オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」

2009-08-01 | ドイツオペラ
<小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ/ダラス・オペラ製作プロダクション>
2009年8月1日(土)15:00/アクトシティ浜松

指揮/小澤征爾
小澤征爾音楽塾オーケストラ
東京少年少女合唱隊

演出/デヴィッド・ニース
美術/マイケル・イヤーガン
照明/高沢立生
衣裳/ピーター・J・ホール

ヘンゼル/アンゲリカ・キルヒシュラーガー
グレーテル/カミラ・ティリング
父親ペーター/ヴォルフガンク・ホルツマイアー
母親ゲルトルート/ロザリンド・プロウライト
魔女/グラハム・クラーク
眠りの精&露の精/モーリーン・マッケイ


 今年で10回目となる小澤音楽塾オペラ公演である。今回は日程が合わず、今日が千秋楽となる「ヘングレ」を、ここ浜松まで追い掛けて観る次第となった。このホールに入るのは三回目だが音響も良いし、一番隅っこの席でも舞台に死角のない良いオペラ劇場と思う。まあ、問題は滅多にオペラを上演しない事ですけどね。

 最初に告白しておくと、実は僕は「ヘングレ」を観るのも聴くのも、今日が始めて。勿論、一昨日の抜粋は聴いたけれども、兎に角どんな音楽なのかも良く知らない、まっさらの状態だ。自分でも何故こんな食わず嫌いを続けていたのか、やはりお子様向けオペラと云う偏見があったからだろうとは思う。でも、小澤もこのオペラを振るのは今回が初めてだそうだし、こんなのも偶には新鮮で良いかも知れない、と勝手に都合の良い方に解釈しておく。初めてにしては小澤は今日も暗譜で、七十歳を過ぎてこの記憶力の確かさは、若い身空(比較的にですよ)で健忘症気味の僕としては、全く羨ましい限りである。

 序曲が終わり幕が上がると、舞台にはモノクロームな室内のセットがあり、ヘンゼルとグレーテル兄妹の掛け合いが始まる。バーバラ・ボニーの代役ティリングと、キルヒシュラーガーの二人の主役には、目まぐるしい程の演技が付されて、飛んだり跳ねたり八面六臂の大活躍だ。やがて家の外へ飛び出した二人は、洗濯物の干されたロープと、天井からぶら下げたブランコの周りを駈け回り、踊りながらデュエットを歌う。終いにキルヒシュラーガーの方は息を切らしてしまう程の、やんちゃな子供らしい激しい動きだった。

 二幕の森の中は、兄妹のお家のセットが横移動で引っ込み、結構リアルに作り込まれた森の樹木が大量に登場する。その樹木が取り払われると、舞台奥に巨大なX字型の階段が現われ、十四人の天使がゾロゾロと降りて来る。ここでは照明により、キンキラキンの美しい場面が造形される。メルヘンですなぁ。

 三幕冒頭で、兄妹を叩き起こす為に出てくる露の精は、宙吊りのゴンドラで降りて来る。あくまでオーソドックスに徹し、メルヘン・チックを目指す演出だが、その割にはお目当てのお菓子のお家が、原色で塗り分けられたド派手なセットではなく、やや地味目な色合いだったのは意外。一幕の兄妹のお家が灰色一色で貧乏臭く、これはお菓子のお家との対照を狙ったのかと思っていたので、僕は肩透かし気味に感じた。

 歌で最も不満に感じたのは、主役の二人のヘンゼルとグレーテルの声が、完全に被ってしまった事。二人の絡むシーンで、一体どちらが歌っているのか非常に聴き分けが付き難く、これではデュエットも額面通り盛り上がらない。二人には中音域に深い音色があり、声自体に含まれた表現力で聴かせる共通点がある。ティリングはソプラノらしく、高音部は細く鋭い声になるが、キルヒシュラーガーの方は、あくまで柔らかいメゾの声で通す。当初のバーバラ・ボニーとキルヒシュラーガーの組み合わせなら、兄妹の声の対照は明確だった筈で、ティリングがとても魅力的なソプラノだっただけに、このミス・マッチは本当に残念に感じた。

 ペーターのホルツマイアーはリートも歌う人らしく、彼のパパゲーノなら是非とも聴いてみたいと思わせる、ドイツ・オペラに打って付けのバリトン。ゲルトルートのプロウライトも、肝っ玉母さん風のガラガラ声が役にハマった。魔女のグラハム・クラークも、キャラクター・テノールとして達者な処を聴かせてくれたが、演技面は何だか遠慮気味で、今ひとつノリが良くない。ハジけた演技の出来る人の筈だし、この点はやや不満に感じる。やはり代役で出て来た森の精のマッケイが、綺麗なレジェーロのソプラノで、これは個人的な意見だが、この人にグレーテルを任せた方が、今日はより楽しい上演になったかも知れない。指揮者とオケは可も無く不可も無し。小澤も始めての演目と云う事で、乗り切れなかったように思う。

 初めて観た「ヘンゼルとグレーテル」の音楽への感想は、こりゃ思想の無いヴァーグナーだな、と云った処。お子様向けメルヘン・オペラだし、今回のように大物歌手を六人も揃える必要は全くないと思う。この超強力メンバーでは、何だか牛刀を持って鶏を裂くみたいで、そんな大袈裟な音楽ではないのだし、東京少年少女合唱隊の子供達が可愛らしく締め括ってくれれば、それで充分なオペラと感じた。

 最初に述べたように、ここアクトシティ浜松の運営で最も問題とすべきは、オペラ製作の無い事と思う。富山オーバードホールでは四年に一回でも自主公演を行っているが、浜松では寡聞にして、自前のオペラ上演をぶったと云う話を聞かない。しかも次の主催公演は、鬼の笑う来年のベルガモ「椿姫」で、ここは日本初の四面舞台が売り物のクセに、その金を掛けた舞台機構を使う機会は、極端に少ないようだ。浜松はカワイとヤマハのお膝元なので、ピアノを習う子供と、吹奏楽部員用の管楽器の講習会さえやっていれば、それで何処からも文句は付かないようだが、じゃあ何で普通のコンサート・ホールじゃなくて、馬鹿みたいに金の掛かる四面舞台なんか作ったんだよ、と毒づきたくもなる。びわ湖ホールが自主公演に金を掛けて予算を削られたのに、ここは一切オペラに金を掛けないオペラ・ハウスでも、県議会に叩かれたりはしない、これは全く理不尽な話と思う。

 写真は休憩中のロビーでお見掛けした、そのびわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典さんです。ご協力ありがとうございました。
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4 コメント

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見たんですね! (ばもくん)
2009-08-10 11:17:02
やっぱり見たんですね!
operanoyoruさんがあれだけでは無いはずと思っておりました。
私もヘンゼルとグレーテルの声は違和感を感じました。なんだが配役が逆のほうがいいのではないかと。。。

いつもながら小澤さんの暗譜には驚かされますね~
当たり前ですが、小澤さんの半部も生きていない私にもあれは無理無理(笑)
Unknown (ひろ)
2009-08-11 19:33:58
コメント、ありがとうございました。

確かにお二人の声質が似ているので、
識別が難しかったですね。
その点が残念でした。

それに、子役ですので、ベストパフォーマンスとはいえないですよね。
別の役で改めて聴きたいと思います。(^^)
Unknown (フェリーチェ)
2009-08-13 06:45:14
こんにちは。浜松でご覧になったのですね。沼尻さんも浜松までいらしていたとは。
ヘングレを生で見るのは初めてでしたのでオーソドックスな演出にほっとしました。MET、グラインドボーンなど、結構グロテスクな演出もあるようで。。
グレーテルのカミラ・ティリング、新国の魔笛に登場のようです。
皆様コメントありがとうございます。 (Pilgrim)
2009-08-13 20:25:05
 お父ちゃんと魔女にはアリアがあるのに、主役の二人には無い訳で、これは子供二人はデュエットで聴かせろ、と云う事なのでしょう。こんなタイプのオペラが他にもあるのか、僕は俄かに思い付きません。

 ばもくんさん、僕は暗譜なんてン十年、する機会もないです。

 ひろさん、僕もキルヒシュラーガーのケルビーノが聴きたいぞ!

 フェリーチェさん、沼尻さんはびわ湖ホールからの帰途、途中下車されたそうです。ヘングレは本来、飢饉の際の子捨ての話ですし、僕はグロな演出が観たいですねぇ。

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