オペラの夜

出かけたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深めるためのブログです。

ビゼー「カルメン」

2009-03-21 | フランスオペラ
<演奏会形式上演>
2009年3月21日(土)15:00/兵庫県立芸術文化センター

指揮/デヴィッド・サイラス
東京フィルハーモニー交響楽団
藤原歌劇団合唱部
宝塚少年少女合唱団

カルメン/ヴェッセリーナ・カサロヴァ
ドン・ホセ/ロベルト・サッカ
ミカエラ/ヴェロニカ・カンジェミ
エスカミーリョ/イルデブランド・ダルカンジェロ
隊長スニガ/田島達也
伍長モラレス/森口賢二
フラスキータ/佐藤亜希子
メルセデス/鳥木弥生
ダンカイロ/豊島雄一
レメンダード/小山陽二郎


 当代一流のメゾ・ソプラノ、ヴェッセリーナ・カサロヴァが満を持し、「カルメン」タイトル・ロールに取り組む、オペラ・コンサートである。カサロヴァはモンテヴェルディからR.シュトラウスに至る、幅広い音楽様式を把握する知性派だが、特にその卓越したコロラトゥーラの技術を駆使する、ロッシーニやモーツァルト等のベルカント系に定評がある。個人的にもエボリやデリラなら、まあ分かるのだが、カルメンやサントゥッツァ等のヴェリズモ系は、あまりイメージ出来ない。でも、これ程の大歌手が「カルメン」に初役で挑む事だし、更にカサロヴァ一人ではなく、今回の公演では共演の歌手陣も充実していて、やはり聴かずには居られない。

 とは云うものの、「カルメン」が演奏会形式では、どうも開演前のワクワク感に乏しいし、更に前奏曲が始まると、これが随分ノリが悪く、ワクワク感を更に減殺してくれる。この指揮者を僕は初めて聴くのだが、何やら「カルメン」を生ぬるく、ルーティンでタラタラやってる気配が、色濃く漂って来て、もしかすると今日はハズレかな?と不安が募る。舞台前方、指揮者の隣りにモラレスが出て来て、本日第一声を発するが、舞台奥に陣取るコーラスとは、オケを挟んでエライ距離がある。これでは掛け合いの演技にならず、コンサート形式の弱点を目の当たりにしてしまう。

 でも、主役級のトップ・バッターで出て来る、ミカエラのカンジェミは良かった。この人はリリックな高音域と、レジェーロな中音域と、更に低音域にも力強さがあり、高低の音域で多彩な音色を使い分ける、音楽性豊かなソプラノ。対するホセのサッカも、弱音を丁寧に歌う、頭の良さそうなテノール。特にソット・ヴォーチェが綺麗で、とても上手に歌えている。

 この二人のデュエットが盛り上がると、指揮者もこれに煽られてヤル気が出たらしく、ここから音楽が「カルメン」らしくなって来る。そもそも今回の東フィルは、新国立の「ライン・ゴールド」組と、カサロヴァの「カルメン」組の二チームに分かれていて、水曜日に観た「ライン」組の方が、今ひとつパッとせず、僕は少し辛抱して聴いていた。どうやら、今日の「カルメン」組が一軍のようなので、これ位やって当然と納得する。

 “ハバネラ”を歌うべく、袖からカサロヴァが登場すると、拍手が起こりかけたが、直ぐに止んだ。やはり拍手と掛け声は、実際に歌を唱った後にして頂きたい。で、その“ハバネラ”なのだが、これがドスを利かせてアルトの音色を強調する、背脂ギトギトの豚骨ラーメンみたいな、コッテリ濃厚な歌い回し。この人には繊細な声の音色の変化だけで、充分聴かせる実力があるだけに、こんなギンギンの解釈で来るとは全く予想せず、僕は唖然としてしまった。この“ハバネラ”は、ホセとミカエラのデュエットが作った、ホンワカした雰囲気とは全く異質で、今日の「カルメン」のムードから浮きまくっているように、僕は感じた。

 二幕の前奏曲で、指揮者がエンジンを全開。聴いているこちらも、ようやく「カルメン」の世界に浸り切る。四幕の入場行進曲の盛り上け方など、これって一幕の前奏曲と同じ奴が振ってんのか?と思う程の出来で、コイツ何で最初から気合い入れてやらんかなぁ、と嘆いてしまう。この指揮者は見た目にも、チンタラやってる時とヤル気を出した時とでは、身振りからして全然違う。実際、やれば出来る子なんだから、これからは最初からキチンとやって欲しい。

 “ハバネラ”には驚かされたカサロヴァだが、その後は突拍子もないデフォルメは繰り出して来ず、まずは落ち着いて聴けた。でも、この人のカルメン解釈は、アルトの暗い音色を強調する歌い方で一貫して、持ち前の軽い音色は、殆んど聴かせてくれない。ただ要所でチラリと、アジリタを効かせるのが、如何にもカサロヴァのカルメンで、これは面白く聴けた。

 エスカミーリョのダルカンジェロは、只今売り出し中のイケメン・バリトンで、ご婦人方の人気を集める存在。今日はカサロヴァではなく、この人目当ての女性ファンも多かったように思う。肝心の歌の方は…響きは良いのだが、シワガレたような声で輝きに乏しく、同じような音色に終始して、あまり面白くない、退屈な「闘牛士の歌」だった。僕は初めて聴く人だが、これが本来の実力とも思えず、また機会があれば確かめてみたい。

 サッカは高音部に力強さもあり、美しい“花の歌”を聴かせてくれたが、パセティックな情感に欠けるので、今ひとつ盛り上がらない。この人の軽い声質からすると、本来のレパートリーはベルカント方面にあるかと思われる。カンジェミも三幕のアリアで、恐怖を乗り越える愛の力を、切々と語るように歌い上げ、音楽的内容に秀でたものはあるが、このように正面切ったアリアを歌うと、声量不足を感じさせてしまう。この人の柔らかい音色で、声を張り上げると、その持ち味の薄れてしまうのが残念な処だった。

 全曲の幕切れで、ホセとカルメンが向かい合うと、一体どうやって最後を締め括るのだろう?やはりナイフで刺し殺す演技をするのだろうか、等と思って観ていたのだが、結局二人とも何もせず、サッカが楽譜を閉じてお終いとなり、何だか拍子抜けだった。事前に分かっていた事ではあるが、やはり演出抜きの「カルメン」では、三幕の終結部でホセが絶唱しても、今ひとつ伝わるものはなく、ビゼーの劇的な音楽を全身で感じる充実感は味わえなかった。みんな上手な歌を唱えました、では「カルメン」は面白くならない。これはオペラとして、演劇として、本当に良く出来た作品なのだ、と改めて認識させられるコンサートでありました。
ジャンル:
音楽
キーワード
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2 コメント

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カサロヴァ (primex64)
2009-03-28 12:27:11
TBを頂きありがとうございました。生のカサロヴァもドスが効いておりましたか・・。CDで効く限りにおいてもなかなかにこってり濃厚な醤油豚骨みたいな感じです。今後もインプレを楽しみにしております。ではでは・・。
豚骨スープ (ピルグリム)
2009-03-29 21:36:39
 こちらこそ、コメントありがとうございます。

 バルトリはモーツァルトでドスを効かせてますが、あれはあんまりだと思いました。カサロヴァのカルメンは、まあ許せますが、僕はベルガンサみたく、凛としたカルメンが良いですねぇ。

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