オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

チレア「アドリアーナ・ルクヴルール」

2012-05-05 | イタリアオペラ
<関西二期会第76回オペラ公演/プレミエ>
2012年5月5日(土)14:00/吹田メイシアター

指揮/ダニエーレ・アジマン
大阪交響楽団
関西二期会合唱団

演出/井原広樹
美術/アントニオ・マストロマッテイ
照明/原中治美
衣裳/松田優
振付/大力小百合
法村友井バレエ団

アドリアーナ/泉貴子
ブイヨン公妃/福原寿美枝
マウリツィオ/小餅谷哲男
舞台監督ミショネ/萩原寛明
ブイヨン公爵/片桐直樹
シャズイユ僧院長/越野保宏
俳優キノー&ポワソン/黒田まさき/藤井零治
女優ジュヴノ&ダンジュヴィル/森井美貴/廣瀬真理子


 チレアはプッチーニと同時代のイタリア人で、世紀の変わり目に生きた作曲家。初めて観たけれども、これは甘いセンチメントの程が良い、美しいオペラと感じ入った。「アドリアーナ」は、「パリアッチ」や「カヴァレリア・ルスティカーナ」と一緒くたにされ、分類としては“ヴェリズモ”に突っ込まれているが、僕の聴いた印象ではジュール・マスネのスタイリッシュなオペラに近い、甘い旋律の連綿と続く、優雅で感傷的な音楽と思う。作品としての仕上がりは如何にも保守的に感じられるが、これもワグネリアンのマスネと同じく、ライト・モティーフの使用を徹底していて、耳に付く旋律はオペラを観終わった帰り道、鼻歌に歌いたくなる程だった。

 指揮者に外人さんを呼ぶのは、関西二期会として初の試みだそうで、演奏機会の少ないオペラだし、国内に適任者の見当たらなかったのだろう。と云う事は誰かが、何としても「アドリアーナ」をやりたいと頑張った訳で、これは昨年の「ラ・ロンディーヌ」に続き、関西二期会なかなかやるじゃんと思う。そのイタリア人でミラノ出身のアジマン君は、四幕物の悲劇を上手に盛り上げる、手練れのオペラ指揮者だった。軽妙洒脱な音楽の上手い人で、良く稽古を積んだ跡の窺えるオケを、見事にコントロールしている。

 でも、もう少しテンポの緩急は付けた方が良いし、オケには更にタップリと歌わせたい。音楽の進め方はやや忙しく、センチメンタルな場面で泣かせる芸も今イチで、その辺りのメリハリに乏しい気はする。元々の作品自体そうなのだろうが、悲痛な場面も何処か他人事のようで装飾的に聴こえ、三幕までは木に竹を接いだような印象を受ける。悲劇に喜劇的場面をチョロっと混ぜるのは、「カルメン」辺りでの常套手段だが、「アドリアーナ」の場合は逆で、喜劇の合間に悲劇を挟み込んでいる印象を与えて、それは違うだろうと思う。この人はペーザロ・フェスティヴァルの指揮者だそうだが、成程このスタイルはロッシ-ニになら合うのかも知れない。

 舞台の真ん中には、障子のように開閉するセットが置かれ、その奥は階段セットになっている。この扉を開閉し、そこからコーラスや歌手を出し入れして変化を付ける。ガラスの扉は光源を当てると素通しになり、向こう側に居る人物をボンヤリと見せる。また、照明を落とすと鏡面になり、前に立つ人物の姿を映し、何れも歌手を幻影的に見せる効果がある。だが、僕の座る二階席からだと、オケピットの中まで鏡面に映っているのが見えてしまう。指揮者を正面から見れるのは便利だが、オケピットの裏側のキチャナイ部分まで見えるのは興醒めで、この鏡面の扱いはお粗末の極み。装置のセンスは良いのに、それを使いこなせない演出家の非力は、最初から分かっている話ではあるが。

 今日のタイトル・ロールの泉貴子は初めて聴くが、リリコ・スピントの太い声で、果たしてアドリアーナ役に相応しいのか、聊か疑問に感じる。声の太いのはパセティックな歌になら良いが、音色の変化も無いので、全体を通し単調な歌い振りとなる。メゾのブイヨン公妃とのデュエットでも、声の対比は付き難く、もう少し軽い声のソプラノが望まれる。

 マウリツィオのテノールは、毎度お馴染みの小餅谷哲男。リリックな声で高音も良く出るが、ソット・ヴォーチェを使えず、重い声ばかりで軽い音が無い。声を響かせる位置が終始変わらず、常に突張っていて、この人は力の抜き処と云うものを知らない。今日の主役のソプラノとテノールは、とにかく良い声を聴かせようとしか考えておらず、二人とも大きな声と小さな声を、交互に出すだけの単調な歌い振りだった。

 ブイヨン公爵の片桐直樹も、関西のあちこちに顔を出す人だが、左程に器用なタイプでもないようだし、コミカルな役柄に合う声質でもなさそうだ。公爵とコンビを組む僧院長を、僕はキチンとやれば美味しい役と思うが、この日のテノールは素人っぽい発声の上、演技でも見所を作れなかった。

 今日、満足すべき出来栄えを示した歌手として、まず公爵夫人の福原寿美枝の名を挙げたい。細い身体なのに声量も充分だし、デュナーミクに工夫のあるので、この役の激しい情熱を表現出来るのだと思う。一体、この方に何か不得手な曲目ってあるのだろうか?と思われる程で、ヴァーグナーもベートーヴェンもドニゼッティも、全てキチンと様式を踏まえて唱い分ける、とても頭の良い歌手と思う。

 でも、何と云っても本日の殊勲甲は、ミショネの萩原寛明に止めを刺す。まずもって持ち声の良いし、真っ直ぐ伸ばす声に生真面目な情感を込めて、この儲け役を見事にモノにしている。老いる事への哀感とコミカルな歌とを唱い分け、脇役として味わいのある処を聴かせてくれた。良い声のバリトンとは思うが、印象に残る役柄は思い出せない、これまでの萩原にはそんなイメージしか無かった。今日は意外と言っては失礼だが、恐らくその音楽性と声質に、ミショネはピタリ嵌ったと云う事なのだろう。

 まあ、色々と文句は付けたが、少し辛抱すれば主役の二人も良い声だし、演出だって初めて観るオペラなんだから、交通整理で充分とも云える。今日は自分の財産目録に、良いオペラの演目を一つ増やせたと云う事で、まずは大満足で家路に着けた。
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