オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

シューベルト「冬の旅」D.911

2017-07-14 | ピリオド

<シューベルトこころの奥へVol.4>
2017年1月13日(金)19:00/いずみホール

テノール/ユリアン・プレガルディエン
フォルテピアノ/鈴木優人

シューベルト「Die Winterreise 冬の旅」(全24曲)D.911
1.Gute Nacht おやすみ
2.Die Wetterfahne 風見の旗
3.Gefror'ne Tranen 凍った涙
4.Erstarrung かじかみ
5.Der Lindenbaum 菩提樹
6.Wasserfult 溢れる涙
7.Auf dem Flusse 川の上で
8.Ruckblick 回想
9.Irrlict 鬼火
10.Rast 休息
11.Fruhlingstraum 春の夢
12.Einsamkeit 孤独
13.Die Post 郵便馬車
14.Der greise Kopf 霜おく髪
15.Die Krahe 烏
16.Letzte Hoffnung 最後の希望
17.Im Dorfe 村で
18.Der sturmische Morgen 嵐の朝
19.Tauschung 幻覚
20.Der Wegweiser 道標
21.Das Wirtshaus 宿屋
22.Mut 勇気
23.Die Nebensonnen 幻の太陽
24.Der Leiermann 辻音楽師


 最初に告白するが、僕はコンサートを聴き終え、改めてプログラムに目を通すまで、今日「冬の旅」を歌ったユリアンを、父親のクリストフ・プレガルディエンと取り違えていた。そもそもアーノンクールのマタイでエヴァンゲリストを、フォルテピアノ奏者のシュタイアーと組み、リートを歌っていたクリストフに、やはりテノール歌手の息子がいて、親父に迫る知名度を得ている事も演奏後に知った。誠に慚愧に堪えないのである。

 つまり今日はクリストフの息子のユリアンと、雅明ジュニアの優人の、二代目同士のデュオ・コンサートである。今時のエヴァンゲリスト歌手であれば、ユリアン君にも古楽志向は強かろうし、優人君の方は言わずもがなで、シューベルトのリートを歌うのに、十九世紀初頭に制作されたフォルテピアノを使うのも、古楽業界の第三世代である二人にすれば、取り敢えず当然の措置なのだろう。

 本日の使用楽器はいずみホールの所有する、ナネッテ・シュトライヒャー制作のオリジナルで、音域は七十七鍵の六オクターブと、シューベルトは弾けてもショパンは無理と云うピアノである。また、モダンピアノには付いていない、ハンマーと弦の間に紙を挿入するバス―ン・ペダルとやらを踏むと、ガチャガチャ云う雑音を発して、これは謂わば十九世紀のプリペアード・ピアノである(ケージの方で真似したのかも知れないけれども)。これも今日、終曲「辻音楽師」でヘンな音が聴こえたので、帰宅後に調べ初めて知った次第である。

 フォルテピアノはチェンバロ並みに細く、緩目に張られたスチール弦を、革張りのハンマーで叩くので、音量的にはモダンピアノに遠く及ばない。基本的に弱音重視の楽器で、弦とハンマーの間にフェルトを挟み音色を柔らかくする、モデラート・ペダルとやらも頻用される。だから最初の内、フォルテピアノの小さ目の音量を不満に感じるが、次第に狭いダイナミク・レンジの中で繊細な変化を付ける、鈴木ジュニアの工夫に惹き付けられるようになる。

 ただ、プレガルディエン息子の志向は、美しい曲を美しい声で聴かせる方に傾いていて、必ずしもフォルテピアノの繊細な音色に、寄り添うスタイルでは無いように思う。高音部ではスピントするフォルテを多用し、中音域は専らソット・ヴォーチェで、ファルセットは最小限に抑えるので、ドイツ語の朗唱よりも、メロディを歌い上げる方に重点を置いていると感じられる。

 フォルテピアノはモダン楽器と比し、共鳴すべき最低音部の太い弦を欠く為、高次の倍音の乏しいシブい音を発する。本日のテノールの声の華やかさと、フォルテピアノの艶消しの音色に齟齬のあるように感じるのは、僕もモダンピアノの強烈な響きに毒されているからだろうか。「冬の旅」は音域的に、或いは曲そのものの内容からも、バス・バリトンの声で歌われる場合が多いし、テノールの明るい声で唱われると、低声歌手の演奏に滲むような、寂寥感も希薄になるように思う。

 プレガルディエン息子は曲中、チラリとメリスマを挟み込んでいた。モーツァルト辺りでは当り前になった装飾音だが、僕はシューベルトでは初めて聴く。そこには当然ながら実証的な裏付けも無ければならず、シューベルトでオリジナル楽器のフォルテピアノを使う、彼らなりの必然性を示していたのだろう。

 僕の思うにフォルテピアノと云う楽器に、中規模のいずみホールのキャパは大き過ぎる。三百席のフェニックスホールか、四百席の兵庫芸文小ホール程度の会場で、歌手はフォルテピアノの音量に合わせ、インティメイトに唱わねばならない筈だ。そもそもドイツ・リートのコンサートで八百席を埋める等、特に大阪近辺では不可能なのだから。
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