オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

モンテヴェルディ「オルフェオ」

2016-10-12 | バロックオペラ
<日伊修好百五十周年記念/沼尻竜典五幕補筆版>
2016年10月12日(水)19:00/東京芸術劇場

指揮&チェンバロ/アーロン・カルペネ
ジャパン・オルフェオ管弦楽団
ジャパン・オルフェオ合唱団

演出/ステファノ・ヴィツィオーリ
美術/白石恵子
照明/ネヴィオ・カヴィーナ
衣装/アンジェラ&ルカ・ミッソーニ

オルフェオ/ヴィットリオ・プラート
エウリディーチェ/阿部早希子
音楽の女神&希望/ジェンマ・ベルタニョッリ
使者&プロセルピナ妃/フランチェスカ・ロンバルディ・マッズーリ
カロンテ&プルトーネ王/ウーゴ・グァリアルド
妖精ニンファ/佐藤裕希恵
冥界の霊/西久保孝弘
牧人パストラーレ/相山潤平/新田壮人/北嶋信也/金子慧一


 モンテヴェルディ大好きで、オペラ上演と知れば東奔西走するが、今回の「ジャパン・オルフェオ」と称する催しは随分と大掛かりで、そこへ逆に不安を感じる程の規模である。そもそも二千席の東京芸術劇場で二回上演も凄いが、更にプルミエは鎌倉の鶴岡八幡宮に特設ステージを設けた野外上演で、一体どんだけ金掛けてんだと思う。奏者には日伊の手練れをズラリと揃え、アントネッロの三人組にチェンバロの渡辺順生やチェロの懸田貴嗣と、古楽器オーケストラにも万全の布陣を敷くが、これには大して費用は掛からない筈だ。

 古楽器オケのトッカータからリトルネッロの演奏の後、衣冠束帯に身を固めた雅楽隊が、シズシズと舞台に現れる。篳篥に笙と竜笛の管楽器三人組だが、彼等はチョロっと吹くと、直ぐに引っ込んで終う。オルフェオが三途の川の渡し守に、黄泉の国に渡らせろと交渉する場面では、日本舞踊の五人組が冥界側要員として、一差し舞って見せる。一方、迎え撃つイタリア勢は、結婚式の場面で民族ダンスを三人組で踊り、三途の川の場面でオルフェオのアリアには、ハイテクの楽器で見た目もド派手な、レーザー・ハープを伴奏に使用する。今回の上演のコンセプトは東西文化の融合だそうで、日本側は雅楽に能楽に日舞の家元を動員し、古楽器の雅びな響きに和式の音を織り込む、木に竹を接ごうとする試みである。

 邦楽は置いてモンテヴェルディの方だが、オルフェオのプラートには圧倒的な美声と、抜群のアジリタがある。伸びやかな高音と共に、中音域には艶やかな音色があり、長身のイケメンで舞台映えする容姿も相俟って、オペラティックに華やかなタイトル・ロールである。エウリディーチェの阿部早希子と、ムーサとスペランツァを歌うベルタニョッリの二人は、似通った声質で対照は付かないが、それぞれテンぺラメントに富んでいて、こちらもオペラ歌手らしい唱い振りだ。シルヴィアとプロセルピナ妃のマッズーリにしても、イタオペっぽく歌い上げるタイプで、イタ公は古楽歌手である以前に、まず飽くまでオペラの歌い手であると感じる。今日は一人二役でデフォルトだが、ハスキー系のバスでグァリアルドは、カロンテとプルトーネ王を兼ねていて、さすがに親玉と子分の二役には違和感を残す。

 エウリディーチェの返還交渉の場面では、能役者が傍らでチョロチョロと舞い、妻を再び連れ去られたオルフェオが、独りトボトボと現世に戻ると、日本舞踊五人組も再登場する。通常、日舞の伴奏は三味線だろうが、ここでは何故か能楽隊の演奏で舞い踊る。また、能役者の伴奏も、雅楽隊で付ける場面もあって、邦楽部門間の交流も図られる。笙と竜笛はコッソリと古楽オケに混って吹いていたが、この辺りの邦楽器はコルネットと大して変わらない音色で、特に違和感は無い。ミッソーニの衣装も演出のコンセプトに合わせ、和式テイストを含む無国籍風なのも面白い。

 今回の上演ではオルフェオがアポロに導かれ昇天する、終幕のストーリーをギリシャ神話の原典に則り、バッカスの送り込んだ刺客に嬲り殺しにされるエンディングに差し替えている。歌詞を変えるので、これに合わせた音楽も沼尻竜典に委嘱している。沼尻の作ったのは疑似バロックでは無く、演出に合わせた邦楽風で、不協和なハーモニーの続く女声合唱だったが、特に面白いとも面白くないとも思えず、オリジナルに対する蛇足のように感じた。

 誠に多彩と云うか闇鍋風の上演で、これを纏め上げる演出の力技に、聊かの無理は感じるけれども、まあイヴェントとしては良く出来た方だろう。舞台演出で和洋の融合を芸術的に仕上げるのは、至難の業と改めて感じさせる。昔、若杉弘さんの手掛けた和式の演出で、僕の観た「ポッペアの戴冠」や「サロメ」は、その華やかな美しさを未だに忘れ難い。そもそも東京芸術劇場は、箱物としてバロックオペラの上演には不向きで、鶴岡八幡宮での野外上演と条件も違い過ぎたのだろう。

 それに単なるオペラ好きとしては、こんなに良質の古楽オケを巨大ホールの薄暗がりに押し込み、ピリオド楽器を観客に積極的に披露しないのでは、余りにも勿体無いと云う気持ちも先に立つ。バロックオペラのピリオド上演では、テオルボやダブル・ハープやコルネット等、珍しい楽器を見せるのも演出の内だろう。もっと素直にモンテヴェルディの音楽を聴かせて欲しかったと、国際交流の超豪華イヴェントに溜息を吐くのである。
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