オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

デュカス「アリアーヌと青ひげ」

2008-07-19 | フランスオペラ
<日本初演/パリ国立オペラ初来日公演>
2008年7月19日(土)15:00/兵庫県立芸術文化センター

指揮/シルヴァン・カンブルラン
パリ・ナチオナル・オペラ管弦楽団
パリ・ナチオナル・オペラ合唱団

演出・美術・衣装/アンナ・ヴィーブロック
照明/デヴィッド・フィン
映像/ティル・イグジット

アリアーヌ/デボラ・ポラスキ
乳母/ジェイン・ヘンシェル
青髭/ウィラード・ホワイト
セリゼット/ディアナ・アクセンティ
イグレーヌ/イヴォナ・ソボトカ
メリザンド/エレーヌ・ギルメット
ベランジェール/チェ・ユンジョン
アラディーヌ/ジュヌヴィエーヴ・モタール
農夫/クリスチャン・トレギエ/グレゴーズ・スタスキエヴィチ/ユリ・キッシン


 パリ・オペラ座御一行様による、デュカス幻の傑作オペラ、待望の日本初演である。今日これを聴き終え、将来的に国内のプロダクション、当然ながら新国立劇場での上演が望まれる作品との感想を抱いた。尾高さんじゃ、期待するだけムダかもしれんが。

 青髭の城は現代の工場と云う設定だが、一体何を作っている工場なのかは、良く分からない。読替え演出と云うものは、その辺りのリアリティを確保しないと、著しく説得力を欠く。セットは舞台奥まで作り込まれた窓枠が邪魔になり、照明も何だか薄暗くて、一幕でのアリアーヌと乳母の所作が良く見えない。何でこんなに暗いんだ?と思って観ていたのだが、三幕で急に照明が明るくなり、地下室から開放された青髭の妻たちが、せっせとお化粧したり着飾ったりする。まあ、そんなにジックリと見る必要のある程、大した演技はしていないことは分かった。舞台上手には大型モニターが設置され、舞台上の歌手の動きを映しているのだが、これも別に演技を見易いようにと配慮されたものではなく、要するに全く意味不明。

 三幕を通して同じセットで、演出家は宝石の部屋とか不気味な地下室とかは、一切見せる積もりは無い。しかし、青髭の城に代わるべき、音楽に寄り添うアイデアは何処にも見当たらず、単なる思い付きによる退屈な演出と感じた。

 指揮者も又、何だか生ぬるい。一応、ダイナミック・レンジは広く取り、大きな音は出すのだが、テンポに工夫がない。早いパッセージでは、チンタラやらずに快速で飛ばして欲しいし、ピアニッシモのテンションの低いのにも、イライラさせられる。経歴を見ると、「アンサンブル・アンテンコンタンプラン」に居たり、ザルツブルクで「ファウストの劫罰」を振ったりと立派なもの。しかし、デュカスの緻密な音楽を表現するには、あまりにもキビキビしたところのない呑気な指揮振りで、この人は残念ながら「アリアーヌと青髭」を振るタマではない。

 このオペラのオーケストレーションは、常にトゥッティで鳴っていて、木管の独奏部分の少ない印象を受けた。従って、オケに音色の変化がないと、楽しく聴けないのに、その辺がテキトーで単調になっている。煌びやかな音に溢れた、フランス音楽らしい感覚的な洗練のある曲で、これをパリ・オペラ座のオーケストラが演奏する、得難い機会だっただけに、指揮者に人を得なかったのが、本当に腹立たしい。

 タイトル・ロールのポラスキの、ブリュンヒルデとエレクトラは、僕も実演で聴いたことがあり、何れも立派な歌だったと記憶している。確かに、三幕歌いっ放しの難役のアリアーヌを、三千人収容の大ールで唄い切れる歌手は、そう矢鱈に居るものではない。それは承知で言うのだが、この人の声は高音域も中音域も、殆んど同じメゾの音色のままで変化に乏しく、単調な歌が続いてしまう。乳母のヘンシェルと声質も被り、二人の掛け合いもあまり面白くは聴かせてくれない。

 そもそも「アリアーヌと青髭」は、百人以上の大オーケストラを相手に、ブリュンヒルデ歌いが声を張り上げるオペラなのだろうか?もっと小さなハコで、繊細な音色の変化で聴かせるべき音楽、僕はそう感じた。男声歌手の出番は極端に少なく、ほぼ全曲に亘り、女声によって歌われることもあり、歌手の声質の選択と組み合わせには、非常にデリケートな問題を含むオペラなのだ。今日のプロダクションでは、同じような声質の歌手ばかり起用されていて、特に青髭の前妻たちは演出の不手際もあり、誰が誰だか殆んど区別が付かなかった。多彩な音色の女声を、オケの音と織り上げることで、豪華な音の饗宴を楽しめるオペラの筈、と思う。

 このオペラの初演は、ドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」初演の五年後に行われている。青髭の三番目の妻の役名はメリザンドで、曲中に引用もあるとの事。確かにヴァグネリアンのデュカスらしい、大オーケストラの多種類の楽器の音色を、緻密に組み立てたオペラだが、僕はどうしても「ペレアスとメリザンド」のような演奏スタイルで、じっくりと繊細に「アリアーヌと青髭」を聴かせて欲しい。そういう欲求の、募ってしまう上演だった。
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4 コメント

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トラックバックありがとうございます (ウルズラ)
2008-07-30 12:18:12
こんにちは。相変わらず詳細な分析で、個人的な感想や好みの相違は少なくないものの、どのようにご覧になったのか、という点で説得力がありますね。

私もオペラの舞台に映像を使うことには批判的な立場で、今回は控えめな使用でしたが、映像が主体になってしまうとなると、わざわざ舞台に乗せて上演する意味は希薄になると思います。「なんでもあり」な媒体なだけに、取り扱いにはよほどの注意が必要だと思うのですが、なんともお粗末なものしか記憶にありません。

音楽についても、私は全く予備知識なしで聴いたために(^^;、そこまでのフラストレーションは感じませんでしたが、休憩時間にお話しした先生も「もっと内省的な響きの音楽だと思ったんだけど」というようなことをおっしゃっていました。

コメントありがとうございます。 (Pilgrim)
2008-07-30 21:27:50
 今回、西宮公演はオーチャードに先立って行われたので、よそ様のブログを参考に出来ず、もしかして…と思っていたのですが、他の記事が出て来ると案の定、皆さん誉めてますよねぇ。

 昨年、関西では大阪音大がオルフの「賢い女」、びわ湖ホールではツェムリンスキーの「こびと」と、立て続けに大人数のオケを動員する作品が上演され、何れもA先生の仰る「内省的」な音楽と、僕は感じました。「アリアーヌ」も、その延長線上で考えたと云う、個人的な事情もあります。オペラ自体が素晴らしいのは僕も全く異論はなく、何だか今頃になって、あの演奏がジワジワと効いて来たような気もしています。

 僕も、ただ単に不精なだけですが、予習は一切しません。でも、こうやってブログ記事に書き、コメントを頂くことで余韻に浸るのは、とても贅沢なことだと思います。
トラックバック、ありがとうございました。 (Yuriko)
2008-08-05 23:23:51
トラックバック、ありがとうございました。
私は、パリ国立オペラの来日公演につきましての記事は書きましたものの、公演に足を運ぶことはありませんでしたので、記事を興味深く読ませていただきました。
ありがとうございました。
コメントありがとうございます。 (Pilgrim)
2008-08-09 06:48:19
 ご覧の通り、素人の感想を綴っただけのブログに、わざわざご挨拶頂き恐縮です。今回の来日公演は、パリ・オペラ座の実力を存分に発揮した見事なものでした。本当に“最初で最後”にならないよう、願っております。

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