オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

ビゼー「カルメン」

2009-07-05 | フランスオペラ
<日本ペラ連盟・兵庫芸文センター・東京二期会・愛知県文化振興事業団共同制作>
2009年7月5日(日)14:00/兵庫県立芸術文化センター

指揮/佐渡裕
兵庫芸術文化センター管弦楽団
ひょうごプロデュースオペラ合唱団
二期会合唱団
宝塚少年少女合唱団
ダンスオブハーツ

演出/ジャン・ルイ・マルティノーティ
美術/ハンス・シャヴェルノホ
照明/ファブリス・ケブール
衣裳/シルヴィ・ド・セゴンザック

<Aキャスト>
カルメン/ステラ・グリゴリアン
ドン・ホセ/ルカ・ロンバルド
ミカエラ/木下美穂子
エスカミーリョ/ジャン・フランソワ・ラポワント
隊長スニガ/斉木健詞
伍長モラレス/与那城敬
フラスキータ/菊地美奈
メルセデス/ソフィー・ポンジクリス
ダンカイロ/加賀清孝
レメンダード/小原啓楼


 僕は兵庫芸文の製作オペラで、最初の「蝶々夫人」と二つ目の「魔笛」では、指揮者の音楽性と作品との間にミス・マッチを感じたが、三回目の「メリー・ウィドウ」で、ようやく佐渡の本領を聴かせて貰ったと思っている。兵庫芸文の「メリー・ウィドウ」は、桂ざこばの話術の巧みさや、フレンチ・カンカンでお尻を見せたから盛り上がったのではなく、あくまで芸術監督による演奏の充実が、成功の要因と思う。

 佐渡はインタビューで、「メリー・ウィドウ」に来てくれたお客さんを、更にオペラの世界に引き込みたい。人の歌やオーケストラの音に、ここまで揺さぶられた経験はないと云う処まで、お客さんを連れて行きたい。だから、「カルメン」は本当に大事な公演になると述べていて、その言や良し、と云うべきだろう。佐渡の気迫は充分に演奏に表れ、指揮者の「カルメン」に対する思い入れに、芸文オケも良く応えていたと思う。とりわけ四幕の間奏曲から、闘牛場への行進曲に向けて盛り上げ、その興奮の頂点から、カルメン殺しの緊迫した音楽に切り替える、佐渡の手腕は確かだった。

 芸文オケの定員は四十名なので、毎度の事ながら、オケのメンバーの半数はエキストラ。今回のコンマスは朝枝信彦だったが、オケピットを覗くと、彼以外にも弦楽のトップの席に、何処から呼ばれて来たのかは知らないが、合奏の取り纏め役と思しき、年配の外人男性奏者が何人か座っている。このようにテコ入れはしているようだが、やはりオケとしての纏まりは今ひとつで、もう少し洗練された音の欲しい部分もある。でも、その辺りは佐渡が気合で埋め合わせ、それなりにオペラを楽しめた。

 佐渡はタイトル・ロールに付いて、華やかだが素足の似合う、風にスカートが揺れるとドキドキしてしまうような、軽やかなカルメンに魅せられて欲しい、と述べている。この意図に沿い、低く太い声のイメージからは外れた二人が、カルメンを務めた。今回が初役となる林美智子は、フォルテでの声量不足を補う為か、遅目のテンポで色々と工夫を凝らしていた。彼女の軽やかな声に充分魅力はあるが、優等生的な歌い振りで、アルトらしい深い音色で強調する部分を、キメるだけの声の力も足りない。

 もう一人のグリゴリアンも、やはり軽やかな明るい声質で、柔らかく伸びやかな声の心地良いメゾ・ソプラノ。キメるべき部分ではドスも効かせて、声に力のあるカルメンだった。演技は二人とも上手で、ホセの誘惑される事が納得出来る、魅力的なカルメン像を造形した。ただ、林さんの本当に目をまん丸にして歌う顔の表情だけは、申し訳ないがカルメンには合わないと思う。この人、目を剥かないと歌えないんすかね。

 二人のカルメンは何れも、おっぱいの谷間を見せる衣装で、演出的にも胸を強調する仕種が多かったように思う。僕は両日共に三階席サイドの席に座り、ほぼ真上から舞台を見下ろす位置だったので、お二人の豊満なバストを堪能させて頂いた。天井桟敷でも、偶には良い事があるのです。

 ホセは、これも初役の佐野成宏が素晴らしかった。柔らかく子音を発音するピアニッシモが美しく、フランス語自体が初めてとは思えない程の出来。佐野はフォルテの力にも欠けない、イタリア的な明るさのあるリリコの声で、日本人テノールとしては他に掛替えの無い存在と思う。ただ、大詰めのカルメンとのダイアローグ等、もう少しパセティックな表現力の欲しい処ではあった。一方のロンバルドは、硬い声質そのものが、あまりホセに向いていないように思う。喉を詰める発声で、ソット・ヴォーチェのピアニッシモを使えないのも、表現の幅を狭くしていた。

 僕は安藤赴美子を、ミカエラのような主役級の役で聴くのは始めて。やや、ヴィブラートがキツく、フォルテで荒っぽくなるので、いくらナイフを振り回すミカエラと云っても、もう少し声の清純さは欲しい。木下美穂子も声に力のある歌手だが、高低の音域で声の音色のガラリと変わるのが気になる。この人の場合、音楽の内容に連れて、声の音色を変化させているようには聴こえず、要するにその音域で出し易い声を、出しているだけではないのだろうか。彼女の歌は音楽的な表現を等閑にして、専ら技術的な都合を優先してしまっているように思う。

 エスカミーリョのラポワントは綺麗な声のバリトンだが、「闘牛士の歌」では声が小さいので、あまり面白い歌にはならなかった。でも、三幕以降は声が出て来て、花形闘牛士として貫禄のある処を聴かせてくれたので、二幕はウォーミング・アップ不足だったのかも知れない。成田博之に良い声はあるが、「闘牛士の歌」は音色と音量が共に変化のない単調な歌で、まだ若い勉強中の人と感じた。スニガに斉木健詞、 モラレスに与那城敬を配したキャストは、脇役には勿体ない豪華メンバーで、特に斉木のふてぶてしいスニガ隊長に迫力があった。今回の演出では、ダンカイロがスニガをピストルで射殺したが、最近のスニガは良く殺される。確か去年のローザンヌ・オペラの「カルメン」も、そうだったと記憶している。

 やはりインタビューで佐渡は、子供の頃に最初に体験したオペラが、森正指揮による二期会京都公演の「カルメン」だったと述べている。当時、京都市少年合唱団に所属していた佐渡は、背が高過ぎてメンバーから外されたが、本番の舞台は見物して、オペラの魅力に惹き付けられたのだそうだ。でも、佐渡は若い頃、関西二期会の「カルメン」で下振りをしただけで、本公演を指揮するのは今回が初めてだそうな。昨日の上演ではカルメンとホセと指揮者の三人が、「カルメン」本公演を初体験だったとは、僕は後になって知った事である。

 でも、今日は佐渡の肩を叩き、それにしては良くやった、と誉めて上げたい気分だ。
『音楽』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ビゼー「カルメン」 | トップ | モーツァルト「イドメネオ」K... »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (Odette)
2009-07-14 00:48:12
今回の『カルメン』は家の諸事情により完全にパスしてしまったのですが、ちょっと後悔することになるかもしれませんね~。聞いた話ではNHKが入っていたとのことなので、地上波でも見られることを期待します。
来年は『キャンディード』だとか。『ウエストサイド・ストーリー』が先かと思ってましたが、考えてみればブロードウェイ版が来るのにわざわざかぶせることもないですよね。
コメントありがとうございます。 (ピルグリム)
2009-07-14 23:21:44
 Odetteさん、お疲れの出ませんように。

 今回の「カルメン」の演出は、小道具にも凝っているので(ミカエラが持ち込み、ホセの振り回すのが、バスク地方の球技のラケットだったり)、モニターで細部を確認しながら観るのも良いかも知れません。

 僕は去年「カディッシュ」を聴いているので、佐渡のバーンスタインには不安を感じます。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。