温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

かもしか温泉 (2010年夏・東北野湯めぐり)

2010年09月12日 | 宮城県

8月下旬の猛暑日が続く中、いつものように一人で、宮城蔵王の有名な野湯「かもしか温泉」に行ってきました。絶景でしたがちょっと怖かった…。



蔵王エコーラインを上がって賽ノ磧駐車場に車をとめます。空はちぎれ雲が僅かに浮かぶだけの快晴。下界は35℃という狂気じみた暑さでしたが、山は半袖でちょうどいい位の涼しさ。ちょこっと歩く分には快適ですが、山歩きには日差しが強く、かなり暑くなりそうです。駐車場は2~3台がとまっているだけ。人影見当たらず。
トレッキングシューズに履き替え、水もたっぷり用意、雨具も万全、熊除けの鈴も装備して、いざ出発。

 
賽ノ磧の登山道入り口。道しるべにはちゃんと「かもしか温泉」の文字が。


最初の15分はほぼ平坦な歩きやすい舗装道です。とても爽快。蔵王山の稜線もきれい。


 
やがてコンクリのベンチ&テーブルが設置された展望台に到着。舗装道はここでおしまい。
赤く錆きった鉄製構造物がありますが、これはかもしか温泉が泡雪崩で吹き飛ばされて廃業するまで使われていた物資運搬用ロープウェイの残骸。ケーブルもまだ張られて残っています。これから目指すはこのケーブルの終点。

 
ここからは登山道。まずは谷底を流れる濁川まで一気に下ります。
絶好の夏山シーズンだというのに、登山者は私以外誰もいません。遭難しても誰も見つけてくれそうにないな…。一抹の不安がよぎります。通る人が少ないのでしょう。藪がすごいです。


ロープウェイの残骸から約10分(駐車場から25分)で見晴らしのよいところへ出ました。谷底や、これから進む対岸の山の様子がよくわかります。でも山から吹き下りてくる風が強くて飛ばされそうなので、藪に身を隠すべく先へ進みました。


鵯越のジグザグ道をどんどん下ります。復路はこの道を登らなきゃならないのかと思うと憂鬱だ…。途中落石箇所がありますが、気をつけて越えれば問題ありません。


川に出る手前に右へ分岐する道があります。そちらへ進むとすぐに湯殿山神を祀った石碑に突きあたって行き止まりです。南東北には湯殿山の碑があちこちにありますね。
ここは広場になっているので休憩には良い場所かもしれませんが、無駄な体力を使いたくなければ分岐を道なりに左へ。

 
濁川に出ました(駐車場から35分)。川に突きあたったところからちょっと上流側には、アルミの梯子にベニヤ板を載せた簡単な橋が架かっていました。これで対岸へ渡ります。


上流側を見上げると、蔵王の御釜から流れ落ちる滝を眺めることができました。火山性の成分がたっぷり溶け込んだ御釜の水が流れて濁川になっているのですから、川の石が金気の沈着で赤く染まっているのが納得できます。


 
S字をそのまま山に寝かせたような形で折り返す道を登り、ある程度まで登ったら、山腹をトラバースするような感じで奥へ進んでいきます。
左側の画像は草叢ではなくて登山道を撮ってます。この辺りになると藪がひどくて道がほとんど消えてしまっているので、目をよく凝らして、藪の下に埋もれた道を注意深くみつけていきます。春か秋なら藪はこんなにひどくないのかも。それにしても本当に鬱陶しい藪だ。ところどころ石の階段があると、藪から解放されるのでほっとしました。
空を見上げると、進んでいる方向にロープウェイのケーブルも張られているので、この方向の先にはかもしか温泉があるんだな、と確認することができました。


濁川から20分(駐車場から55分)、右側からせせらぎの音が聞こえてきたなと思ったあたりで、橋の架かった小さな沢を渡ります。今までひどい獣道だったのに、いきなり立派な橋が現れたのでビックリ。橋があるということは、正しい道を進んでいる証拠ゆえ、藪こぎしながら進んできた道が間違っていなかったことに安心安堵。
画像の上の方に黒い筋が写っているのがわかりますでしょうか。これが30年近くも放置されっぱなしになっているロープウェイのケーブルです。

 
橋を渡って2~3分で峩々温泉方面への分岐点です。道しるべが立っていたようですが、肝心の方向を示す板が外れていて、どの道がが何方面かわからない状態でした。地図を見ると、右が峩々温泉、まっすぐが名号峰や追分方面のようなので、ここは直進です。
前方には目的地である新噴気口一帯のガレの斜面が見えてきました。


 
すると、すぐにかもしか温泉跡地に到着です。駐車場からちょうど1時間。この跡地は、ロバの耳方面と名号峰・追分方面の分岐点にもなっています。ロバの耳方面は崩落の危険性があるため通行禁止になっていますが、目指す野湯はそのロバの耳の手前にあるので、ここから先は自己責任でロバの耳方面へと進みます。

 
跡地には「羚羊温泉」と彫られた墓石のような小さな石碑が立っていました。建物の形跡は皆無、石垣が残るばかりで、それらも藪ですっかり覆われていました。今から30年前まではここに旅館があっただなんて、ちょっと信じられませんね。行きつくだけでも大変です。八甲田山中の田代元湯のやまだ旅館みたいに、ここも相当な秘湯だったのでしょう。
跡地から先は藪の他に灌木も茂っているので、ますます道が判別しにくい。道を見失ってしまいそう…。


温泉跡の敷地を外れたと思しき辺りで、道に水が流れ込んでくる箇所があったため、もしやと思って水が流れてくる方を遡ったら、ありがたい水場がありました。冷たくておいしい水です。ここでしっかりボトルに水を補給。なお道から見えにくい場所にあるのですが、上述の通り、道に水が流れ込んでくる場所があるので、その付近を探せばすぐに見つかるはずです。


沢を徒渉。といっても岩を飛び越えちゃえば問題なし。増水していなければ楽勝です。


藪と灌木の斜面を登り、跡地から10分(駐車場から1時間10分)ほどでいきなり視界が開けます。蔵王の新噴気口のガレです。目的の野湯はこの噴気口のガレにあるわけです。


はやる気持ちを抑え、まずは帰路をチェック。道しるべも何もなく、ガレには道すら無いので、藪の道入口をちゃんと確認しておかないと、道を見失って帰れなくなります。ちょっと離れたら、藪のどこに道の入口があるのかさっぱりわかりません。幸い入口付近の木の枝に赤いテープが結んでありました。ここが帰り道の入口であるとよく確認して、さぁガレへ。

 
ここは火山活動中のいわゆる地獄地帯。あちこちでフツフツと音を立てながら熱湯が湧いているので、足元を気をつけないと、湧出地に滑ったり、表土に隠れて見えないボッケ(熱湯が湧いているところ)を踏み抜いたりして大火傷を負ってします。かといってここのガレ場は道が消えちゃっているので、どこを歩けば安全なのかわからないし、自分の位置の把握も難しい…。
そこで、遠回りですが、とりあえず草が生えているところ(つまり地温が熱くないところ)を歩き、ガレでは途中に拾った木の棒で地面を突きながら、隠れている熱湯箇所(こういう所はえてして柔らかくなっている)を避けて歩くようにしました(実際には隠れボッケには遭遇しませんでした)。



音を立てて真っ白い蒸気と火山ガスを噴き上げている噴気口の真下に、今回の目的であるかもしか温泉の野湯、というか湯溜まりがありました。出発から1時間15分で到着。
先人が造った湯船は、ブルーシートを張ってお湯を溜めたもの。ちょっと前までは湯船が何ヶ所かあったようですが、訪問時にはひとつしかありませんでした。


ここの素晴らしいところは、何といっても蔵王から見下ろす絶景。高い位置にあって、周囲はガレなので視界を遮るものは一切なし。温泉に入りながらはるか遠くまで見渡せるこの上ない展望風呂です。天国の上にいるみたい。日本にはこんな温泉があったんですね。


湯温は41.5℃で、天の恵みというべき絶妙な湯加減。結構浅めでお臍くらいまでしか浸かれませんが、まぁ野湯ってそんなもんだと思います。お湯は無色透明ですが、人が入ると攪拌されて底の硫黄分を含んだ泥が舞い上がって白濁し、そしてぬるくなります。噴気孔直下で湧出したお湯なので強酸性かと想像していましたが、弱酸味+弱苦味+えぐ味という意外な薄さ。硫化水素臭はしっかり。泥湯的な粉っぽい浴感。



のんびり浸かっていたかったのですが、
・すぐ上に噴気孔があって硫化水素ガスが噴出している。中毒の危険性あり。
・真上には岩が迫って聳え立っており、不安定な岩や石がゴロゴロしているので、落石の危険性がかなり高い。特に湯溜まりがある場所は落石の通り道になりやすそうで、もし落っこちてきたら即アウトだろう。
・一人で山奥まで来ているので、ものすごい孤独感・孤立感に襲われて怖くなった。目標に到達するまでは旺盛な好奇心や冒険心が恐怖感を隠すが、目的が達せられると後は恐怖感しか残らなくなる。

といった理由で、30分ほど湯浴みしたところで帰ることにしました。湯浴み中は谷から上へ吹き上げる風が吹いていたのですが、帰ろうとしたら風向きが逆になって、噴気孔から出るガスがモロに私へ直撃する形になっちゃたので、大慌てで避難。こんなところで倒れるわけにはいきません。


↑画像は濁川の左岸の山腹から駐車場がある賽ノ磧方向を見上げた様子。あぁ、帰るには谷底へ下って、一気に山を登りきらなきゃいけないのか…。

帰路は来た道を戻るだけなので迷いそうになることもなく、濁川を越えてからのジグザグ登り坂も思ったほどキツくなかったので(急な登りの連続であることには間違いないです)、野湯を出てから1時間5分で戻ってこられました。ネットを見ると、皆さんは登りのキツい帰路の方が時間がかかっているようですが、私はなぜか逆の結果に(往路1時間15分、復路1時間5分)。無事にとっとと生還したいがため、帰りは知らぬうちに早歩きになっていたのかも。



宮城県柴田郡川崎町 地図 ←この地図は現地までの登山道をかなり忠実に表示してくれています

野湯につき無料
登山の準備をしっかりと。


私の好み:★★★

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6 コメント

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Unknown (アスペリティ)
2016-10-12 22:07:25
こんばんは。
来週末、天候が良ければ、かもしか温泉にトライしようかと思っています。
当方、登山の素人で単独で行く予定です。
経験豊富なK-Iさんでも、それなりに緊張感をもって訪問されたであろう様子が文面から伝わってきます。
登山の心構えが必要であることと、クマが気になるところですが、予め心しておくべきことが他にあるでしょうか?
アドバイスいただければ幸いです。
返信する
お気をつけて (K-I)
2016-10-13 01:22:19
アスペリティさん、こんばんは。
私がかもしか温泉へ行ったのはもう6年前なのか…。年月が経つのは本当に早いものですね。ブログの日付を見てビックリしちゃいました。よろしければ、お帰りになった後、現状をお教えくださいませんでしょうか。

気を付ける点ですが、クマ対策・水分確保のほか、道迷いに注意することでしょうか。人がほとんど通りませんから、道が消えかかっているんですよね。今はどうかわかりませんが、私が行った時には赤いテープが所々に巻きつけてあったものの、それでも迷いそうな箇所がありました。特に、温泉が湧くガレ場から藪の道へ戻る際、どこが道の入り口だか非常にわかりにくく、目印がないと迷うこと必至でしたので、自分で歩いてきた跡の要所要所に、目印をつけていきました(帰る時に回収しました)。あと、場所柄、温泉が湧くガレ場は落石の危険性があるのですが、こればかりは運任せですので、周囲の状況をよく確認しながら、神様に祈ってください(笑)。
無事に入浴を果たされますよう、願っています。

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Unknown (アスペリティ)
2016-10-13 22:52:08
K-Iさん、こんばんは。
アドバイスありがとうございます。
無事行って来れたら、連絡差し上げます。
一昨年行ったアトサヌプリの野湯が今でも忘れられず、あれと同等の開放感を勝手に想像しています。
天候が穏やかであればいいのですが。
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Unknown (K-I)
2016-10-14 14:36:50
>アスペリティさん
天気が良ければ、遠刈田はもちろん白石方面も一望できる大パノラマが広がりますので、あの野湯と同等かそれ以上の開放感があるかと思います。
秋も深まってきていますので薮はおとなしくなっているかと思いますが、どうぞお気をつけて楽しんで来てください。
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Unknown (アスペリティ)
2016-10-27 22:23:51
K-Iさん、こんばんは。
かもしか温泉に先週末行ってきました。

K-Iさんの辿ったあとを意識しながら歩きました。
途中、何箇所か川を渡渉しますが、いずれも架かっていたものが流されて、気を付けながら越えました。

行きは馬の背と反対の方に登ってしまい、少し無駄足しましたが、一時間半でガレ場に着きました。
噴気孔のあたりに着くと興奮の連続でした。
何箇所か浸かれる場所があるものとイメージしていましたが、入れる場所は一箇所。それも深さ20cmくらい。
それでも、温度は絶妙の42°Cほどで、根湯もできるし、紅葉も景観も素晴らしい。

たまたま仙台から来た登山者と一緒になり、その方は3年ぶりとのことでしたが、噴煙の勢いがはるかに増しているとのことでした。大涌谷の脇で入っているような感じです。

一時間ほど浸かって帰途に着きましたが、帰りも峩々温泉の方に少し入ってしまい迷ってしまいました。
アトサヌプリと同様の感動を得られました。

K-Iさんには、色々情報をいただき感謝申し上げます。

※かもしか温泉と関係ありませんが、今回泊まった堀久でご主人に蛇荒川折口源泉を案内してもらいました。これがなかなか良かったです。次はこの源泉周りをじっくり楽しみたいものです。
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Unknown (K-I)
2016-10-28 01:16:49
アスペリティさん、おかえりなさい。無事お戻りになられて良かったです。なるほど紅葉のシーズンですもんね。あの眺望に紅葉が加わると、さぞかし壮大で美しい景色になるんでしょうね。想像するだけでも興奮してきます。橋は流されていたそうですが、秋で沢の水量が少なかったために渡渉も問題なくできたのかと想像します。その一方、以前よりも道に迷いやすくなっているような気がします。以前より噴煙の勢いが増しているということは、やはり蔵王山の火山活動が活発化しているのでしょうね。
現状を教えて下さりありがとうございました。

>蛇荒川折口源泉
蔵王温泉でお泊まりでしたか。いろんな源泉があって面白いですよね。私はなぜか冬に行くことが多いのですが(ウインタースポーツとは無関係です)、この冬も行きたくて仕方ありません♪
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