オペラの夜

出かけたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深めるためのブログです。

ショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」

2008-05-04 | 各国オペラ
<東京歌劇団旗揚げ公演/プレミエ>
2008年5月4日(日)14:00/サンパール荒川

指揮/珠川秀夫
東京歌劇団管弦楽団
東京歌劇団合唱団

演出・美術・衣装/大島尚志
照明/中村浩実

カテリーナ/菊地美奈
セルゲイ/羽山晃生
ボリス/田辺とおる
ジノーヴィー/小林大作
女囚ソニェートカ/塩崎めぐみ
下女アクシーニャ/羽山弘子
ボロ服の男/加茂下稔
司祭&老いた囚人/大野隆
警察署長&軍曹&哨兵/筒井修平
教師/佐藤伸二郎
女囚/大塚陽子
御者&酔客&使用人/中尾遊
番頭&警官&使用人/菅原浩史
水車屋&屋敷番&使用人/小林弘児


 日本人のみのキャストでロシア語に挑み、ショスタコーヴィチの難曲をプロ歌手とアマオケの組み合わせで舞台上演するという、壮挙とも呼ぶべき公演である。歌手たち全員に暗譜が課せられたらしく、プロンプターのいないのも凄い。ただ、関係者の努力と苦心に敬意を表するのに全く吝かではないのだが、その成果に充分な満足を得ることが出来たかというと、これはまた別の問題である。

 まず舞台で気になったのは、何だか見ていて気恥ずかしい程に、稚拙な演技をする歌手が多数いたこと。とりわけコーラスのモブとしての動きが拙劣で、これは演出家の基本的な力量不足なのだろう。その中ではボリスの田辺とおるが、生気に溢れる演技を見せてくれた。彼と他の若手歌手たちの演技レベルの差は、曲への理解度の差だと僕は考える。このオペラに含まれている毒、ブラック・ユーモアを解さずに、ただ上手な歌を唄おう、正確なロシア語を心がけようという姿勢では、聴衆の心を動かす歌は唄えない。今日の歌手の中では田辺ともう一人、酔っ払いの加茂下稔の二人の歌と演技が、他の若手たちの水準を抜いていたが、これは結局ショスタコーヴィチのアイロニーというものを、キチンと把握しているかどうかの問題なのだと思う。

 しかし、若い歌手たちにのみ責任がある訳ではない。最も問題なのは、今日の指揮者の曲の読み込みが如何にも浅いことにある。一幕のセルゲイとカテリーナの情交の場面や、二幕間奏曲などで、オケからフルボリュームを絞り出す手腕はあるが、このオペラに最も必要とされる、ピアニッシモの冷たい美しさを表現出来ていない。歌手たちに曲への理解を深めさせる立場にある指揮者から、とにかくデカイ音を出せば良い、という姿勢しか僕には感じ取れず、ドロドロの人間関係を表現する音楽を充全に味わうには、あまりにもアッケラカンとした指揮振りだった。

 この公演のために編成されたオケは、ショスタコーヴィチのみを演奏するアマチュアの、オーケストラ・ダスビダーニャのメンバーを主力として構成されている。客席両脇に配置されたバンダのチューバやトランペットも効果的で、金管の音量は充分以上。ショスタコーヴィチへの思い入れの深い奏者・歌手たちの集ったことから、指揮者に人を得なかったのが尚更悔やまれる。

 タイトル・ロールの菊地は力強い美声のソプラノだが、パセティックな表現力に欠け、セルゲイの羽山も重目の声質は役に合うのだが、やはり曲の理解が表面的で、何れも単調な歌になってしまった。ただ、ジノーヴィーの小林のリリックな声は、そのまま脳天気な役にハマっていた。この調子で三幕までは内容に乏しい演奏だったが、四幕だけは皮肉や諧謔のないストレートな悲劇なので、指揮者と歌手たちの実直な演奏が効果を挙げ、ひたすら幕切れに向かって暗く盛り上がり、救いのない終結にも説得力があった。

 演出については素人臭くセンスに欠ける、の一言で済んでしまう。資金不足を方法論で補えないのでは、どうしようもない。四幕でホリゾントに川の流れを映したのは、ごく普通に効果的だったが、この程度の工夫でも全幕で照明担当者にアイデアを出させれば、もう少しマシな舞台が出来たのではないかと思う。

 この演奏団体は来年から、「ワーグナー音楽祭・あらかわバイロイト」と看板を架け替え、第一回公演に「パルシファル」を取り上げるとのこと。でも、今日の指揮者が振るのなら、大きな期待は持てないと思う。毒の無いヴァーグナーってねぇ。
ジャンル:
音楽
キーワード
ショスタコーヴィチ 田辺とおる ヴァーグナー パルシファル ピアニッシモ ムツェンスク郡のマクベス夫人 タイトル・ロール
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コメント

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Unknown (kappamethod)
2008-05-15 23:25:45
レディー・マクベス。
観たことがありますが、自分年代記を掘り起こさないと思いだせません。
今、日本でも普通にやるんですね。
ただ、楽しむというよりは、なんだか心配が先にたってしまうんですね。
劇団には学芸会のように年一回のために、ではなく是非レパートリー化してほしいものです。(無理だとは思いますが)

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