大泉ひろこ特別連載

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ウーマンリブ敗れたり(44)迷える羊

2017-01-03 09:45:48 | 社会問題

 郵政選挙の後、私は、厚生省のOB会会長をしている金田一郎さん(故人)に会った。金田さんは、1953年入省、1984年社会保険庁長官を最後に退官した。恐らく、厚生省出身で最高の人格者だ。異を唱える者はいない。私が国際児童年の仕事で総理府に出向していた時、金田さんも出向中だった。職員食堂でたまに会い、親子ほど齢が違うにも拘らず、気楽に話をする方だった。「私の母は職業婦人でね」。金田さんは、学校教師だった母親のことをよく話した。金田さんが女性に敬意を以て接することができる珍しい官僚だったのは、優れたお母さんの存在なのだろう。会うたび、心を洗われた。

 「OB会でもあなたへの反発が強くてね。勝手に民主党から出馬するとはけしからんと言ってる連中が多い。私は、彼女も同じ釜の飯を食った我々の仲間だ、協力してやったらどうかと、たしなめているんだが。ともかく、私があなたの就職に一肌脱ぎましょう」。金田さんは、邪魔が入るかもしれない厚生省関係のところではなく、当時、全国に数十の専門学校を展開していた滋慶グループの顧問の話を提供した。美容師、柔道整復師、歯科技工士、介護福祉士、保育士、デザインなど多分野の専門学校群を一から始めて30年間に数十の学校を擁するまでに事業を拡大したグループである。少子化のあおりで、専門学校は入学者が減っていく状況にあり、レストランや美容院などの関連ビジネスも発展させていた。海外ビジネスにも乗り出していて、入職する前に、ヨーロッパのエステ資格の状況を見学させてもらった。

 2006年、入職して初めての仕事がパリに美容院を開設する仕事だった。フランスでは、不動産購入は公証人を通して行わねばならない。公証人は弁護士の一種だが、司法試験は通っていない世襲の職業だ。だから、英語もできない。私が交渉した公証人は高齢の紳士で、下手な英語を精一杯使って誠意を尽くした。そのたおやかな姿に感動し、「フランスの男性は優しい、だから、女性が高慢ちきなんだな」と心で思った。逆を言えば「日本の男性は野蛮だ、だから女性は警戒心が強くなる」。

 パリが景観条例を固く守っていることは世界的に知られている。19世紀前半のパリを描いた「レ・ミゼラブル」の時のパリは今も変わっていないと言われている。いや、それどころか、私が見て歩いた不動産物件の多くが17・18世紀のものだった。売りに出ていた本屋も美しい17世紀の建物だったが、そこで売られている古本も驚くなかれ、18世紀のフランス革命前のものが書棚に、当たり前のように並んでいるのだ。ああ。茨城県でも100年以上経った家は結構見かけるが、木の家は石の家ほどはもたない、さすがにここにあるような300年も経った家が、しかも綺麗に維持されて売りに出されているなんてことはありえない。仕事は国際弁護士が相手で英語でできたが、フランスの魅力にとりつかれ、かつて学んだフランス語の教本を開く楽しみができた。

 私は、この他にも、デンマークの「森の保育園」「義務化した学童保育」やスウェーデンの福祉研究所が普及に努める介護ケアなどを現地で学んで、専門学校のカリキュラムに取り入れる仕事をした。また、西フロリダ大学の社会福祉学会で講演したり、中国や韓国と連携学校を創設するイベント等にも参加させてもらった。滋慶グループは沢山の良い機会を提供してくれた。しかし、私の悪い癖で、仕事のひとつ一つを喜んでも、何か目標がないとどこかで心はさまよい始める。心は次第に政治に向かっていた。哀しいかな、ウーマンリブ。お前はストレイ・シープなのだ、迷える羊。

 2007年11月、私は茨城県第6選挙区から衆議院議員選挙に出馬すべく民主党の公認予約を得た。公認予約の証書は民主党本部でもらうのだが、その時、赤松選対本部長が「あなたは、勇気あるね。山口、茨城、群馬の3つが最悪保守県。そのうち2つも選んだのだから」と言った。ということは、ここで出ても無理だと言いたいのか。また、茨城県連の面接のとき、某参議院議員(故人)が「あなたはお金あるのですか」と聞いたので「ありません」と答えると、「じゃあ、選挙をどうやってやるのですか」とたたみかけたときは驚いた。山口では聞かれたことはない。政党の資金で十分だからだ。

 後で知ったのは、茨城県は金権選挙で有名であり、収賄による逮捕者も最も多い。今も、与野党関係なく違法すれすれのことを行っていると言われる。選挙違反は、親告罪ならぬ密告罪(そんなものがあるとすれば)であり、密告されなければ不問に付される。いやだなあ、そんなところに踏み出してしまったのか。しかし、またぞろ即決人生で火傷覚悟だから、やるしかあるまいと心に決めた。今回は、山口県でできなかった個別のあいさつ回りを徹底しようと考えた。山口県では、なまじ知名度があったので、あいさつ回りは辛かった。自分と民主党の評判の悪さを知ってしまうからだ。茨城では、知名度ゼロだから、むしろ先入観なく飛び込んでいけると思った。

 私は、茨城の大地を歩き始めた。ここは関東平野。緩やかに大地に広がる低い山筑波山以外は、空を狭める障害物がない。山口では山に囲まれ、日の出が遅く日の入りが早くて、精神が暗くなりがちだったが、ここはめっぽう明るい。しかし、赤松さんが指摘したように、どちらも「超保守」だ。現れ方は違うが、保守であることには違いない。山口県は150年前の歴史にしがみつく保守、茨城県は恵まれた土地の上で、特に困ったこともない人生だから、長いものに巻かれろの保守。中身が違う。私は、サヨクではないし、体質的には保守的なところもあるウーマンリブだから、どちらの保守も自分には合わない。

 結果から言えば、私には、再び血まみれになる人生が待っていた。避けられまい、ウーマンリブは迷える羊。いずれ遅々として改革進まぬ男女不平等社会の生贄(いけにえ)になる運命。

 

 

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