかえだとしても「ここぞ」が決まるとすっかり名演を聴いた気になります。



こうなると、「よい演奏」とは・・とは思うことしばしばです。

もちろん「ほかも達者、<ここぞ>も決める」が理想なのは当たり前なのですけど・・。
ホロヴィッツのピアノ (まつやん)
2006-09-25 13:35:48
「ぶ○○ぼ」これ、○マハの楽譜売り場の片隅に置いてある雑誌ですか?私もたまに持ち帰るんだけど 本の題名思い出せない・・・



ホロヴィッツ愛用のSW来日の話、私も友達から聞きました。

ホロヴィッツ崇拝者の彼女は 早速楽器店に出向いて弾かせていただき それはそれは感激しまくり しばらく何も手につかないでいたようです

一緒に弾いたお友達の中には 弾きにくいと感じた方もいらっしゃったそうですが。



そしてその彼女から 春頃岡山・広島にも行く予定だから 必ず弾くように、と指令を受けました。

浜○ピアノ社に来るそうですが「ぶ○○ぼ」にその辺のことは掲載されてましたか?

仮装さん、弾きに行かれます~~?
思い出しましょう! (仮装ぴあにすと)
2006-09-26 00:08:05
「ぶ○○ぼ」、そう入り口のところなんかに平積みにされてます。タイトルは「演奏後の拍手にまじって飛んでくる掛け声」ですよ(笑)。



中国地方にもこのピアノがお出ましになることは書いてありませんでしたが、結構長い滞在みたいなので、こちらにも来るのでしょうね。



同じ記事のなかにありましたが、ホロヴィッツのピアンは、本人以外が弾くと、「柔らかい」というよりは「フニャフニャ」らしいです。

これは是非、イベントのひとつとして触ってみるべし、ですね。
ほんとだ! (あさがお)
2006-10-02 14:57:01
いきなりすみません。某所ではお目にかかっておりますね。さっそくこちらで取り上げてあられました。。。時々拝見させていただいていたのに、すっかり見落としていました。ところで、小菅優さんのリサイタル、素晴らしかったです(おっかけしてしまいそうです。公式応援サイトをみるに、広島でも来年の12月にリサイタルありそうですね。おさそい合わせの上お出かけになってみて下さいませ。)。様々な色のパレットをお持ちで、これを取り出し提示するだけでなく、その場で混ぜ合わせて思うとおりの絵を描いてしまう。そんな演奏でした。モーツアルトの初期のソナタも本当に素晴らしく弾きわけていました。こんなにわくわくして聴いたのは初めて!のような気がします。本当にオペラで登場する様々な要素が、十代の頃の作品にいっぱい表れていることに、驚きます。シューマンまで、本当に素晴らしいプログラミングだったと思います。FM放送楽しみにしていてください(もう今晩ですけど。)。ちなみに、ピアノはスタンウェイでした。開場時間ぎりぎりに調律師さんらしき人が出てまいりました。きっと念入りにリハーサルされてたんでしょうね。「文化会館」というはっきりいって万全の環境ではありませんでしたが(空調がヒューホーと耳障りな音をたててました。)、真摯な演奏に心から感動いたしました。突然お邪魔して、ながながとすみませんでした。また遊びにこさせてくださいね。
ようこそおいでくださいました (仮装ぴあにすと)
2006-10-03 00:42:27
あさがおさま、わざわざお越しいただきありがとうございます。今までものぞいていただいていたのですね、光栄です。



小菅さん、聴きました。

録音して続けて聴いてしまいました。

ほんとにすばらしい!まずプログラムがニクいです。

記念年の作曲家を並べていながら、新鮮な曲選び。

アンコールの、オーボエ協奏曲の<バッハによる編曲版>というのも初めて聴きましたし、十八番の「鬼火」で〆るのも爽快です。



卓越したテクニック、詩情あふれる歌、読みの深さ、とてもとても23歳とは思えません。

彼女のシューマン初めて聴きましたけど、シューマン独特の<間>やキャラクターの弾き分けが実にハマっていて、すっかり虜になりました。

あさがおさまならずとも「追っかけて」しまいそうです。



ほんとに情報ありがとうございました。

どうぞまた、ちょくちょく遊びにいらしてくださいませ。

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