オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

ヴェルディ「椿姫」

2013-03-10 | ヴェルディ
<神奈川県民ホール・東京二期会・京響・神奈川フィル共同制作>
2013年3月10日(日)14:00/びわ湖ホール

指揮/沼尻竜典
京都市交響楽団
二期会合唱団
びわ湖ホール声楽アンサンブル

演出/アルフォンソ・アントニオッツィ
美術/パオロ・ジャッケーロ
照明/アンドレア・オリーヴァ
衣装/クラウディオ・ペルニゴッティ

<Bキャスト>
ヴィオレッタ/砂川涼子
アルフレード/福井敬
ジェルモン/黒田博
フローラ/小野和歌子
ガストン子爵/与儀巧
ドゥフォール男爵/北川辰彦
ドビニー侯爵/斉木健詞
女中アンニーナ/与田朝子
医師グランヴィル/鹿野由之
召使ジュゼッペ/村上公太
使者/迎肇聡
給仕/相沢創


 同じ演目を続けて観れば、二日目は舞台も落ち着いて鑑賞出来る。演出家はイタリア人で、それも国際的なキャリアを持つバリトン歌手出身らしい。一般的にイタリアでは、ドイツで猛威を振るう“ムジーク・テアター”も何処吹く風な、守旧的な舞台の多いように思う。しかも今回の歌手崩れの演出家には、歌手に負担を強いるような演技付けを、避ける傾向も見て取れる。

 ヴィオレッタは舞台の奥の方で歌わされ、客席に声の届き難かったり、頭を下向きに寝転がって歌わされたりもしたが、聴かせ処のアリアやデュエットとなれば、正面を向いて手を広げるだけとなる。色々と小細工しているように見えて、実は歌手に気持ち良く唱わせる事へ主眼を置いた演出と感じる。コーラスの個々のメンバーにも細かく演技を施し、群集処理にも手馴れたものがある。演出家としてのキャリアを始めたばかりの人だが、これまでの歌手としての舞台経験が生かされているのだろうか。

 これまで余り良い印象の無かった二期会のコーラスに付いても、今回の善戦奮闘は評価したい。また、今日は昨日と比べても、オケとコーラスの推進力はアップし、上演は盛り上がっていたと思う。ブンチャッチャの伴奏のリズムに、新奇な解釈等ある筈も無く、まずは元気良くオケを弾ませてくれれば、それで満足出来るのがヴェルディだろう。それに「椿姫」を振る指揮者には、最後まで歌い切るのに必死なタイトル・ロールを、慎重に支えて差し上げる責任もある。

 その役目を沼尻がキチンと果たし、ヴィオレッタのソプラノもそれに応えて華やかな歌唱を繰り広げれば、今度は逆にオケが歌手に煽られる段取りとなる。イタオペの楽しみとは、この歌手とオケの相乗効果の楽しさなのだ。ヴェルディを弾いて精彩を発揮する、京響は本当に良いオケと思う。このオケは「椿姫」を盛り上げるコツを心得ていて、既にヴェルディ演奏の伝統が確立されているのだろう。昨日は劇的に畳み掛ける場面は良くとも、ユッタリと長いフレーズでは情感に不足すると感じたが、それも所詮は歌手次第で伴奏は伴奏に過ぎないと、今日は改めて感じる。

 それはタイトル・ロールの砂川涼子の出来が、事前の予想を超えて素晴らしく、オケを煽るだけの力のあったからだ。最初の内、声を下から持ち上げる歌い方に不安を感じるが、これは直ぐに解消される。一幕の“ああ、そは彼の人か~花より花へ”のアリアは、コロラトゥーラとアジリタのテクニックを駆使する見事な歌で、高音のピアニシモを確実に伸ばし切る力にも欠けていない。声量の豊かな上に、ソット・ヴォーチェの使い方も巧く、高低の音域の全てのフレーズがコントロールされている。また、曲のテンションの推移を良く捉えて、力の入れ処と抜き処をキッチリと心得た歌だった。これは最後の超高音にも挑んでくれるかと、ワクワクしながら待ち受けたが、安藤さんと同じく楽譜通りだったのは残念至極。でも、これは咄嗟の判断で回避したのでは無く、最初からそう決めていたように思う。

 アルフレードの福井敬はイタリア語の子音を長目に取り、軽くルバートするような独特の歌い回しで、これもヴェルデイには悪くないと思う。このややクサく感じられる唱い方は、愛の喜びを唱い上げるのには向かないが、ヴィオレッタへ金を叩き返すパセティックな歌にはハマる。でも、その後に軽率な行動を反省する処は、やはり遣り過ぎてクサかったりして落差は激しく、僕は今ひとつ安心して楽しめなかった。

 ジェルモンの黒田博の声からは、自ずと備わった威厳の感じられる。声量のあるバリトンでなければ、立派に聴かせる事は出来ない役で、黒田さんは情理を兼ね備えたジェルモンを造形したと思う。或る意味、単調な歌い方が謹厳実直の表現に繋がる事を、ちゃんと心得ているのだ。

 亡くなられた若杉弘さんはヴェルディを振る指揮者として、必ずしも適任では無かったように思う。後を継いだ沼尻も、その得意分野は若杉さんと重なる部分が多い。沼尻はこれまで「椿姫」を指揮する機会の無かった理由を、国内上演では殆んど外国人指揮者に任され、日本人は滅多に振らせて貰えないからと説明する。びわ湖ホール常連客の一人として、我等がマエストロの初めての「椿姫」が成功裏に終わった事を、今は素直に寿ぎたいと思う。

 上掲の写真は休憩中のロビーでお見掛けした、本日のプリ・マドンナの旦那様、村上敏明さんです。いやぁ今日の奥様の歌は、本当に素晴らしいですねぇと申し上げると、村上さんはニッコリ笑い「お蔭様で」と仰った。確かに謙遜の必要など無い、立派なヴィオレッタでした。村上さん、ご協力有難うございました。
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