温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

肘折温泉 西本屋旅館

2013年01月17日 | 山形県
 
雪が降りしきる年末の某日、仙台での所用を済ませて終日オフになった私は、山形県最上地方の肘折温泉へ向かい、吹雪の中を歩いて全身雪まみれになりながら、温泉のハシゴを実践してまいりました。どこからスタートすべきか迷っていたのですが、玄関に提げられていた「湯めぐり 只今入浴できます」の札に導かれて、まずは「西本屋旅館」で入浴をお願いしてみることにしました。



玄関に入って声を掛けてみますが、しばらくは何の反応もありません。それもそのはず、お宿の方は雪下ろしの真っ最中でして、やがて私の声に気づいた女将さんが仕事の手を休め、笑顔でお風呂へと案内してくださいました。そんなこととは露知らずにのほほんと訪って雪下ろしの邪魔をしてしまい申し訳ございません…。
館内はいかにも肘折らしい古風な湯治宿の面影を残す佇まいで、タイル貼りの共用洗面台がレトロな雰囲気を醸し出していました。


 
こちらのお宿には「金魚湯」と「岩風呂」という2つのお風呂があり、通常はそれぞれを男女に分けて利用しているようですが、この時は私以外にどなたもお客さんがいらっしゃらないので両方使って良いという有難い言葉をいただきました。2つのお風呂の中でも「金魚湯」はお宿の看板と言うべき名物なんだそうですから、まずはそちらから入ってみることにしましょう。金魚はお風呂のみならず宿そのもののトレードマークのような存在でもあるらしく、玄関の照明にも金魚が描かれていました。


 
棚と籠、そして腰掛けが備え付けられているばかりの実用本位でシンプルな脱衣室ですが、さすがに金魚をプッシュするお宿だけあり、室内の片隅には青い折り紙の金魚(青いから金魚じゃないのか…)が竹竿にたくさん吊り下げられていました。とっても微笑ましく可愛らしい飾りですね。


 
浴室はごく一般的な内湯のスタイルでして、洗い場には混合水栓が2基設置されており、うち1基はシャワー付きです。ホームベースのような形状をした五角形の湯船にはやや緑色を帯びた黄土色に濁るお湯が張られており、濁り方はとても濃くて底はほとんど見えないほどです。肘折でこの色や濁りといえば2号泉ですね。このお風呂では2号泉を単独使用しているそうです。浴槽や床は赤茶色に染まり、コンクリの浴槽縁は析出によって被覆されていました。



お湯がトポトポとパイプから湯船へ注がれており、温度調整のために蛇口から出る山水で加水されています。金気の味と匂い、土類系の味と匂い、そして薄い塩味や弱炭酸味が感じられ、肘折のお湯らしいスベスベ浴感が楽しめました。訪問時はお湯が溜まったばかりで、まだ誰も入っていないキリッキリの新鮮なお湯を堪能することができたのですが、女将さんは湯加減が心配だったらしく頻りに「ぬるくなかったですか」「温度は大丈夫でしたか」と声を掛けてくれました。確かに肘折のお湯にしてはやや低めの温度だったかもしれませんが、それでも体感としては41~2℃でして、身体には一番良い温度でしたから、肘折の他のお風呂みたいに熱さを気にすること無くゆっくりと全身浴することができ、むしろこの湯加減の方が個人的には嬉しく思います。

さて、ここまでは何ら変哲のない内湯なのですが…



湯船の隣には金魚が泳ぐ水槽が設けられており、入浴しながら悠然と泳ぐ金魚達を観賞できちゃうのが非常にユニークなのであります。ちょっとキッチュかもしれませんが、でも凄いよ、これ!


 
いままで沢山のお風呂に入ってきましたが、温泉に浸かりながら色鮮やかな金魚を鑑賞できるお風呂は初めての体験でしたので、ついつい興奮してしまいます。水槽のガラスはとっても綺麗で一点の曇もありませんでしたから、相当こまめにお手入れなさっているのでしょうね。元禄の頃の大阪(大「坂」と表記した方が正しいですね)の豪商は自分の屋敷の天井をビードロ張りにしてそこに金魚を泳がせていたそうですが、それに近いような非日常的で奢侈な体験に、しばしお大尽気分…。


 
もうひとつのお風呂「岩風呂」にも入ろうかと思っていましたが、「金魚湯」でたっぷり湯浴みして体が十二分に火照ってしまったので、こちらは見学だけさせていただくことに。


 
名前の通り周囲を岩でガッチリ組まれた男性的で剛健な感じがする浴室ですね。パッと見た様子では浴槽の容量も「金魚湯」より一回り大きいようです。洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基設けられています。


 
湯口から注がれるお湯は、2・3・4号の3源泉混合のお湯。モスグリーン系の黄土色に濁っていました。長い年月を経て付着したコテコテな析出によって湯面近くの岩はクリーム色に染まり、石板が埋め込まれている洗い場の床の目地も析出ですっかり埋まっています。析出を見ると涎が出ちゃう温泉ファンには堪らない光景かもしれません。

お湯から上がった後も、雪下ろしの途中にもかかわらず女将さんは再び玄関まで下りてきて、湯加減について気をかけてくれたり、訪問日の時点ではまだ通行止だったバス通りについてお話してくれたりと、一見の客である私に色々と気配りしてくださいました。肘折の方はみなさん本当に親切ですが、こちらの女将さんはまさにその好例で、おかげさまで肘折における湯めぐりを気持ちよくスタートすることができました。岩風呂はまだ未湯ですから次回は宿泊がてらそちらにも入ってみたく思います。


・金魚湯
組合2号泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 86.4℃ pH7.4 蒸発残留物4012mg/kg
Na+:1233mg, K+:103.6mg, Mg++:37.6mg, Ca++:134.1mg,
Cl-:1343mg, SO4--:287.6mg, HCO3-:1356mg,
H2SiO3:196.7mg, HBO2:47.1mg, CO2:90.5mg,
(平成14年3月6日)
温度調整のため山水を加水

・岩風呂
組合2号・3号・4号混合
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 64.6℃(貯湯槽、2号85.1℃, 3号75.6℃, 4号65.5℃) pH7.3 蒸発残留物3053mg/kg 溶存物質3586mg/kg
Na+:944.1mg, K+:77.5mg, Mg++:28.6mg, Ca++:88.6mg,
Cl-:1066mg, SO4--:242.2mg, HCO3-:920.8mg,
H2SiO3:148.0mg, HBO2:61.3mg, CO2:181.2mg,
(平成22年7月2日)  

山形県最上郡大蔵村大字南山522
0233-76-2316
ホームページ

日帰り入浴時間不明
300円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« あゆり温泉 | トップ | 肘折温泉 三浦屋旅館 »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
女将さん (おんせんたまご)
2013-01-20 18:43:03
いつもだまって拝見しておりました。
昨年の今頃、大雪の肘折温泉に2泊して湯めぐりを楽しんでいました。

私もここの女将さんの優しさ、温かさを感じて今度は泊まりで伺おうと思いました。

感じ悪い女将さんの宿も一軒ありましたが、日帰りでの応対で泊まるかどうかを決めている私です。
しかし、肘折はほとんどの宿があたたかですよね。
返信する
Unknown (K-I)
2013-01-21 01:09:02
おんせんたまごさん、こんばんは。
肘折の方はみなさん本当に温かく迎えてくださるので、慣れぬ旅先でも安心して湯めぐりできますよね。たかが日帰り、されど日帰り。日帰り入浴はお宿にとって単なる副収入のみならず重要なプロモーションでもありますから、おっしゃるようにその対応の良し悪しが次回以降の宿泊先選定に影響しますし、拙ブログ等で他の方に勧めたくなる大きなファクターにもなります。更にはその土地への印象をも左右しますね。
返信する
参考になります (あっぷるミント)
2014-04-18 16:31:00
5月にお初、肘折温泉行ってきます。
温泉が楽しみ!
湯浴みしながら金魚鑑賞なんて想像つきませんが
とても参考なりました。
外湯も基本、泉質は同じのようですが旅館によっては雰囲気も違いますので時間あればいろいろ回りたいと思ってます。
返信する
Unknown (K-I)
2014-04-18 22:24:42
あっぷるミントさん、こんばんは。
来月初旬に肘折へお出かけになるんですね。その頃ですと、まだ山肌には雪が残っているかもしれませんが、道中ではきっと桜が見頃を迎えてさぞかし綺麗でしょうね。
肘折温泉はそれぞれのお宿がいろんな個性を出していますので、仰るように使用源泉は同じであっても、巡ればめぐるほど楽しみも増えていくんです。しかも温かいお宿ばかり。
お宿によっては自家源泉を所有しているところもあり、共有源泉とは一味違う浴感を楽しめますので、訪問の際にはその辺りもお調べになってから湯めぐりなさると、より楽しめるかと思います。
お気をつけてどうぞ。
返信する

コメントを投稿