松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆前川騒動に関連して(三浦半島)

2017-06-19 | 1.研究活動
 テロ等準備罪が成立した。今回も、ポジショントークのような議論の進め方で、一面的な議論に終始した。全部よいか、あるいは全部悪いかのような議論は、私たちをただ不安にさせるだけで、これでは私たちの頭と感性を鈍らせるばかりである。

 世界のなかで、テロが頻繁に起こる中、日本も安閑としてはいられなくなった。その対応をすること、あるいは、国際条約を締結して、世界の国々と協力して、テロを防ぐことにだれも異論はないであろう。問題は、それをどのように実践するかである。

 テロに対して、この法律が一定の効果はあるのだろうが、専門家からの指摘では、この法律でテロを防ぐことはできないという。これはそうだと思う。強制的手法は、その効果は常に限られている。それでも、なにがしかの効果があるとされるが、既存の法律の運用との差は、どのくらいあるのだろう。とりわけ否定する立場では、既存の法律でも、同じような効果があり、国際条約だって結べる、ちっとも変わらないというのを具体的に示してほしかった。

 この法律を制定すれば、リスクも生まれてくるのは当然である。リスクのない制度はないので、ポイントは、どのようにリスクを減らすのかである。やみくもに、心配はないというばかりでは、ちっとも安心できない。政府側の答弁能力というか、もっと堂々と答える能力と勉強が不足した。何か、数のおごりのようなものを感じたのは私だけだろうか。

 テロ等準備罪の騒動の中で、最大の問題は、この法律の構成要件のあいまいさやその乱用の危険ではない。この法律で、国民の自由な活動がこの法律に引っかかって、不当に逮捕される恐れを心配するが、今は戦前ではない。不当なら大騒ぎになって、裁判でも、その不当性は明らかになってしまう。そんな、堂々とした自由のはく奪は、今の日本では政府は行えない。ありうるのは、非公式な方法で、個人の発言を封じ、社会的信用を失わせる行為である。

 明白な証拠はないが、政府はこうしたことをやってきた。沖縄密約問題がその典型例である。あの時は、本来の論点が、新聞記者と事務官の不倫のような話になり、世間の関心はあっという間にそちらに流れた。情報収集力がある誰かが、わざと情報を流したのだろう。ところが、今回は、官邸によって、前川前文部事務次官の個人の行動がリークされた。加計問題が、テロ等準備罪の制定の足かせになることを懸念して、官邸のリークで読売新聞に書せたのだという。

 そもそも前川さんの指摘する、首相の意向などは、仕事をする中で、別に不思議なことではない。政策立案の最高責任者として、首相が意向を持つことは当然であるし、それを指導することは当たり前のことである。私も横浜市にいたころ、「市長の意向」というフレーズは、何度も聞いたし、自分でも使った。最高首脳の意向が、合理的で、決定までのルールにのっとれば、何の問題もない。その政策の当否は、もし誤ていたら、次の選挙で落とせばよい。メモのような文書が存在するのは当たり前で、官房長官が答えるべきは、「あるかもしれないが、正当なルールで決まったことで、何もやましいことがない」と真正面から、言えば済むことである。

 ところが、今回は、政府の中枢が、警察情報を流して、新聞に書かせ、個人の信用を失わさせる行為を行わせることで、前川発言の信用性を失わせる行為を行った。沖縄密約の時の二番煎じであるが、時代が違ったのか、あるいはやり方が稚拙だったのか、そのいきさつが明るみに出て、国民の知られることになった。人は誰にだって、様々な趣味、性行がある。人には言えない趣味の人だっているだろう。多数の人たちの性行とは違うが、でも人に迷惑をかけなければ、個人の自由で、また、その趣味を人に知られない自由がある。
 さらに長い間仕事をすれば、脛に傷を持つことになる。とりわけいい仕事をするには、常にリスクを伴い、多少は危ない橋を渡ることになる。仕事をしたことがある人ならば、誰でも経験があるだろう。そこを捕まえて、政府が、非公式に新聞やネットに流すという行為をやるということを公にしたのが、今回の前川騒動の本質である。政府が、こんな汚い手を使うのか、私自身も政府の末端にいたから、信じられず、驚いている。

 このように考えると、テロ等準備罪の構成要件のあいまいさによる国民の萎縮効果などは、実はたいした問題ではなく、こうした非公式の汚い手を使って、人を貶める手法のほうが、ずっと萎縮効果は大きいことがわかる。しかも、それを政府が行うということを国民の前に明らかにしたのが、今回のテロ等準備罪の最大の論点だと思う。そして、この不信感が、盤石を誇る現政権への信頼を、徐々に、揺るがすようになっていくように、思える。
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