オペラの夜

出掛けたオペラやコンサートを聴きっ放しにせず、自分の中で理解を深める為のブログです。

ラ・フォル・ジュルネ「熱狂の日」音楽祭2008

2008-05-06 | モダンオケ
<シューベルトとウィーン>
2008年5月2日(金)〜6日(火)/東京国際フォーラム

指揮/ミシェル・コルボ
シンフォニア・ヴァルソヴィア
ローザンヌ声楽アンサンブル
コレギウム・ヴォカーレ

ソプラノ/谷村由美子
アルト/ジャッキー・カアン/ヴァレリー・ボナール
テノール/クリストフ・アインホルン/マティアス・ロイサー/ピエール・イヴ・テテュ
バス/クリスティアン・イムラー/ファブリス・エヨーズ
ピアノ/セリーヌ・ラトゥール/フィリップ・カサール
ハルモニウム/ボリス・フリンゲリ

シューベルト「スターバト・マーテル D.383/ミサ曲第6番 D.950/
Schlachtlied D.912 戦の歌/Standchen D.920 セレナード」
ロッシーニ「小荘厳ミサ」
モーツァルト「レクイエム」K.626


 コルボ爺ちゃんの演奏を全部聴く、を目標に有楽町を訪れた。目標は達成し、まずは満足であるが、三日もかけてこれだけの曲目しか聴けないというのも、非効率な話である。お祭りだし、家族で来て路上ライブなどを見て回り、子供には屋台でロコモコかハヤシ・オムライスでも食わせて(僕も食ったけど)、お父ちゃんは缶ビールでも飲んでいれば、季節は良いしGWのレジャーとしては打って付けだろう。しかし、純粋にコンサートだけを目的とする客にとっては、細切ればかりで、じっくりと音楽に聴き入る雰囲気ではない。そもそも、人混みって好きじゃないし。この催しについて客席のマナーは最低という評判もあるが、僕の見聞きした範囲に限って言えば至極マトモで、子供が泣き喚いたり、客席で弁当を広げるといった光景は目にせず、その辺りに問題は感じなかった。

 まず千五百人収容のホールCで、シューベルトの「スターバト・マーテル」。旋律の頭に軽くアタックを付けた後、スフォルツァンドをするので、長いフレーズが繋がらない。いくら若書きの曲でも、これではシューベルトらしく、息の長い旋律を歌うことは出来ない。なんでコルボがこんな演奏を、と首を傾げたくなるような解釈だった。

 ホールCでは、ロッシーニの「小荘厳ミサ」も聴いた。“小”というのは編成のことで、実は演奏に一時間強かかる大曲。ロッシーニにこんな宗教曲のあることを、僕は不勉強で今回初めて知った。オリジナル版は二台ピアノらしいが、今日はピアノ一台とハルモニウムの伴奏による演奏。我々がロッシーニからイメージするような、オペラっぽいところは全くなく、シューベルトのようでもあり、ヘンデルのようでもありする、ごくフツーのミサ曲だった。合唱の稼働部分は存外少なく、長ったらしいピアノ・ソロや、独唱を延々と聴かされるのは、結構辛いものがあった。これも上手ならば良いのだが、テノールは喉を詰める発声で素人っぽいし、バスも一瞬テノールかと思うような軽い声を出す人。どうやら男声ソリストは全て合唱団員が務めているらしく、コルボ好みの声と言えば聞こえは良いが、みんなあまりレベルの高い歌は唄ってくれなかった。

 しかし、五千人収容の巨大なホールAで演奏された、ミサ六番の演奏は素晴らしかった。最後の「dona nobis pacem」の、柔らかいピアニッシモによるリフレインには、心に沁み入るものがあった。「スターバト・マーテル」では、高音部でミスっていた谷村由美子も実力を発揮、ビロードのように滑らかな声で、シューベルトの長いフレーズを堪能させてくれた。コルボ好みのソプラノというと、つい僕などはステレオ・タイプの発想で、古楽系のボーイ・ソプラノのような味も素っ気もない声を想像してしまうのだが、谷村には内声的な深い音色があり、オペラでもスザンナやパミーナなどモーツァルトの諸役に適性のありそうな、実力のある歌手と感じた。

 ローザンヌ声楽アンサンブルは女声19名・男声17名の36名による混声合唱。軽い発声のバスが支えるハーモニーは、無色透明というよりも、パステル・カラーのような淡い色彩を感じさせる。それがコルボの色なのだろう。女声パートは、柔らかく決して力まないが芯のある声で、ピアニッシモになると特にその美しさが映える。何かピアニッシモの美しさを際立たせるためだけに、フォルテも時々出す、みたいな所がある。このコーラスの、フワフワとタンポポの綿帽子が空中を漂うような、重力を感じさせない声には、他にはない確固とした個性がある。この辺りを技術的に言うと、彼らがラテン語の子音をとても丁寧に、そっと優しく発音している点が重要。このために子音は、柔らかいハーモニーに包み込まれるように聴こえ、母音がそのまま繋がるような、圭角の取れた滑らかなフレージングを形成することになる。

 一方、シンフォニア・ヴァルソヴィアという室内オケは平凡。ピアニストのツァハリアスが指揮する、ローザンヌ室内オーケストラの演奏で、ヴェーベルン編曲の「ドイツ舞曲」と「交響曲第二番」も、この音楽祭で聴いたのだが、こちらは独特の渋い音色のある個性的なオケと感じたので、何故こちらがコルボと組まなかったのか、この点は非常に残念に思った。

 最終日は、まずホールAでのモーツァルトの「レクイエム」。二階席前方から後ろを見上げると、何と天辺の方まで客席はギッシリ埋まっている。コルボのモツレクを聴きたい人が五千人もいるのか!と驚く。この巨大ホールで、音像の遠いのは致し方もないが、ホール自体の残響はデッドでも、舞台内側のホール・トーンが伝わって来るので、もしかすると音的にはNHKホールよりも、ややマシかもしれない。

 演奏についてはコルボのスタイルに、モツレクのような劇的な曲は合わない、という事実を再確認するに留まった。この曲を終始ピアニッシモで演奏するというのは無理な相談で、フォルテの部分の方が多くなる訳だが、このコーラスのフォルテの音色は平凡でイマイチ魅力に乏しい。もちろん、とても美しく繊細な演奏ではあるが、コルボとローザンヌの個性を出すのには不適切な選曲と感じた。尚、「Tuba mirum」で、トロンボーンがモゴモゴ吹いて、旋律の形も不分明だったのは、あんまりだと思った。

 ホールCの最終コンサートは、“1828年3月26日のコンサートのプログラム”と題し、シューベルトの生前に友人たちが開催した、自作のみによる演奏会を再現した。プラジャーク・クヮルテットとトリオ・ショーソンの室内楽を挟み、カサールの伴奏でバリトンのゲンツがリートを歌う。コルボは、ローザンヌ声楽アンサンブルとコレギウム・ヴォカーレの混成チーム32名を相手に、男声合唱を二曲振ったが、これはもう文句なしに素晴らしかった。

 「戦の歌」はアカペラのドッペル・コール。「ステンツェン」はアルト独唱付きなので、ブラームスの「アルト・ラプソディー」と、組み合わせて演奏されることも多い曲。二曲とも、コルボが曲の摂理を完璧に把握し、その内容の委曲を尽くした。ダイナミック・レンジそのものは狭く、ピアニッシモからメゾピアノの範囲内に納まってしまうのだが、そのデュナーミクの繊細な変化は、名人の至芸と呼ぶしかないもの。ドイツ語も、子音をくっきりと立てているのに柔らかく発音する、コーラスのテクニックも見事だった。ラテン語の宗教曲を聴いている際に、コルボの歌わせ方にドイツ語は向かないんじゃないか?等と邪推していたのが、恥ずかしくなるような見事な発音だった。でも、このコーラスなら日本語も上手だろうなぁ、三善晃か清水脩でもやってくれんかなぁ、と妄想してしまう。カサールの伴奏も巧みで、アルトのボナールもノリノリのソロを歌ってくれた。

 コレギウム・ヴォカーレがピアノのフランク・ブラレイと組んだ、男声合唱のみのコンサートも聴いたが、やはりシューベルトはミサのような長い曲ではなく、男声合唱の小品にこそ、掛替えのない魅力がある。コルボの本領もそこにあるのだから、是非アカペラ小曲によるプログラムも実現させて欲しい。

 写真は演奏は聴けなかったが、サインは貰えたバーバラ・ヘンドリックスさんです。ご協力ありがとうございました。
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3 コメント

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Unknown (kappamethod)
2008-05-15 23:10:15
中身と関係ないですが、このフォーラム、会社の年2回のお小言イベントでよくいきましたが、雨が降ると雨の音がするんですね。ホールによるでしょうけど。
昔の都庁跡だからというわけではありませんね。お昼の散歩は、線路またいだほうにある都庁食堂で一般市民も食べれる安い食堂をよく利用してました。
すみません、音楽と関係ないお話になってしまいまして。。
コルボのシューベルト (pockn)
2008-05-18 12:25:19
operanoyoruさま、facciamo la musicaへのTBありがとうございます。コルボのシューベルト、本当に天上の音楽という感じでした。この曲を聴くのは初めてでしたが、もし別の指揮者がやったら違う曲に聞こえるかも、と思うほどコルボの色を感じました。「軍人たち」や「魔弾の射手」のコメントなども興味深く読ませて頂きました。こちらからもTBしました。ヘンドリックスのサイン、僕ももらいました。
pocknさん (Pilgrim)
2008-05-18 15:22:49
 こちらこそコメント・TB、ありがとうございます。コルボのシューベルトは期待を上回る程、素晴らしかった。あの人、小荘厳ミサやモツレクのような大曲を振ると途中でダレますが、小品だとお爺ちゃんが孫を可愛がるような滋味があります。来年のバッハは客寄せにマタイかロ短調なんでしょうが、出来ればモテット全曲を聴きたい。

 河童メソッドさん、ついでで申し訳ないですが、こちらへもコメントありがとうございます。新幹線からは見えていますが、国際フォーラムは今回始めて訪れました。「よう、こんなとこで音楽祭やるわ」というのが率直な感想です。

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