温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

パムッカレで入浴体験

2015年01月09日 | トルコ
トルコの世界遺産パムッカレは、温泉巡りを趣味とする私としては是非訪れてみたかったところです。前回記事では当地での行動を時系列に沿って述べましたが、今回の記事ではパムッカレで入浴したことについて具体的に紹介してまいります。一部は前回記事と画像や内容が重複しますが、ご了承ください。



この日の宿泊地であるカラハユットという温泉地のホテルで一旦荷物を下ろしてから、必要最低限の荷物だけを持って再びミニバスに乗り、パムッカレ-カラハユット遺跡の北ゲートへと向かいました。


 
ゲート前の広場には広い駐車場の他、公衆トイレなどが設けられていましたので、そこで用を足してから入場することにしました。屋外にあるトイレですのである程度汚いだろうという覚悟でのぞんだのですが、便器は洋式でちゃんと紙が用意されており、意外にも綺麗に維持されていました。なおガイドブック等によれば、トイレと並んで売店や軽食コーナーがあるのとことでしたが、私が訪れた時にはいずれもクローズされていました。訪れたのは10月末であり、どちらかといえば観光のシーズンオフに含まれるのですが、そんな時季的な事情によるのでしょうか…。



小さなチケット窓口で25リラを支払い入場券を購入します。パムッカレとヒエラポリス遺跡は一体となっていますから、この一枚で両方を見学できるのですが、再入場はできないそうです。窓口で私の前に並んでいた家族連れが、パムッカレで入浴出来る場所を係員に尋ねていたので、その問答に聞き耳を立てたところ、パムッカレ村側ゲートへ向かうルート上なら自由に水遊びができるとのこと。いまいち事情が摑めませんが、ひとまずその言葉を頭に叩き込んで私も入場することにしました。
なおこの日の開場時間は8時から17時まで。私が入場したのは14時でしたから、見学できるのはあと3時間です。ちょっと急ぎ足で廻らないといけないみたい…。ゲートの先ではミニバスが待機しており、これに乗れば次回記事で取り上げる「アンティーク・プール」やパムッカレ石灰棚の最上部まで直行してくれるんだとか。運賃は2リラで15分毎の運行。でもせっかくですから、私はバスに乗らず歩くことにしました。


 
北ゲートからは石畳になっている遺跡の中をひたすら歩きます。序盤は倒れた石材ばかりが続いて妙に不気味だったのですが、それもそのはず、ネクロポリスと呼ばれる墳墓の跡なんだとか。墓地を抜けると徐々に大きな門や柱の列が目立ち始め、浴場や教会など、かつてここに街があったことが偲ばれる建造物跡が続くようになります。
(ヒエラポリスについては次回記事でも軽く触れます)



南北に伸びる断崖の上の丘に広がっている街の跡がヒエラポリス遺跡ならば、その断崖に石灰分を含む温泉が流れて石灰棚が形成されたものがパムッカレであり、遺跡が続くエリアから断崖側に寄れば、そこには延々と白い石灰棚が広がり、そして数十メートル先で断崖となってストンと急激に落ち込んでいます。
パムッカレを訪れるに際に事前にネットなどで調べたところ、最近では温泉の枯渇が深刻化しており、グラビア等で目にするような、純白な石灰棚に真っ青な水が映えているような光景は既に見られなくなっている、という情報を多く目にしました。私としてはこの内容をあまり信じたくなかったのですが、実際に現地で目にした石灰棚(北ゲート付近)は、その情報の通り、カラッカラに乾燥しており、砂塵によって薄汚く茶や灰色に染まっていました。いや、冷静に考えれば、これだけ大規模な石灰棚が形成されているだけでも奇跡的なことなのです。もし他の場所で同規模の石灰棚があったら、きっと興奮していたに違いありません。しかし先入観というものは恐ろしく、当地を取り上げるグラビアのように、白と青のコントラストが美しい景観でないと満足できず、この薄汚れた石灰棚を眺めながら、勝手にも裏切られた感すら抱き始めてしまいました。パムッカレだって望んでこんな有り様になったわけではなく、それなりの事情があるはずですが、一見の旅人は事情に理解を示そうとせず、ただ期待外れという烙印を捺して帰ってしまうんですね。観光客の感傷は誠に一方的で面倒なものです。


 
いろんな建物跡や乾ききった石灰棚などに寄り道しながら、北ゲートより歩いて40分ほどで有料エリアの中心部へとやってきました(ゲートから直行すれば30分弱でしょうか)。ここから東に行けば、次回記事で紹介する「アンティーク・プール」やローマ劇場跡があり、南へ進めば一般者でも立ち入りができるパムッカレの石灰棚となります。私がここへやってきた最大の理由は石灰棚ですから、他は後回しにして、石灰棚へ向かうことにしました。
上述しましたように、ヒエラポリス遺跡は断崖の上の丘に広がっており、パムッカレの石灰棚は石灰と炭酸を多く含む温泉がその断崖を流れ落ちることによって、石灰華(トラバーチン)が崖の広範囲に亘ってこびりついたものです。北ゲートから遺跡の中を抜けてきた道は崖の上に位置しており、有料エリアの中心部は石灰棚の最上部と同じ水平位置となります。一般者が立入が可能な石灰棚は、そこから下へ向かって自然形成された、棚田のようないくつもの段々であり、段丘をひとつずつ下りてゆけば、やがてパムッカレ村側のゲートへとつながります。つまり、立入可能ゾーンは村側入口の通路を兼ねているわけです。
通路のひとつとして設定されているものの、世界に誇れる立派なトラバーチンですから、石灰棚保護のために土足での通行は禁止されており、必ず靴を脱いで裸足になってから歩きます。最上段の土足禁止スタート地点には監視員のおじさんが常駐しており、靴のまま進入しようとする観光客に対して、笛を吹いて注意していました。なおビーチサンダルを履いている人でも注意を受けていましたから、ここでは裸足以外は厳禁なのですね。当地へ訪れる場合は、予め足拭き用のタオルと靴を入れるビニール袋の準備をおすすめします。
上述の遺跡付近に広がっていた石灰棚は乾燥しきって砂塵に覆われていましたが、こちらではお湯が流れており、奥の方では白さもしっかり保たれていました。お湯と言っても源泉温度は40℃に満たず、石灰棚を流れてゆく間にすっかり冷めて単なる水と化してしまいますので、暑い夏ならともかく、私が訪れた10月下旬は肌寒くて、とてもこの石灰棚ではしゃごうという気にはなれません。それでも、せっかく訪問したのだからと、観光客のみなさんは上段の方で水たまりに足をつけ、冷たさをこらえながら記念撮影なさっていました。


 

かつては自然湧出したお湯が、地形に任せる感じで方々へ流れていたのでしょうけど、現在ではすっかり流路が管理されており、上画像のように恰も用水路のようなスタイルで、お湯がドバドバ石灰棚へ落とされていました。あくまで私の推測にすぎませんが、おそらくこのお湯は次回記事で取り上げる「アンティーク・プール」の排湯ではないかと思われます。排湯といっても温泉プールの単なる湯尻にすぎませんから、決して汚れているわけではなく、この段階では湯温も30℃を上回っていますので、お湯が落とされている水たまりでは、無茶を承知で水着に着替えて入浴している人の姿も見られました。

足元に水が流れており、見るからに滑りやすそうな場所ですが、石灰華が細かい波状(鱗状)となって滑り止めとしての効果を果たしているためか、意外にも安定して歩くことができ、またみなさん慎重に歩いているため、滑ってコケている人はほとんどいませんでした。


 
真っ白なトラバーチンで形成された石灰華段がいくつもの段をつくっており、上から流れ落ちてくる温泉が堰き止められて水たまりとなっています。天候が良ければ水たまりに青空が映って、さぞかし美しい光景となっていたに違いありませんが、雨男である私がこの石灰棚群へ近づくにつれ、にわかに空がかき曇って、怪しげな冷たい風が吹き始め、やがて鉛色の雲からポツリポツリと雨粒が降ってきてしまいました。


 
なんだかんだで、このパムッカレが世界屈指の石灰棚であることに違いはなく、辺り一面を覆い尽くす白いトラバーチンは圧巻です。人と比較すると、石灰華段丘のひとつひとつがいかに大きいかがわかります。大きいのみならず、鱗のような形状を成す細かい模様も実に繊細で美麗です。
普段から湯口に付着した析出程度で大喜びしているような私にとって、こんな規模の石灰華は卒倒もの。先ほどは薄汚いだなんて罵倒してしまいましたが、このトラバーチンを目にしたら掌返しで興奮し、小雨で濡れた白い石灰が愛おしくなって、思わず頬擦りしてしまいました。


 
一般者が立ち入れるのは、通路状のわずかな区間のみ。大部分は立入禁止であり、その多くは温泉の流入が途絶えて乾燥していますが、それでも断崖がまるごと真っ白に覆われている光景は、なかなかフォトジェニックです。



上段の方は水たまりに足をつけて記念撮影する観光客で混み合っていましたが、温泉は上から流れていますので、ただでさえぬるいお湯は段を落ちてゆくに従いどんどん冷めてゆき、早々に単なる冷たい水と化してしまいます。このため、段を下るにつれて客の姿は少なくなり、みなさん段丘に立ち寄ること無く、黙々と歩いて村側ゲートへ向かって下るか、あるいはゲートから遺跡を目指して登っているばかりです。でも人混みが苦手な私にとっては寧ろ入浴の好機。そこで、いくつもの水たまりの中でも耐えられる温度が保たれていた箇所を選び、着替えポンチョを羽織ってその場で水着に更衣して入浴してみました。はっきり申し上げてかなりぬるい。せいぜい20℃台後半といったところです。こんなところで一人で入浴する私は相当奇特に見えたらしく、この場所を通行する観光客から次々にカメラを向けられてしまいました。そりゃそうだよなぁ。変わり者であることは自認していますから、カメラに対しては満面の笑みで応じ、おふさげポーズをとったりして、クレイジーな極東人の即席ピエロを演じたのでした。
水風呂に近い温度でしたので、はじめから長湯するつもりはありませんでしたが、私の入浴と同時に、上述の小雨が本降りとなり、肌寒さに拍車がかかってきました。このままでは風邪を引いてしまいそうだったので、この場での入浴は数分で切り上げて、石灰棚から退却することに。



私が入浴を切り上げて丘の上へあがり、雨宿りを兼ねて「アンティーク・プール」へ立ち寄り(次回記事で取り上げます)、雨脚が弱まったことを確認してから遺跡見学を済ませ、再びここへ戻ってくると、ところどころで雲が解け、傾き始めた太陽の紅光を受けて、白い石灰棚がほんのりピンク色に染まっているではありませんか。雲間から覗く青空のおかげか、棚田状の水たまりも先ほどより青みを増しており、グラビアで見るような純白と紺碧のコントラストが映える絶景に少し近づいているようでした。もうすぐ閉場時間だけど、もうちょっとこの光景を眺めていたい・・・


 
先ほどまで降っていた雨で客が一斉に帰った上、もうすぐ閉場時間というタイミングであるため、多くの観光客で賑わっていたパムッカレは一気に人影が減り、特にメインルートから外れると世界的観光名所とは思えないほど人影が無く、静寂で支配されていました。そんな中で一人佇んでいると、この絶景を独り占めしているような錯覚に陥ります。景色に心を奪われ、ただその場に立ち尽くす私。



黄昏時のパムッカレは実に秀麗。
波一つ立たない水鏡が、雲の上から照らされる秋の夕焼けを、鮮明に映していました。


カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉

GPS座標:N37.921908, E29.124728


パムッカレ-ヒエラポリス遺跡入場料:25リラ
石灰棚の立入可能ゾーンにて入浴可能(費用などは不要だが、更衣室などの設備は一切ないので、各自で準備。もし入浴するなら水着着用は必須)

私の好み:★★(景色は★★★)


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