オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

タリス・スコラーズ2013日本公演

2013-06-08 | ピリオド
<結成四十周年記念ツアー/ベスト・オヴ・タリス・スコラーズ>
2013年6月8日(土)14:00/兵庫県立芸術文化センター

ザ・タリス・スコラーズ The Tallis Scholars
指揮/ピーター・フィリップス 

ソプラノ/ジャネット・コックスウェル/エイミー・ハワース
エイミー・ウッド/グレース・ディヴィッドソン
アルト/キャロライン・トレヴァー/パトリック・クライグ
テノール/マーク・ドーベル/クリストファー・ワトソン
バス/ロバート・マクドナルド/ティム・ホワイトリー

ラッスス「Alma redemptoris mater 麗しき救い主のみ母」(八声)
ジョスカン・デ・プレ「Missa pange lingua ミサ・パンジェ・リングヮ」(四声)
アレグリ「Miserere ミゼレーレ」(九声)
タリス「Miserere nostri 主よ、哀れみ給え」(七声)
ジョン・タヴナー「The lamb 子羊」
ヴィクトリア「Lamentation Sabbato sancto 聖土曜日のエレミア哀歌」(六声)
バード「Tribue domine 主よ、認め給え」(六声)


 今回の日本ツアーは、関西での三公演を含め七公演を行う。その皮切りとなる兵庫芸文の客席は、今日もほぼ満席に近い盛況を呈している。そう云えば、ジュルディ・サヴァールの無伴奏ガンバ演奏会と、これはまたエライ地味目のチケットが、幾ら四百席の小ホールとは云え即日完売だそうで、ここ兵庫芸文の古楽コンサートへの動員力には、実に端倪すべからざるものがある。

 コンサートはラッソのマリア讃歌で始まる。八声のドッペル・コールで、十名のメンバーをソプラノ二名づつと、後は一パートへ各一名を割り振っての演奏で、毎度お馴染みの完璧なチューニングを披露する。続くジョスカンの四声ミサは、各パート二名づつ八名での演奏。グレゴリオ聖歌“舌よ歌え”を定旋律とする超有名曲だが、生演奏でジックリと聴く機会は少ない。定旋律をテノールに固定せず四声部に受け渡す通模倣様式に、ホモフォニックにハーモニーを聴かせる部分と、更に二声による応唱を組み合わせる等、タリスコの演奏で聴けば、技法的な変化に富んだ曲と良く分かる。

 飽くまでハーモニーとポリフォニーのバランスを追求する、ピーターの演奏志向は変わらないが、グローリアではアグレッシヴに攻め、サンクトゥスでの“オザンナ”のリフレインに、音量と速さの変化を付ける等の工夫はある。この辺りの指揮者のアチェルラントの用法も、さすがにツボを押さえて見事なものだ。ベネディクトゥスでテノール・パート二人の交わす応唱も楽しかった。

 ただ、これは言っても詮無い事だが、もう少しソプラノに色彩感の望まれる局面はある。また、タリスコの専売特許とも云うべき、女声と男声でコンビを組むアルト・パートは、四声部の対等に渡り合う通模倣様式では、比較的に弱く聴こえる場合もある。常に中庸を尊ぶピーター君の演奏だが、アニュス・デイ辺りでは、超絶的なピアニシモのあっても良かったと思う。

 休憩後はタリスコの名刺代わりとも称される、アレグリのミゼレーレ。シンフォニーホールでは舞台奥のパイプ・オルガン席、びわ湖ホールでは二階席舞台寄りに配置された、ソプラノ・ソロを含む四名の別働部隊だが、今日は三階席舞台正面下手寄りに現れた。例に拠って天井桟敷に陣取る、僕の眼下で歌うコロラトゥーラ・ソプラノは、前回のジャネット・コックスウェルから、エイミー・ハワースへ選手交代。この交代は吉と出たようで、全く力まない響きだけのような声が伸びやかに美しく、でも如何にもタリスコのソプラノらしく、無色透明な音色で歌われた。

 ピーターは平土間席中央の通路に立つテノール導唱と、三階席の第二コーラスには合図を出さず、舞台上五名の第一コーラスのみ指揮したが、最後のトゥッティだけは大きく手を広げ、後姿で十名のメンバーの息を合わせていた。これはドッペル・コールを振る際の新機軸で、僕は初めて見るスタイルだが、なかなか愉し気で良かった。

 コッテリしたアレグリの口直しに、タリスの短いミゼレーレをサラリと歌った後、現代イギリスの作曲家であるジョン・タヴナーのアンセムが演奏される。今回の日本ツアーは四十周年記念で、これまでの委嘱曲を一曲はプログラムに加えているようだ。タヴナーと云う人は、かなり早い時期からタリスコに曲を提供しているようで、この人の作品アルバムが発売された際には、十五世紀のジョン・タヴァーナーと勘違いし購入した、そそっかしい人も居たようだ。曲そのものは聖歌の旋律を、キレイな不協和音で聴かせる擬古典的な仕上がりで、タリスコのスタイルに合わせた作風だった。

 スペイン・マニエリスモのヴィクトリアとなると、音楽はぐっとホモフォニックになる。これを現代曲の次に持って来るのは、プログラミングとして悪くない。“イェルサレム”のリフレインにはハーモニーの色彩感の表出があり、そこから情感を滲ませる指揮者の手腕も見事なもの。ただ、ここに来てメンバーの集中力もやや途切れて来たか、音の揺れの目立つようになったのと、長調に解決する最後の和音は取って付けたようで、もう一工夫の欲しい処。

 プログラムの締め括りはバードのモテット。中世の影の射さない近代的な明るいハーモニーには、風通しの良い爽やかさがあり、快速のテンポで進めた演奏を、リタルダントで終えるのも効果的だった。今年もバス二人組の豊麗な響きに支えられた、タリス・スコーラズの美しいハーモニーを、存分に楽しめるコンサートだったと思う。

 アンコールに歌われたペルトは、何だかマドリガルっぽくカチャカチャした曲。教会音楽専門のタリスコにしては珍しい、そう思いながら聴いていたが、ロビーの掲示に拠るとアヴェ・マリアだそうで、僕はやや意外に感じた。
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2 コメント

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放送中 (さわやか革命)
2013-06-27 06:18:50
ちょうど今、NHK-BSで公演録画を放送してます。東京でのコンサートのようです。
彼らのスタイルは不変だと思っていたのですが、やはり変化しているのですね。もっともテレビの音声ではロクに聞き取れませんけど。

|ジュルディ・サヴァールの無伴奏ガンバ演奏会と、これはまたエライ地味目のチケットが

実は東京でもサヴァールは瞬殺で完売でした。
私も「地味」だと思って油断していて、発売開始10分後にアクセスしたら既に終了……号泣です。
四十年目 (Pilgrim)
2013-06-29 08:34:46
 基本、タリスコのスタイルは不変と思いますよ。ピーターの説く、旋律の頂上部分を
頑張って歌えとか、定旋律を強調しろとかは、ルネサンス音楽の決まり事で
アカペラ宗教曲路線では、そんなに奇抜な演奏は出来ません。その範囲内での
速いとか遅いとかは、色々と工夫しているようですけど。

 しかし、サヴァールのガンバって、どう考えても地味ですなぁ…。

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