オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

ヴェルディ「椿姫」

2009-06-25 | ヴェルディ
<東京フィルハーモニー交響楽団第46回オペラシティ定期シリーズ/演奏会形式>
2009年6月25日(木)19:00/東京オペラシティ

指揮/チョン・ミョンフン
東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団

ヴィオレッタ/マリア・ルイジア・ボルシ
アルフレード/ダニール・シュトーダ
ジェルモン/ヴァシリー・ゲレッロ
フローラ/渡辺玲美
ガストーネ子爵/二階谷洋介
ドゥフォール男爵/塩入功司
ドビニー侯爵/大森一英
女中アンニーナ/松浦麗
医師グランヴィル/ダン・ジュンボ
召使ジュゼッペ/小田修一
使者/川村章仁


 チョン・ミョンフンがオペラの上演で、その能力を最大限に発揮する指揮者である事に異論は少ない筈と思う。又、彼が94年にパリ・オペラ座の音楽監督の地位を罷免され、その後は何れのオペラ・ハウスにもポジションを持たずに現在に至っているのも、皆様ご存知の通りである。それでも最近ようやく、ドレスデンやミラノでオペラの指揮を再開した(する)らしいが、日本では東フィルの音楽顧問としてコンサートを指揮するのみで、新国立のオケピットには入ってくれない。今日は演奏会形式とは云え、ミョンフンが「椿姫」を振る貴重な機会なのである。

 チラシにもプログラムにも“歌劇「椿姫」より”と記載されていて、これはてっきり抜粋演奏と思っていたが、別にバッサリと切られた部分はなく、最後までタップリと二時間掛けて演奏して頂いた。昨年の富山でのボエームもそうだったが、さすがにミョンフンは煽るだけの凡百のオペラ指揮者とは異なり、音楽の作り方が丁寧に感じられる。序奏の弦楽のピアニッシモでは、東フィルから引き締まった美しい音色を引き出し、やっぱりミョンフンが振ると違うよなぁ、と惚れ惚れさせられる。僕の貧弱な記憶を辿っても、東フィルが新国立のオケピットで、これ程繊細な音を出した事があるのか思い出せない。

 それに今日は何と云っても、ミョンフン自らが選んだ歌手で「椿姫」を聴けるのだ、と開演前は安心し切って居たのだが、いざ演奏が始まると、どっしりと腰を落ち着けて聴いている訳にも行かなくなって来た。ヴィオレッタのボルシは「椿姫」最大の聴かせドコロである、一幕の「ああ、そはかの人か~花から花へ」で、最高音を出すには出したが、喉に力を入れてムリヤリ持ち上げる印象を受けた。

 でも、二幕の「私を愛して、アルフレード」での伸びやかな歌声は良かったし、三幕の「さようなら、過ぎた日」では、キッチリとコントロールされた、美しいピアニッシモを聴かせてくれた。このソプラノの暖かい音色のある声は魅力的で、良質な歌心も備えているのだが、超高音には課題を残しているし、音色の変化で聴かせるタイプではないので、オペラ全曲を通すと単調になってしまう。素材は良いが技術的に長所と短所は相半ばしていて、まだ若いこれからの人と感じた。アルフレードのシュトーダも、リリックな声質そのものは良いのだが、やや声量不足でダイナミック・レンジが狭く、この人もずっと聴いていると聞き飽きて来る傾向がある。ただ、ちゃんとオケの伴奏を聴いている様子があり、ミョンフンのリズム感に乗って歌っている点は好感度が高い。

 結局、今日の主役三人のうち、最も安心して聴けたのはジェルモンのゲレッロで、豊かな声量とメリハリのある歌い振りで聴かせ、これは経験値の差かと思う。ただ、この人の声のデカさと濃い歌い回しは、如何にも田舎紳士風で、ヴィオレッタに対して押し付けがましい、頑固親爺っぽいキャラに感じられた。

 演奏会形式で歌手は皆、ソロもコーラスも終始突っ立ったままなのは、やはり興醒めする処ではある。まあ、そんな事は最初から分かっている話だが、それでも何か少し位の芸を見せてくれるのでは、と云う儚い望みは持っていたので、とりわけ二幕の後半、舞踏会の場面のジプシー女と闘牛士のバレエ・シーンに何の動きも無かったのは、いっそ清々しい程に感じた。ミョンフンの練達の指揮に接すれば尚更、彼の本格的なオペラ上演を観たくなる、その思いの募るのは致し方のない処だろう。
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2 コメント

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ピットで (にのじ@ばよりん)
2009-07-05 00:46:17
トラッックバックありがとうございました。
マエストロとのオペラは4回目となりますが
きちんと舞台とピットとで上演したのは蝶々夫人の一回だけ。
それも凄い体験でありました。

今回の椿姫、やはりオーケストラはピットに入ってやりたいものだと思いました。

コメントありがとうございます。 (Pilgrim)
2009-07-06 20:32:09
 二宮様、初めまして。厚かましくTBさせて頂いた上にコメントまで頂き、恐縮の極みです。

 ミョンフン氏の「蝶々夫人」は、日本人キャストの方を拝聴しております。仰る通り、僕にとっても凄い経験でありました。

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