温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

谷川岳の西黒尾根から土樽へミニ縦走 2017年8月 後編

2017年09月08日 | 旅行記
前回記事「谷川岳の西黒尾根から土樽へミニ縦走 2017年8月 前編」の続編です。



(↑地図をクリックすると拡大されます)
(昭文社『山と高原地図 谷川岳(2017年版)』の一部をコピーした上で加工。本記事に関係ない部分はモザイク処理しています)

 
【10:50 オキノ耳(谷川岳山頂・標高1977m) 出発】
10:25にオキノ耳に到着。本来なら360度の大パノラマが展開されているはずなのですが、この時の山頂は完全に雲の中。景色どころか、目の前の様子ですら掴めません。不貞腐れた私は岩の上に腰を下ろし、リュックから取り出したコンビニのおにぎりを頬張ってしばし休憩しました。本当はこの頂上でバーナーを使ってお湯を沸かし、温かいご飯を食べようと画策していたので、そのための器具一式も担いできたのですが、今回の山行ではこの谷川岳に連なる一ノ倉岳や茂倉岳といった山々をピークハントしながら群馬新潟の県境を越えて、新潟県側の土樽に下り、JR上越線の土樽駅から1日6本しか運転されない水上行の普通電車に乗って、自分の車を留守番させている群馬県側の土合まで戻らなければなりません。できれば土樽駅15:24発の水上行き電車に乗りたい。これを逃すと18:07発の最終電車まで待ちぼうけを食らうことになります。登山地図に記された標準タイムに基づいて計算すると、11:10までにオキノ耳を出発しないと、15:24発の電車に間に合いません。しかもこの悪天候ですから、標準タイムより時間を要することを想定しなければなりません。となれば、ここで悠長にお湯を沸かしている時間は無さそうです。何のために重い荷物(バーナーなど)を背負ってきたのかという虚しさ、そして苦労して登ってきたのに眺望というご褒美に微塵もありつけないという無念さに心が折れかかったのですが、自分に課したミッションをクリアすべく、己の心に鞭を打って、タイムリミット(11:10)の20分前に山頂を出発することにしました。


 
谷川岳を登る登山者の多くは天神尾根のピストンであり、オキノ耳で折り返してしまうので、山頂から北側は登山者が激減します。ひと気が無く、しかも分厚い雲に包まれた山稜の稜線上はちょっと不気味。もしここで遭難しても誰も気づいてくれないのかも。そんな不安を抱きながら、両側がストンと落ちている上越国境の尾根上を辿って北上します。前方視界はひたすら雲の中。


 
でもこの山稜は高山植物の宝庫。眺望は楽しめませんが、可憐な花々が我が心を慰めてくれます。


 
【11:00 富士浅間神社奥の院】
登山道を跨ぐ鳥居と小さな祠が祀られている富士浅間神社奥の院を通過。なおこの神社の中宮は、麓の谷川温泉にあるんだとか。
鳥居を過ぎたあたりで、少し雲が流れ、重畳する稜線の奥まで目視できるようになりました。


 
雲が切れた稜線東側の谷を眺望してみると、谷底を流れる湯檜曾川の谷が、直下の雪渓から落ちる一ノ倉沢と直角に交わっていました。そして雪渓の真上には、ロッククライミングの聖地である衝立岩がものすごい高度差で垂直にストンと落ちていました。一般的に川と川はY字形に合流するものですが、急峻な地形ゆえこのあたりの沢は直角に合流しているんですよね。その雪渓からさらに右へ視線を移すと、切り立った険しい尾根が谷川岳の山頂に向けて続いていました。この尾根は、私が先ほど登ってきた西黒尾根なのでしょう。よくもあんな険しい尾根を登ってきたものだと、その景色を眺めながら自分で自分を褒めたくなりました。


 
【11:18 ノゾキ】
稜線上を辿っていると、道の右側に「ノゾキ」と書かれた杭を発見。その名が示すように杭のところから下を覗いてみましたが、見えた景色は先ほどのものと同じでした。ノゾキといっても、別に卑猥なものが見られるわけではありません。けだし衝立岩を覗くならここがベストだよ、ということなのでしょうか。


 
谷川岳と一ノ倉岳の中間地点は鞍部になっており、標高が若干低くなるためか、比較的背の高い樹木の茂る箇所がありましたが、そこをすぎると再び笹原が広がり、一ノ倉岳のてっぺんに向かうキツい登りが始まりました。


 
その登りの途中で来た道を振り返ると、面白い現象が目の前で発生していました。私が歩いている登山道は、太平洋側(群馬県)と日本海側(新潟県)を隔てる三国山脈の稜線上に設けられているのですが、この時は南東から吹く湿った風の影響で、風が山に当たる太平洋側で白い雲が発生しており、稜線を挟んだ反対側の日本海側ではその風の影響を受けていないため、雲が無く、山裾に広がる緑がクリアに見えたのでした(右(下)画像)。上の左(上)画像では、向かって左側が太平洋側、右側が日本海側なのですが、稜線を挟んだ左側の太平洋側で雲が上向きに発生している一方、右側の日本海側では雲がなく、風の影響を受けていないことが一目瞭然です。この時は南東の風が吹いていたので、このような形になったわけですが、季節が変わって冬になれば、上述の関係が逆転して日本海側から北西の風が吹き、それにより日本海側の新潟県で雪雲が発生して豪雪になる一方、太平洋側の群馬県では晴天続きの空っ風が吹き続けるのでしょう。こんなにわかりやすく気象と地形の関係がわかるのも、登山の面白さのひとつかもしれません。



そんな気象現象を面白がることができたのも束の間。いままで小雨交じりの分厚い雲があたりを覆っていたのに、登りの途中で急に雲が晴れ、頭上に真夏らしい灼熱の太陽が現れて、鋭い陽光を我が体に浴びせ始めたのです。ついさっきまで降っていた雨のために足元はぬかるみ、また滑りやすい岩場も続くため、体力の消耗はもちろん、精神的なダメージが激しく、そんな状況で急激に暑くなったため、正直なところ、心の中で半べそをかき、ここで引き返したくなりました。でも、せめて一ノ倉岳のピークは踏んでおきたい、そんな気持ちで自分を奮起し・・・



【11:45 一ノ倉岳・頂上(標高1974m)】
重い体を引き摺るようにして何とか一ノ倉岳の頂上へ到達。緊急避難場所用の小さなシェルターがあるこの山頂からは中芝新道が分岐していますが、私は分岐せずに道なりに真っ直ぐ進みます。ここまでの登りで体力をかなり消耗したため、ゆっくり休んで体力を回復させたかったのですが、標準タイムに基づく計算では、ここを12:00までに出発しないと、土樽駅15:24発の電車に間に合わないので、疲労困憊の体を休ませることはできません。直射日光を浴びた登りでペースが落ち、時間の貯金が減ってしまったようです。仕方なく5分だけ、休んで先を急ぐことにしました。


 
滑りやすい登りで私を苦しめた灼熱の太陽は、頂上に至ったところで再び厚い雲に隠れ、それに伴い眺望も失われてしまいました。山の神様は私に嫌がらせをしているとしか思えません。でも一ノ倉岳から先の道は起伏が少なく、また尾根の幅も広がって道自体が歩きやすくなったので、これ以上体力が奪われることはありませんでした。また路傍に咲く可憐な花や、蜜集めに精を出す蜂たちの健気な姿に、折れかけていた私の心は救われました。


 
【12:05 茂倉岳・頂上(標高1978m)】
雲の中を伸びる坂道を登って、今回最後のピークとなる茂倉岳の頂上に到達です。道しるべが立っているだけの質素な頂上からは、蓬ヒュッテ方面と土樽方面の2方向に道が分岐していますが、私は後者を進みました。電車の時間が迫っているので、ここでは休憩していません。


 
それにしても、お盆休みだというのに、このルートには登山者の姿がほとんどいない。オキノ耳を出てからすれ違った、あるいは追い抜いた登山者は、計3人で、いずれも私と同じく単独行の男性です。こうしたひと気の少ない渋い山域には、一匹狼が似合うのでしょう。
頂上から茂倉新道という登山道を下って、土樽を目指します。笹薮に覆われて足元が見えにくい道ですので、滑らないよう注意しながら進みました。


 
【12:17 茂倉岳避難小屋】
茂倉岳の山頂から10分ちょっと下ったところで雲の中から姿を現したのは、茂倉岳避難小屋。避難小屋にしては立派な造りです。トイレもあるので、寝具と食料を持ち込めば余裕で夜を明かせるでしょう。



小屋の裏手には水場もあるようですが、水を得るためには薮の中を進まねばならないため、面倒になった私は水を汲むことなくその場を後にしました。


 
地形図によれば茂倉新道は尾根に沿って伸びており、土樽方面へは下り一辺倒であるように記されています。たしかに急な下りが果てしなく続くのですが、行けども行けども行く手の視界を濃霧が遮っているため、道の先がどうなっているのか、どのあたりを目標にして歩けば良いのか、まったく見当がつきません。しかも罠のように迷い道しやすい箇所がいくつかあったため、いま自分が進んでいる道が正しいのか不安が募ります。



滑りやすい箇所にはロープが張られていたのですが、こうした人工物によって、自分が歩いている道が正しいことを確認できるので、その都度安堵しました。


 
ひたすら急な下りの連続ですから膝に負担がかかるのですが、そればかりか、滑らないよう踏ん張るために爪先も痛くなってゆきます。途中で軽く藪漕ぎをしたり、登山靴がズッポリ沈むぬかるみや水たまりを通過しながら・・・


 
【13:12 矢場の頭(標高1490m)】
茂倉岳避難小屋から約50分、休憩することなく我武者羅に降り続けると、目の前に道標が現れました。ここは「矢場の頭」というポイントらしく、地形図を見る限り、非常に見晴らしが良さそうな立地なのですが、相変わらず周囲は濃霧に覆われているため、景色なんてちっとも望めません。足元に咲く小さな花だけが心の拠り所です。繰り返すように、電車の時刻の関係で今回の登山ではタイムリミットがあります。計算によれば、この矢場の頭を13:20までに出発しないと、私が乗りたい電車には間に合いません。滑りやすい下りでモタモタしてしまったため、この地の到着が13:12になってしまい、時間の貯金をすっかり費やしちゃいました。ここで休憩できる時間はわずか8分以内なのですが、脚の一部に痛みが発生していたため、時間いっぱいの8分間休憩し、13:20に腰を上げて再び下り始めました。


 
 
茂倉岳から矢場の頭までは笹薮の道でしたが、矢場の頭から下は樹林帯に突入し、鬱蒼と茂る大木の間を縫うように急な坂が続きます。しかも大樹の太い根が道の行く手を阻むのでとても歩きにくく、ある時は根を跨いだり、またある時は根をよじ登ったりと、アクロバティックなシーンの連続です。この茂倉新道は一筋縄では下らせてくれません。


 
木の根っこに邪魔されながらも屈せずに下ってゆくと、やがて植生が針葉樹から落葉広葉樹に変化し、それに伴い道も歩きやすくなりました。ところどころで粘土質がむき出しになっている箇所に出くわしたのですが、ありがたいことに、そのような場所にはロープが張られているので、それを掴みながら慎重に下って行きました。親切にロープを用意してくださっている関係者の方々に感謝申し上げます。


 
標高が1000mを切るあたりで、路傍に境界石が立ち始めました。頭を赤く塗られたその境界石には「日本道路公団」と彫られています。どうやらこの直下には関越道の関越トンネルが走っているようです。また、耳をすますと遠くの方から車の行き交う音が聞こえて来ます。関越トンネルの出口もここから近いのでしょう。でも音は聞こえども、その高速道の姿がちっとも見えてこない。山小屋は見えてからが遠いと言いますが、関越道に関しても似たようなことが言えるのでした。


 
関越トンネルの真上は非常に美しいブナの原生林。空気がとても美味しく、葉を透かして届く日の淡い光も実に秀麗。ブナの美林は疲れきった私の心身に活力を与えてくれました。


 
滑りやすい粘土質の坂を、ロープを頼りに下ってゆくと・・・


 
土樽駅の方向を指し示す道標が現れ、やがて道が平坦になって・・・


 
【14:45 茂倉新道・終端(標高693m)】
駐車場を兼ねた広場に出て、登山道(茂倉新道)の終端にたどり着きました。怪我することなく無事下山できたことに心から安堵。そして、自分の足で山脈を跨いで、太平洋側から日本海側へ越えられたことに満足。
ここから先は舗装路を約25分ほど歩いてJR土樽駅へ向かうだけです。矢場の頭では残り時間がほとんどありませんでしたが、その後は順調に時間を回復したらしく、タイムリミットより15分早く下山することができました。


 
道路の先には関越道の高架が見え、数多の車が行き交っていました。ようやく文明社会に戻ってこられたぞ。


 
途中で蓬峠方面への道と合流。その先には「安全登山の広場」と称する広場兼駐車場があり、登山届を投函するポストが設けられているほか、この山域の登山道整備などに尽力した高波吾策氏の銅像が建てられていました。また広場の向かいにある水場では、冷たくて美味しい湧き水がたくさん落とされていましたので、喉が渇ききっていた私はそこでグビグビ喉を鳴らしながら大量の水を体内へ補給させてもらいました。


 
【15:10 土樽駅到着(標高599m) → 15:24発水上行き普通列車に乗車】
魚沼地方の美味しいコシヒカリを育ててくれる魚野川の上流を越え、無事、電車出発時刻の14分前にJR土樽駅へ到着することができました。土樽駅は無人駅であり、券売機もないため、運賃は車内で車掌さんに直接現金で支払います。今回私が辿ったコースはお盆休みとは思えないほど登山者が少なかったのですが、長岡方面からやってきたE129系4両編成の水上行き普通電車は、お盆休み且つ青春18きっぷシーズンであるため、全ての席が埋まるどころか多くの乗客が立っており、そんな車内の光景を目にすることでこの日がお盆休みであったことを実感したのでした。


 
【15:33 土合駅(標高665m)】
私が8時間を要して越えてきた道のりを、JRの電車は清水トンネルであっという間にくぐり抜け、わずか9分で群馬県側の土合駅に戻ってきました。文明の利器って本当に素晴らしいですね。土合駅では電車と記念撮影をする多くの家族連れで賑わっていたのですが、綺麗な格好をしているみなさんとは対照的に、電車から降りる私はぬかるみを歩き続けてきたため足元が泥だらけ。一人だけ異様な姿をしていたため急に恥ずかしくなり、楽しそうな家族づれを横目に足早に駅から立ち去りました。



【15:50 土合口駐車場】
そして土合駅から歩くこと約15分で、出発地点である駐車場に戻ってきました。もうクタクタ、ヘトヘト。自分の車の前まで来た時、思わずその場でしゃがみこんでしまいました。
今回の山行は高低差も距離自体もかなりヘビーでしたが、その分、達成感はひとしお。天候には恵まれませんでしたが、克己心を養うができました。でもこんな登山は今度どれだけできることやら・・・。それどころか、温泉巡りも今後果たしてどれだけできるのか・・・。私に大きな影響を与えてくれた谷川岳を再び登ることにより、いろいろな意味で克己心を発揮し、自分を取り巻く環境と向き合いながら、趣味に対する姿勢を見つめ直さねばならないと確認したのでした。


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コメント (2)
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