オペラの夜

出かけたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深めるためのブログです。

「消えた男の日記」&「青髭公の城」

2008-07-21 | 各国オペラ
<パリ国立オペラ初来日公演>
2008年7月21日(月)15:00/兵庫県立芸術文化センター

指揮/グスタフ・クーン
パリ・ナチオナル・オペラ管弦楽団

演出/アレックス・オレ/カルロス・パドリッサ(ラ・フラ・デルス・バウス)
美術・衣裳/ジャウメ・プレンサ
照明/ピーター・ヴァン・プラート
映像/エマニュエル・カルリエ

ヤナーチェック「消えた男の日記」<グスタフ・クーン編曲版・日本初演>
男/ミヒャエル・ケーニッヒ
女/ハンナ・エステル・ミニュティロ
声/リー・ヘヨン/レティティア・シングルトン/コルネリア・オンチョウ

バルトーク「青髭公の城」
青髭公/ウィラード・ホワイト
ユディット/ジャンヌ・ミシェル・シャルボネ


 今回のパリ・オペラ座の三演目の中で、やはり一番人気は「トリスタンとイゾルデ」、次が「アリアーヌと青髭」で、今日の二本立て上演は三番人気の筈だが、これが最も充実した演奏だったのは、何とも皮肉な事だ。

 「消えた男の日記」は、テノールとメゾ・ソプラノの為の連作歌曲集だが、女声合唱(今日は三重唱)が付いていたり、照明や歌手の入退場の指定がスコアにあったりで、シアター・ピースとしての上演を意図した曲。原曲はピアノ伴奏だが、それではパリ・オペラ座のプロダクションとしてはショボイので、今日の指揮者のクーンが、オケ伴に編曲しての上演である。

 曲の構成は、テノール歌手が番号順にリートを歌い、メゾ歌手と女声トリオは、真ん中辺でちょこっと歌うだけ。一昨日の「アリアーヌ」での青髭も、本当に一声だけだったし、今日も主役として、堂々と名前をクレジットされているにも関わらず、ジプシー女のミニュティロさんは、ポケっとしていると聴き逃してしまうような分量しか歌わなかった。ご本人はスレンダー系の美女で、黒いホット・パンツから伸びる、長いおみ脚を惜し気もなく披露され、ヘソ出しルックの赤いブラウスも脱いで下さる。歌の少ないのは面白くないだろうが、これって女性としては結構、楽しく演じることの出来る役かもしれない。

 オペラと銘打っての上演だが、モロに“歌曲集”そのものの地味な曲なので、クーンさんはその辺りをカヴァーするため、思いっ切り派手でケバケバしいオーケストレーションを、曲に施している。これがヤナーチェクの音楽の実質に見合っているのかどうか、僕は甚だ疑問に感じた。はっきり言えば、原曲のピアノ伴奏の方が余程、ヤナーチェクの音楽を真っ当に味わえる筈と思う。これは「アリアーヌ」と同じ事情で、モルティエ総裁の意図する実験的・演劇的なオペラ上演を、ガルニエ宮やバスチーユ劇場のようなデカイ箱で行うのは、如何にも無理があるという事。ヤナーチェクの音楽の本質は兵庫芸文ではなく、いずみホール辺りでインチメイトに、聴衆へ語りかけるべきものだろう

 では面白くなかったのかと云えば、そうでもなく、僕は結構楽しく見物した。舞台のフロアに開いた小さな穴から、裸の上半身だけを出して歌う、農夫のケーニッヒ君に、長い両脚を絡めて纏わり付くミニュティロさん。舞台袖から匍匐前進で、穴の周りに集まるのは、牧場の牛に見立てた半裸の男女10名あまり。セットらしいセットの何もない真っ暗な舞台で、歌手に当てたピン・スポットやサイド・スポットの照明が美しい。暗闇を上手に使ったお洒落な演出が、何だか良く分からないが面白い。スペイン・カタルーニャ地方の演劇集団「ラ・フラ・デルス・バウス」(日本語で“バウス川のカワウソ”)による演出で、ソフィストケイトされた舞台にワクワクさせられた。

 「消えた男の日記」は30分余りで終わってしまい、休憩も20分と短い。昨日は休憩だけでも、合わせて一時間以上あって、今日の終演時間は「トリスタン」だと、まだ二幕が始まったばかりのところ。

 西宮での三公演四演目も、いよいよ最後の演目、バルトークまで辿り着いた。「青髭公の城」で、二人っきりの歌手により唄われる無機的な旋律は、マジャール語により物語るような歌唱スタイル。ユディットのシャルボネは、ドラマティック・ソプラノの声質で、全曲を通してガンガン歌いまくる。歌いっぷりは良いのだが、音色の変化に乏しいのが難か。対する青髭役、ベテランのホワイトは響きで聴かせるバリトンで、青髭の冷酷さを際立たせる。もう少し声量があって、ダイナミック・レンジが広がれば、申し分ないのだが。

 でも、このオペラの真の主役は、やはりオーケストラだろう。指揮者のクーンは、見た目は何だかモタモタしているのだが、オーケストラの弦の音には底光りするような艶があり、バルトークの緻密で晦渋な響きを、存分に堪能させくれる。パリ国立オペラ管の実力を存分に引き出した、クーンさんに感謝。

 演出も素晴らしかった。コンセプトは「消えた男の日記」と同じで、真っ暗な中に、殆んどセットの無い舞台。青髭の城は、舞台前に降ろされた紗幕に投写する、ガルニエ宮の映像。また、二人の歌手の実物大の映像が、真っ暗な舞台の空中に浮かび上がり、幽霊のように動き回る、目の錯覚を巧みに利用した、美しくも儚いシーン。実物の歌手に当てる照明の使い方も秀逸で、ユディットが青髭に抱く恐怖心を、じわじわと我々聴衆に伝えて来る。光と闇に彩られた演出と、オーケストラのビロードのような深い音色を高い次元で融合させた、見事な「青髭公の城」の上演だった。「アリアーヌ」と「トリスタン」を聴き終えた時点では、何かモヤモヤしていたものも、これで全て払拭された。やはり思い切って、三日とも聴く事にしたのが正解だったと思う。

 クーンおじさんは、指揮もタドタドしいのだが、それよりもアウフタクトで、「うっ」とか、「やっ」とかいう呻き声を発し、前拍を入れるのが可笑しい。もっと長いセンテンスで単語を発する場合もあり、練習でやっていることを、そのまま本番でもやる指揮者に、僕は何度か噴き出しそうになった。
ジャンル:
音楽
キーワード
消えた男の日記 ユディット バルトーク ヤナーチェク ガルニエ宮 ケーニッヒ トリスタン パリ国立オペラ オーケストレーション モルティエ
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