オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

ワーグナー「ラインの黄金」

2009-03-18 | ヴァーグナー
<楽劇「ニーべルングの指環」序夜>
2009年3月18日(水)18:30/新国立劇場

指揮/ダン・エッティンガー
東京フィルハーモニー交響楽団

演出/キース・ウォーナー
再演演出/マティアス・フォン・シュテークマン
美術・衣裳/デヴィッド・フィールディング
照明/ヴォルフガング・ゲッベル

ヴォータン/ユッカ・ラジライネン
アルベリヒ/ユルゲン・リン
ローゲ/トーマス・ズンネガルド
ファゾルト/長谷川顯
ファフナー/妻屋秀和
フリッカ/エレナ・ツィトコーワ
フライア/蔵野蘭子
ドンナー/稲垣俊也
フロー/永田峰雄
エルダ/シモーネ・シュローダー
ミーメ/高橋淳
ラインの乙女/平井香織/池田香織/大林智子


 「トーキョー・リング」と渾名され、八年前初演されたプロダクションの再演である。僕は前回チクルスの際には、「ラインの黄金」と「神々の黄昏」の二本を観たが、その時購入したプログラムを引っ張り出すと、何と!ダブル・キャストの一体どちらを見物したのか?その程度の記憶すら定かではない事に気付き、愕然としてしまった。いや、確かフリッカは藤村さんじゃなくて、小山さんだったと思うんだけど…。でも僕の場合、このような健忘症対策としてブログを始めた訳で、記事にすれば誰かが読んでくれると云う実感がないと、とてもではないが河童メソッドさんみたく、ノートに付ける習慣なんて続かないですねぇ…。

 従って今日のプロダクションも、概ね初めて観るようなもので、とても新鮮な気分で見物する事が出来た。これなら二度目でも、わざわざ来た甲斐があると云うもので、健忘症も悪くはない。と云う訳で(何がだ)、水の流れの投射される、歪んだフレームのスクリーンの下に、席番を振られ横一列に並べられた座席があり、そこでラインの乙女達が、アルベリヒと遣り合っているのを観れば、そうか!これは映画館の中と云う設定なんだ、と直ぐに気付く事が出来た。“ラインの黄金”を盗んだアルベリヒが逃げ出すと、演出家はスクリーンに、河へ飛び込む彼の姿をアニメにして観せる。何だか調子の好い、講談師が張り扇を叩いて語るような、リング争奪戦のプロローグだ。

 二場の舞台は、一場のスクリーンと同じ形をした、フレームの歪んだ額縁舞台で、この演出での指輪の物語は、スクリーンの中で演じられる、映画の中の出来事と云う設定なのだろう。これは一昔前に流行った劇中劇、つまり入れ子構造の演劇形態で、それに気付いてしまえば、このポップでキッチュな舞台について、難しく考える事は何もない。軽快なエンターテインメントとしてのヴァーグナーを、気楽に楽しめば良いだけだ。

 そう思って観ていると、アルベリヒの衣装はドサ回りのカントリー歌手で、ローゲはインチキ手品師、フローはアメコミのヒーロー風で、フライアはダンパで踊る「アメリカン・グラフティ」のファッション、そしてファゾルトとファフナーの巨人兄弟は「ブルース・ブラザース」そのもの、と云う事になる。これは単なる僕の想像だが、演出のキース・ウォーナーはオペラの登場人物の各々に、過去の映画の記憶を当て嵌めているのではないだろうか。

 今日のガウン姿のヴォータンからは、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「家族の肖像」に主演した、バート・ランカスターを連想したし、ヴォータンとローゲがニーベルハイムへ黄金を強奪に出かける際に、額縁舞台の外へ出た時は、映画の主役がスクリーンの外へ飛び出す、ウディ・アレン監督の「カイロの紫のバラ」を連想した。こんな連想に、もちろん何の根拠もないし、深読みに過ぎるのだろう。しかし、ウォーナーの演出が、この百年の映画史全体を意識している事は、ほぼ間違いないと思う。

 エッティンガーの指揮は意図のハッキリした明快なもので、そのデカイ音を出さない、軽やかなリズム感のある演奏は、この軽佻浮薄(誉めてます)な舞台に、本当に打ってつけと思う。重々しいヴァーグナー演奏では、この演出に合う筈もなく、それ故に経験のないエッティンガーのリング・チクルスへの抜擢(若杉さんかな)を、英断と評価したい。

 歌手もアンサンブル重視で、突出したものは要求されず、声・演技共にアクの強い人は居ないが、各々が役に合った声で、ほぼ満足すべき出来。アチャラの人も日本人歌手も、それぞれアンサンブルに嵌まって、なかなか聴き応えがあった。でも、ヴォータンとフリッカの二人とも、こじんまりとしているのは、「ヴァルキューレ」以降がやや心配ではある。

 最後のワルハラ城への入場では、新国立劇場四面舞台の威力をフルに発揮。二場と三場の舞台セットが、それぞれ左右に引っ込み、奥から四つ目のセットが出て来る。このセットに番号が振ってあったり、矢印のあったりする事に大した意味はなく、これは単なるハッタリと思う。遠来の観客としては、「ライン・ゴールド」と「ヴァルキューレ」くらい、日替わりで上演して欲しい処だが、四つのセットを使い回す演出では、その度に東京まで出かける事を、余儀なくされるのも致し方ないと、今日は一応納得した。
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6 コメント

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ウォーナー演出 (yokochan)
2009-03-23 23:25:47
こんばんは。御無沙汰しております。
なるほど、記事を拝見して感心しております。
映画の100年史ですね。
私は映画は詳しくはありませんが、ご指摘を拝見するといちいち納得がいきます。
ワルキューレの木馬、野戦病院、ジークフリートは西部劇・・・。

月末は、横浜のトゥーランドットにまいります。
それと、行きたかった大阪のルクレツィア。行かれたのですね。真夏もいけませんでしたので、フェイヴァリツトのブリテンオペラをご覧になってらっしゃって、とてもうらやましいです。
コメントお礼をこちらに書きます (河童メソッド)
2009-03-24 01:37:07
コメントありがとうございます。
生まれたときからの記録魔メモ魔の、しかし、借り物ではない正真正銘の記録魔メモ魔の河童メソッドです。
パソコンが生まれる前からですから、万年筆、鉛筆、ボールペンで書かれた河童落書きノートの山です。
思考のプロセスがわかるノートは捨てがたい。今は手書きはほぼしなくなりましたが。。
ということで、ラインゴールドの千秋楽に足を運ばれたようですが、映画分析といいますかなるほどと合点がいきました。
ラインゴールドのこのプロダクションは大変面白いもので、ブーイングをまともに出来ない日本人にあっているかもしれません。
ブーイングも拍手も論拠がなければなりませんが、今回は拍手の方に拍手ということになるわけでしょうか。
今回興味深かったのは、歌を歌っているところで、別の役の人が別の動きをしているんですね。それがライトモチーフに沿うというわけでもなく、ただ音楽の流れに合わせているんです。だからゲネラルパウゼとか、音楽の突然の進行の変更等があった場合でもまるで予期した踊りのように見えておもしろかったと思います。
病棟はワルキューレでも再出します。(たしか)
なるほど (akihito_suzuki2000)
2009-03-25 16:22:01
yahoo! ブログへのトラバをありがとうございました。映画云々という枠組みは、さすがに分かったのですが、なるほどね、あのばらばらで統一がまったく取れていない登場人物たちは、映画の歴史から抜き出されてきたのですね。面白いです。
コメントありがとうございます。 (ピルグリム)
2009-03-25 21:07:34
■yokochanさん
 ヴァルキューレ以降も映画ネタ満載のようで、これは今から楽しみです。ブリテンに関しては、羨ましがられるような上演には当ってないです。これまでで印象的だったのは、サイトウ・キネンの「ピーター・グライムズ」で、上演希望は「ビリー・バット」です。

■河童メソッドさん
 ノート整理の為のブログですか。ネタはほぼ無尽蔵なのですね…。歌ってない人も何か演技はしているなぁ、とは気付いていましたが、今回の演出では人物の動きそのものはルーティンと感じ、その点はあまり楽しめなかったです。
 関西には暖簾分けして何軒かある、スタンディング・バー「サンボア」で、時々ハイ・ボールを飲みます。

■akihito_suzuki2000さん
 わざわざご挨拶頂きありがとうございます。
 でも、それを題名を挙げて指摘出来ないのが、もどかしいです。あれが単なる類型的な造形なのか、或いは具体的なモデルがあるのか、その辺も良く分かんないですね。
Unknown (romani)
2009-03-25 23:13:56
こんばんは。

TBいただきありがとうございました。
「ラインの黄金」を実際にみるのは今回が初めてでしたが、とても好印象でした。モダンな演出だとは思いましたが、演出家の自己満足ではなく、ワーグナーをしっかり感じさせてくれたことがうれしかったです。

歌手では、アルベリヒが良かったと思いましたが、ファーゾルトとファフナーの日本人コンビも、とても存在感がありました。
「ワルキューレ」は昔NHKホールでみたバレンボイム&ベルリン国立歌劇場があまりに素晴らしかったので、少し不安もあるのですが、大いに楽しみにしております。
romaniさん (ピルグリム)
2009-03-28 09:21:55
 ご挨拶、本当にありがとうございます。

 日本人だからダメだ、みたいな意見も見ましたが、僕も巨人族の二人は良かったと思います。

 バレンボイム&ベルリンのヴァルキューレは、97年と02年のチクルスのと二回観ました。カーテン・コールの時、一番前まで行って拍手してたら、デボラ・ポラスキが握手してくれて、とても嬉しかったのが想い出です。

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