温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

スミスクリークバレー温泉  Smith Creek Valley Hot Springs

2017年12月17日 | アメリカ
険しい道のりほど、目的地へ到達できたときの達成感はひとしおです。今回取り上げるネバダ州のスミスクリークバレー温泉(Smith Creek Valley Hot Springs)は、現地へたどり着くまでかなり迷ってしまいましたが、でもその苦労が報われて余りあるほど大変素晴らしい温泉でした。


 

ネバダ州中部の田舎町オースティンの西端から分岐する州道722号線に入り、道なりに北西へ車を走らせます。小さな飛行場を過ぎ、緩やかな丘を越えると、前方にはだだっ広い低地が広がりました。この低地には小さな湖があり、その畔に目的地である温泉があるはずです。上画像に写っている景色には青空が広がっているので暖かそうに見えますが、この日は5月中旬だというのに華氏32度、つまり摂氏0℃という寒さ。全身を震わせながら、ハンドルを握り続けます。


 
スミスクリークバレー温泉(Smith Creek Valley Hot Springs)のおおまかな場所はネットで調べておき、細かいことはGoogle Mapに任せようと考えていた私。携帯電話が圏外になることは想定できたので、予め地図をプリントアウトしておき、グーグルマップが指し示したルートをその地図上に書き写して、その通りに従って途中から未舗装路に入りました。初めのうちは走りやすかったのですが・・・


 
低湿地の未舗装路はやがて細くなり、轍も深くなって、ドロドロ且つ凸凹のとんでもない悪路になってしまいました。方角としては間違っていないのですが、このまま無謀に進んだら車をスタックさせて立ち往生しそうだったので、途中で引き返すことにしました。グーグルマップが指し示した道では、目指す温泉へ辿り着けそうにありません。どれだけ技術が進歩しようとも、ITには限界があるのです。


 
電波が届かず、細かな地図もないような僻地では、ITなんて役に立ちません。そこで一旦州道に戻り、湖を南側から迂回する形で、低地の西側へ向かうことにしました。この辺りは放牧地らしく、沿道では黒や茶の牛たちがのんびりと草を食んでいたのですが、そんな呑気な牛たちを尻目に、私は自分の勘を働かせ、なんとしてでも温泉を発見してやろうと、意気込んでいました。


 
低地をぐるっと廻り、州道が山道へ差し掛かろうとする手前に、上画像のような看板が立っています。この看板があるところでグイっと鋭角に曲がり、未舗装路へ入って低地の中を東進しました。先ほどの悪路から目指そうとして断念した地点を、逆方向からアクセスしてやろうという算段です。


 
牛たちがのんびり草をはむ牧場の真ん中を車で突っ切ります。砂埃を上げて走る私の車を、牛たちは「なんだこいつ」という半ば軽蔑の眼差しでジッと見つめてきますが、いまは冷たい視線を浴びても気になりません。なぜなら私の行く先には温かい温泉が待っているはずだから。
やがて右手に湖面が見えてきました。あの湖畔のどこかに温泉があるのです。


 
途中でキャトルグリッド(※)が複数個所現れます。
2ヶ所目のキャトルグリッドを通過して、しばらく進むと・・・
(※)キャトルグリッド:道路に鉄格子のようなものを埋め込むことにより、家畜の侵入を防ぐための設備。鉄格子の間隔が微妙に広く、しかも溝が深いため、家畜はその上を歩けないが、車のタイヤなら通過できるという便利なもの。


 
未舗装路に入って6.5マイル程の地点で、湖に向かって細い道が分岐していますので、そこを右折して細い道を南下していきます。結構な凸凹道ですが、気を付ければ普通の乗用車でも進めるかと思います。



上画像で写っているように、道の前方では白い湯気が上がっていますね。どうやら目的地に近づいているようです。



細い道の先に突如現れたのが、このトタンの家畜のタライです。水面の上から湯気が上がっていることからもわかるように、ここに張られているのはれっきとした温泉です。つまり家畜用のタライにお湯を張った簡易的な露天風呂なのです。



なんてフォトジェニックな露天風呂でしょう!
大自然のただ中にポツンと据え置かれたプリミティヴな露天風呂を目にすれば、マニアならずとも歓喜すること間違いありません。あまりに素晴らしい光景は、美しい絵画の世界そのもの。感動のあまり、しばらくその場で立ち尽くしてしまいました。


 
盆地状の低湿地の真ん中にハンドメイドで据え付けられた原始的な露天風呂。小屋など付帯設備は一切なく、トタンの大きな桶を転用したバスタブがあるだけです。なお露天風呂の目の前まで車をつけることができました。


 
露天風呂周辺は源泉地帯らしく、地面のあちこちから温泉が湧出していました。温泉の温かさが草の生育を促進させるのか、源泉やお湯が流れる水路の周りだけ緑が濃くなっていました。


 
 
いくつもある自噴源泉の中でも大きな源泉にパイプが伸びており、そこから露天風呂へお湯が引かれていました。湧き出たばかりのお湯の温度は68.8℃という高温です。湧いたお湯のすべてが露天風呂へ引かれているわけではなく、むしろ殆どが使われることなく、地面を流れ、川を成して自然へ帰っていました。



トタンの湯船は入れ子のような状態になっており、中の小さなタライにお湯が張られています。小さいと言っても直径2メートルはあり、2~3人は同時に入れそうな容量があります。湯船のお湯は無色透明ですが、底に少々の泥が溜まっているため、お湯を動かすとそれが舞いあがって若干濁ります。


  
源泉からお湯を導くパイプには白い析出がこびりついていました。この温泉には硫酸塩でも含まれているのかな。パイプから出てくるお湯をテイスティングしてみますと、微かな塩気、ゴムのようなイオウ感が少々、石膏感、そして僅かな芒硝感が得られました。なかなか面白いお湯だと思うのですが湯加減はちょっと物足りず、源泉で60℃以上あったお湯も、湯船の温度は34.3℃まで下がっていました。源泉から引かれてくるお湯の量が限られているため、どうしても冷めてしまうのですね。また配管にバルブのようなものも無いので、投入量を調整することもできません。もし熱い場合でも、薄める水が近くにないので加水することもできません。その時々の状況によって湯加減が上下するものとおもわれます。



何はともあれ、その場で着替えて入浴することに。
ふはぁぁ、きもちいい! 最高だぁ!
硫酸塩泉かあるいは塩化土類泉のようなフィーリングがあり、湯中では引っかかる浴感が肌に伝わってきます。ちょっとぬるいのですが、むしろそのおかげでじっくりと長湯することができました。お湯もさることながら、ここはロケーションが本当に素晴らしい。この上なく開放的な環境のもと、空や湖水の蒼、平原の翠、そして山々が戴く雪の白というトリコロールの色彩美が、私の心を魅了してくれました。日本では決して味わえないダイナミックでワイルド、そしてブリリアントな露天風呂でした。勘を働かせながら苦労して辿り着いた甲斐がありました。



GPS:39.315652, -117.549163

随時利用可
無料
野天風呂につき備品類なし

私の好み:★★★

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